第二章 十二剣聖

第14話 剣聖乙女たちの戯れ

 ……どう説明したらいいものか。目の前の少女の刺すような視線に胸を痛めながら、俺は都合のいい言葉を頭の中から探し出そうとする。が、


「よおおし、今日は一番乗りーィっじゃない!? 二番乗りでもない?!」


 再び部屋の扉が開いて、また別の奴が入ってくる。


「今日は随分早く来たつもりだったのになあ……クエリちゃんと……あなた誰? クエリちゃんのお友達?」


「違いますよ。ケイスさんも知らないんですか?」


「知らなーい。……新人さん? そんなわけないか」


「……あっ、もしかしたら、昨日報告のあった人ですか? 永住権が欲しいとかいう……」


「何それ聞いてない」


「いや、昨日イスカさんが持ってきたでしょう。今日の議題に関する連絡項……さては、読んでないんですね?」


「いや……読んだような気がする。うん、読んだ」


「じゃあ、三ページ目の六行目にはなんて書いてあったか覚えていますか?」


「いや、逆にお前覚えてんのかよ」


「当然です。──『最近事前に何の下準備もせずに会議に臨む不届き物がいる』、ですよ! まったく、前々から思っていましたが、あなたには"十二剣聖"としての自覚が……」


 俺のことなど眼中にないかのように、クエリとケイスと名乗った二人の少女は話を続けた──というより、傍からはクエリという少女が彼女よりも年上で背の高そうなケイスという少女にがみがみと一方的に怒っているようにしか見えないが。

 一しきり説教した後で、クエリは俺の方にキッと視線を向ける。


「……で、私の推測が正しければ、あなたはオスローさんが連れてきた人、ですね?」


「えっ、あ、はい」急に話の矛先を向けられたので、俺はしどろもどろであった。


「ええっ、何? オスローが連れてきた男だって? あいつ結婚でもするのか? ……なんだ、そういうことに興味無さそうだったのに、実は……実は! なのかしら?」


「んなわけないでしょう? 話を混ぜっ返さないでください。……あなた、お名前は?」


「……レイル・フリークです。ここに来たのは成り行きで……」


「レイルさんですか。成程。……ところで、そのオスローさんは何所に? パーゼル折衝地での戦闘中に怪我をしたと聞きましたが」


「……なんか、一旦自分の部屋に戻るとか何とか……その内来ると思うんですけど……」


 俺が無根拠にそんなことを言ったほんの数秒後、再び後方の扉が開いて人影が入ってきた──それはクエリではなく、随分と背の高い女性だった。


「……ガーン。今日こそは一番乗りだと思ったのに。ケイスちゃんに、クエリちゃん。それから……あなたは?」


 その女性はぼんやりとした表情で俺を眺めたが、ケイスが先に口を挟む。


「ああ、いいところに来た、コルトさん! 実はこの男、オスローの奴が連れてきた男らしくってね」


「ええっ、オスローちゃんが?」コルトと呼ばれた女性は目を丸くして驚く。「あらあら、意外。結婚でもするのかしら。あんまりその手の話に興味が無さそうだったのに、案外と……」


「ちょっと! コルトさんまでアホな反応しないでくださいよ! この人はオスローさんがエントリアへの在住許可証の審議をするために連れてきたんです、ですよね?」


「あっ、はい」俺はクエリの非難めいた視線に驚いて、間髪入れずにそう答えた。


 ギイ、という音とともに再び扉が開いて、ようやくお待ちかねのオスローが部屋の中に姿を現した。


「あれ、もうみんなと打ち解けてる?」


 オスローは意外そうな表情で俺の方を見るが、俺はハハハと乾いた笑いを返答の代わりにした。俺はオスローの横にそそくさと歩いて行って、耳打ちしながら、


「あーなんだ……この人たち全員、例の"十二剣聖"とかいう人たちなのか?」


と小声で尋ねてみる。


「あー、そうよ。ほら、みんな持っているでしょう? 聖剣を……」


 オスローは目の前の三人を小さく指さしてそう言った。言われてみれば確かに、三人とも腰のあたりに長い剣を帯びている──俺はつい先日の、オスローが剣を振るった時の光景を思い出していた。あの冗談のような破壊力、衝撃。聖剣に選ばれしものの能力。とすれば、目の前の三人もまた、オスローと同じく途方もない力を秘めているとでもいうのだろうか……。


 俺が三人をまじまじと見ていると、灰色の髪の少女ケイスが一歩前に出て、舞台女優のような演技じみた口調で、


「初めまして、レイス。"十二剣聖"のたまり場へようこそ」


と宣うと、如何にもわざとらしく頭を下げて一礼した。

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