第17話 僕と幼馴染と願いの結晶 後編―1―

〖本当に好きな人―06―〗


何故、彼女は泣いていたのだろうか――――――。

僕は知らないうちに彼女に何かしたのだろうか?

でも、彼女についての記憶は全くない。

「………………この写真を見て泣いたって事は、やっぱりこの写真に何かあるのか?」

僕は写真を取り出す。写っているのは僕と天咲さん。ジェットコースターの頂上付近、下る寸前の所だ。

でも、この写真をみても僕は何も感じないし思い出せない。

「………………まずは、現場に行ってみるか。何か思い出すかもしれないしな………」

そう言って僕は家を出た。

向かうは、廃工場だ――――――――――。




〖本当に好きな人―07―〗


「…………ここか…」

……………薄気味悪い所だな。かなり埃を被っているし、長年使われていなかったのだろう。

「……………で、ここに入ってからの記憶が無い………と」

つまり、ここで僕に何かがあったという訳だ。

……………?

これは……………?

「……………うっ!!う、うぅぅぅ!」

これは、血の跡か…………?

もう、乾いているな………。それに、これを見ると頭が痛い。

なんで、こんな所に血痕があるんだよ………。



「……………影里?」



「………え?天咲さん………?なんで、ここに?」



「そ、それは………………」



「あれぇ?影里かぁ。なんで、またここに来た?」



また……………?



「……………お前、なんで僕が一度ここに来たこと知ってるんだ?」



「………あぁ!!そうか、お前記憶失ったんだってなぁ!へっ…………いい気味だぜぇ……」



「………てことは、勿論ここで起こった事もわすれてんだよなぁ?」



「…………ここで、起こった事?なんだ……それ」



「天咲さん、少し下がれ。………なぁ、影里、ここであの夜の事を思い出させてやるよ!!」



「……………あの夜?」

あの夜って、僕がここに来た日の事か?

ということは、こいつ………三辻は、何か知ってるんだ。…………出来るだけ、情報を聞き出そう。


「………なぁ、三辻。僕は、あの夜ここに来てお前と会っているのか?」



「そうだ…………会ってんだよ、オレとなぁ!!そして、ここで…………お前は、頭を殴られたんだよ、ざまぁねぇなぁ!」



「……………つまり、僕はここに来た時にお前と会っていて、頭を殴られたのか?」



「あぁ……………ちと、違うなぁ」



「……………?何が違うんだよ……」



「お前の頭を殴ったのはオレじゃねぇ。まぁ、誰に殴られたかなんか自分で考えとけ」



「…………まぁ、次は天国に送ってやるよ!」



「…………………くっ!」

三辻は、ナイフを構え走ってくる。迷いのない走りからは威勢が感じられる。

こっちも、反応しないと!!

僕は、走ろうと足を動かした時だった。

頭に激痛が走った。

「うっ!あ、頭が………っ!なんで、こんな時になんだよっ!」

僕は、あまりの痛さに膝を床に着いてしまった。

脳の一つ一つの細胞がヂリヂリとちぎれていくかの様な痛み。

「…………やべっ……逃げ……ねぇと………!」

立ち上がろうともう一度足を踏ん張る。

「…………ぐぁっ!!くそっ………駄目だ、ここで倒れる訳には………っ!」

しかし、また倒れる。退院してからあまり日も経っていないので足腰も以前より弱くなっている。

それに加え、激しい頭痛。

僕は、初めて"死”の恐怖を感じた。

「…………死ぬのか…………僕は、こんな所で」

三辻は、走る事を止めない。むしろ、速くなっていっている。このままでは、確実にやられる………。

死の恐怖に打ちのめされ、絶望が身を支配していった時だった。











僕に、一筋の光が差した。








そこには、天咲夢乃が居て。












「……………影里柊太。立って?私の……………」












「…………………英雄……………っ!」














そんな言葉を、僕にかけて。














優しく微笑み、手を伸ばしてくれた――――――。







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