第10話 僕と幼馴染とReviving memory ―後編―

〖夏休み―07―〗


「………疲れた……」

もう、一生分動いた気がする。宿に戻るまでの道のりすら面倒だと思えてくる………。

「私も疲れたぁ!………けど、柊太とこんなに思いっきり遊べて、凄く楽しかったよ!!」

「………僕もだ。楽しかったよ」

本当に全身は痛いが、その分得られたものが大きい。夢乃の笑顔とか笑顔とか笑顔とか全部。

「……さて、そろそろ宿に戻るか。お腹も空いたし、何より、お風呂に入りたい……」

「そうだね。じゃあ………宿までさ、手……繋いで帰ろっか?」

…………うん、カップルなら当たり前……なんだよな?

「良いぞ。繋ごう」

僕達は宿に向かって歩き出した。


〖夏休み―08―〗


「……………まだ、帰ってない?」

とある宿屋のロビー的な空間。そこに、1度着替えを済ませた僕と夢乃はいた。

「うん………スタッフの人に聞いたら、夕方の5時頃に1度私服に着替えてからまたどこかに行ったって……」

それはまずいな。今は午後8時過ぎ。確かに女子高生ともなるとこの位で騒ぐほどのことではないが、なにせよ、あの時坂だ。時間にこれまでルーズなはずがない。連絡の1つはいれると思うし、急にいなくなったってのも不自然だ。それに………日焼け止めだって、塗る前に消えてしまった。

「時坂さんも、ここに来るのは初めてだと思うし、道に迷ったんじゃないかな?ここら辺、広いしさ」

「………だとしたら、もっと危ない。分からない土地で何時間も彷徨っているのは危険だ」

となれば、するべき行動はただ一つ。

「僕が、あいつを探してくるよ。もし、あいつが戻ってきたら連絡をくれ」

「なら、私もっ!!」

「………夢乃は待っていてくれ。夢乃まで、危険な目に僕はあわせたくない」

「………うん。分かった……。早く、戻ってきてね?」

「……あぁ、任せろ……っ!!」


〖夏休み―09―〗


「………どこなんだよ………っ!」

くそっ!!わからねぇ!………どこにいったんだよ!流石に場所を特定するのは難しいな……。

……あいつの行きそうな所………っ!

僕はまず、今日1日のあいつの言動を思い出してみることにした。…………ダメだ。何一つヒントになるものは無さそうだ…………。

「くそっ!!………………………まてよ?」

僕は辺りを見回す。……………まさか……!

宿の後方に広がっている林………そうか……。

ここは、4年前に僕が林間学校で訪れた場所にそっくりだったんだ…………っ!!

「…………あの日も、確か……ということは、あいつが………」

もし、これが本当なら時坂はあの林の中にいるのかもしれない……………。


〖夏休み―10―〗


「時坂ーっ!!どこだ?!返事をしてくれーっ!」

本当にただの予測だが、これが当たっていれば時坂はこの林の中にいるはずだ。

「…………確か、あの日は……」

と、僕が過去に思考を巡らせていると不意に後ろから声が聞こえた。どこか懐かしい声――――――。


「"しゅー君”………………?」


「………やっぱ、ここに居たのか時坂……」

ようやく見つけた時坂は、こちらに笑顔を向けてくれた。

「…………なんで、わかったの?私がここにいるって」

「………お前、4年前ここに来てただろ」

「………うん」

「キャンプファイヤーの夜、列からはぐれただろ」

「…………うん」

「………………僕に、会ってただろ」

「………うん」

「………これ、お前だろ?」

そういって、僕は胸ポケットに入っていた1枚の写真を見せた。

「……まだ、持っていてくれてたんだ」

「……僕が、初めて惚れた相手……だからな」

そう、4年前のあの日、1人で迷っている少女を僕は見つけた。どうしたのか聞いてみると、"みんなとはぐれちゃった”………と。ひとまず、林から出ようとしたところ少女は足を捻っているという。

だから、僕はその夜、少女をおぶってどうにか出口まで向かった。その間は少女を心配させまいと沢山、話をした。

………まぁ、結果的には僕はその後自分の学校の先生に怒られたんだけど。

「…………この写真って、最終日だよね?」

「あぁ、そうだな」

お互いに全く違う学校だったのに、帰る日は同じだった。近くの宿舎ということもあってか、もう一度、会うことが出来たんだ。

「…………そこで、別れ際に写真を撮ったんだよね」

「…………あぁ」

そして、最後に……………。

「最後に…………キス……したんだよね。名前も教えて貰って。だから、"しゅー君”って」

「…………そうだな」

そう、こいつ…………時坂が、僕の初恋の相手であり、ファーストキスの相手だったんだ―――――。

「だから、私、高校に入って同じクラスで隣の席が、しゅー君でとっても嬉しかったんだ。……だから、どういう態度をとれば良いかも分からなくって…………。そして、しゅー君には、とっても素敵な彼女………夢乃さんが居て……。応援しようって思ったの……。でも、諦めきれなくて………。だから、最後に確認しようって思った。私との記憶は残ってるのかなって…………」

時坂……………っ。

「………でも、良かった!……ちゃんと、見つけてくれた。…………ありがとう、しゅー君。私を見つけてくれて…………」

「……さ、夢乃も待ってるし、帰ろっか」

「…………、うんっ!!」

僕達は林を出るまでの間だけ、手を繋いで帰った。

おぶってはいないが、まるで、あの日の様に――。




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