第24話 武道大会(崩壊)
アマリンは意識を失い、うなだれたように脱力している。
「キサマら、どういうつもりだ」
「どうもなにもない。見ての通り、お友達と仲良くさせてもらってるだけさ」
「アマリンに……!」
「おっと、声の大きさには気を付けなよ、びっくりしたら手元が狂っちまうかもしれねーぜ?」
オレは魔剣を抜き放ち、テトロへと一気に接近する。テトロも小剣を抜き、数合打ち合うと、
「アマリンに何をした!」
「それはてめーら次第だろ?」
攻めるに攻められないこっちに対し、敵チームは容赦なく攻撃してくる。ミズキは回避と防御に専念。ワイバーンは爆風でまだ混乱していて、メラルドの指示も届かない。おのずと防戦一方になってしまう。
「こんなことまでして勝ちたいのか?」
「別に、こんなに大会にこだわりなんてねーよ」
テトロは冷たい視線で告げる。
「どんな手を使ってでも、てめーらをどん底に突き落としたいだけだ」
今ある名声が落とされたわけじゃないのに、手に入らなかった手柄を妬んだだけで、ここまでするのか? 頭おかしいんじゃないか?
「お前、二年前にスツヌフ王国から失踪した、クロス・リュートだろ」
一瞬、体が硬直する。なぜそれを知っている?
「表向きは問題なく遠征部隊と一緒に旅立ったことになってるがな、魔法王は俺達みたいな実力者には、てめーを探させてたんだよ、
あまりに突然のことに体が、頭が動かない。
「てめーはもう終わりだよ。負けろよ。無様に」
オレは一度跳びすさる。
どうする、このまま負ければ、オレの目的はかなりの予定変更を強いられる。戦力で見れば、オレと
どうすればいい? 今、一番優先すべき事柄は? オレの最終目的はなんだ?
オレは、テトロに向かって飛び出した。
「やれるものならやってみろ!」
魔力を込めた剣でうちかかる。テトロの魔術に集中させる暇など与えない。
しかし、テトロの小剣での打ち上げに当てられ、
『しまった!』
呟いて見上げるが、剣は彼方上空。
「どうやらまだ痺れ薬が効いてるようだな」
口ほどにもない。そう言いながら繰り出す剣閃を、身を反らしてギリギリかわす。
テトロは、得物を失ったオレをどう料理しようか考えているようだ。
オレは身構えながら、不自然なほど高く上がった剣に意識を集中させる。
観客席は、防護魔術によってフェンスのように囲まれている。当然、観客を守るためだ。その防護魔術を破壊するほどの強力な魔術や技は、試合では使用禁止のルールになっている。しかし、防護魔術は無限に上に続いているものではない。剣が防護魔術の高さを越えた瞬間、オレは今の魔剣で唯一使える魔術で、それをさらに操る。魔剣は、アマリンの背後にいる男に向かって一気に加速した。
オレの目的は、二度と後悔しないことだ!
アマリンを助け出し、同時に試合にも勝つ! 諦めたりしない! 可能性がある限り!
オレの狙いに気づいたか、テトロがアマリンの方を見るが、遅い。アマリンの乗る車椅子を押す男を牽制し、時間を稼げば、その間に試合に勝ってアマリンを助けられる。
助けられる、はずだった。
剣の不自然な動きに直前で気づいた男は、アマリンの乗る車椅子を思いっきり蹴り飛ばすことで、後ろに下がった。魔剣はかろうじて、その男の足を斬りつけた。
その時にはアマリンは、階段に向かって大きく放り出されていた。
そのとき、貴賓席横の特別席から閃光と共に、何かが飛び出した。
『
しかし、アマリンは急な階段に叩きつけられ、転がっていた。
止まらない。二度、三度と階段にぶつかり、転がる。
防護魔術を貫いて飛んだ〈拳武〉が跳ねたアマリンを抱き止めたのは、その直後だった。
無傷とはいかないだろうが、人質を取り戻せたのは大きい。
しかし、その直後に聞こえてきた〈拳武〉の呟きに耳を疑った。
「これは……心臓が、止まっている……?」
オレ達三人の動きが止まる。
「すぐに救護班を呼んでくれ!」
〈拳武〉が近くのスタッフに叫ぶ。
オレ達の動揺が伝わったのか、ワイバーンが錯乱して暴れ出した。
「空牙!」
ワイバーンの名を呼ぶメラルドの制御も振り切り、〈拳武〉が破った防護魔術を抜けて、貴賓席へと突撃していった。貴賓席は特別な防護魔術で守られていて、それにはじかれたワイバーンはその衝撃で理性を取り戻したか、メラルドの元まで戻ってきた。
メラルドはその足に掴まり、アマリンのところへ飛んで行った。場外に出れば失格となるが、それどころではなかった。
「おいおい、観客まで巻き込むなんざ、とんでもねー奴らだな」
テトロが観客にも聞こえるように言い放つ。
「もしかして〈拳武〉シャルアもグルじゃねーのか? アイツが政治家の皆様を危険にさらしたようなもんだろ」
オレの意識が、怒りで赤黒く染まった。
何を言ってるんだコイツは。他人に危害を加えることに何の良心の呵責もないのか。いや、オレは知っている。こういう種類の人間を。前世の。恨みを。後悔を。
コイツは、殺す、殺さなければ。
「止めるんだ」
いつの間にか握っていた
「今ここではマズい。一度たてなおすぞ、クロス」
冷静なシャールの声が、オレを苛立たせる。
シャールは、〈拳武〉シャルアだった。知ってしまえば驚くことでもなかった。ドラゴンと直接対峙するようなところに無力な者が行くはずもない。本当は、監視であり、護衛も兼ねていたわけだ。
「アイツは、ただの害悪、死ぬべき人間だ」
「それには同意するよ。でもね、ここではダメだ」
「ふざけるな、今が絶好のチャンスだろ」
オレの魔力が魔剣に流れ込み、そのポテンシャルを最大まで引き上げる。
「こんな衆人環視の中で殺人を犯してみろ、君の本来の目的はさらに遠のくぞ」
本来の目的?
「君は魔法王を倒すんだろ」
オレはシャールを見た。力強い、真っ直ぐな視線。
「あては、あるんだろうな」
「当然」
オレは振り向き、へたり込んでいるミズキへと駆け寄る。彼女を支えながら、シャールへたずねる。
「アマリンは?」
「メラルドに任せてある。落ち着いたら合流しよう」
ゴーレムを破壊したあとミズキと代わって二人の
『
「さてさて皆さん、我らは一度退場するとしましょう」
シャールは観客へ向けて言うと、背の竜の翼を広げる。
「尻尾巻いて逃げるのかよ」
テトロの挑発は無視だ。
ミズキを抱えたオレとシャールは、上空へと飛び立つ。
その時、突然ワイバーンが青い光と消えてしまった。
攻撃を受けたわけではない。とすると、術者であるメラルドになにかあったか。
「まさか、メラルドまで、殺されたか……?」
シャールの声がオレの臓腑をえぐる。
オレの腕の中で、ミズキが嗚咽をもらしていた。
「この腰抜けが!」
下からテトロの魔術が迫る。
オレ達は速度を上げて離脱した。
高速で流れる街並みを見下ろし、ミズキの泣き声だけが消えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます