第23話 武道大会(試合)

『東ゲート、チーム『羽毛ある蛇神ケツアルカトル』!』


 司会の紹介に合わせて檻の様な鉄格子が上に上がっていく。


『『羽毛ある蛇神ケツアルカトル』は推薦枠からの参加チームです。町の名を背負っているという重圧プレッシャーのなか、どのような活躍を見せてもらえるのでしょうか!』


 重圧など別にない。町の名は利用しただけだからな。


 ゲートをくぐると、観客の歓声が浴びせられる。予選の時は半分くらいの入りだったが、決勝トーナメントとなればさすがに満員御礼。しかも興奮も最高潮に近い。


『対する西ゲート、『ダムドダムド』所属、チーム『触るな危険トキシック』!』


 さらに大きな歓声が響く。知名度の差だ。

 お互い闘技場の中程へ進み、十数メートルほどを残して足を止めた。


 司会の紹介が続くなか、突然他の声が割り込んだ。


「こんなところまで逃げ回りやがって、観念しやがれ」


 目の前にいる『触るな危険トキシック』のリーダーらしい極悪人面のセリフのようだ。どうやら、効果範囲を限定した拡声器の魔道具を使っているようだ。


「いったいなんなのあんたたち」


 ミズキが呟く。一応、二人には簡単に事情は話してある。とは言ってもオレ自身がよくわかってないから、変な奴がいたって程度だけど。


「俺達が手柄を横取りされて、そのまま見逃すと思ってんのか? ぁあ?」


 手柄ぁ? そんなものあったか?


「俺達の顔に泥を塗りやがって。竜殺しドラゴンスレイヤーの称号は俺達のものだったんだよ!」

「あー、そーゆー」


 なんだ、あのドラゴンの討伐隊はコイツらだったのか。


「お前らをぶったおせば、俺達の方が強いってことだ。お前らにその称号は過ぎたものだ。俺が貰ってやる」

「やるよそんなもん。けどな、勝負は譲れない」


 こんなところで足止めなんてしてられない。

 バカにされたと思ったのか、奴らは表情を変えた。


『いよいよ始まります。両チーム、準備をお願いします。テンカウント後に開始です!』


 アナウンスによって、十からカウントダウンが告げられる。

 この時間に、付与魔術や肉体強化などの準備を行う。


簡易付与インスタント総合強化ブースト


『天空の覇者よ』


『銀狼転化!』


魔術付与エンチャント起動開始スタートアップⅢ型戦機金剛ヴァジュラマークスリー


 オレの基本付与から始まり、メラルドの使役魔術、ミズキの肉体強化、オレのミスリルゴーレム金剛ヴァジュラの起動と続き、


完全障壁イージス!』


 三人分の円形盾を起動する。今は個人用に半身を覆う程度の大きさに調整してある。模様も、内側から外へは視界を遮らないよう改良してある。


 そこでアナウンスのカウントがゼロを告げた。

『試合、開始!!』

 ついに始まった。


「まずは小手調べだ」


 極悪人面のリーダーが指示を出し、二人とゴーレム(ダサいストーンゴーレム)一体が前衛、その付与魔術師エンチャンターが後衛、その真ん中にリーダーの、四人と一体が相手チーム。


 そのリーダー(どうやらテトロって名前らしい)が中空に緑色の魔法陣を描く。放出魔術師ウィザードか。


自立行動オートモード攻撃開始アタック


 金剛に命令。こっちの仲間のデータは入力してある。確実に敵だけを攻撃出来る。


 テトロの魔術と金剛が交差する。


 こちらの布陣は、前衛ミズキと金剛、後衛オレ、中にメラルドと頭上にワイバーンだ。数で負けているわけではない。今のところ。


 テトロの魔術を魔術障壁で防ぐ。効果のいまいち分からない術だったが、とりあえずダメージは無い。


 金剛は相手のゴーレムに突撃。金剛用のミスリルソードで滅多切りにする。金剛の動きに全くついていけてないゴーレムを破壊するのは時間の問題だろう。


 続いて銀狼に変化したミズキが筋肉ダルマの肉体強化師エンハンサーに接近。素早さでまさるミズキが相手を翻弄するが、もう一人のバランス型の肉体強化師エンハンサーに邪魔されて、有効な攻撃が出せない。能力はミズキの方が高いが、二対一ではほぼ互角だ。


 そこに加勢しようとする敵の付与魔術師エンチャンターの術が完成する前に、ワイバーンが突撃する。低空にホバリングしながら大剣の様な足の爪や、レイピア並みの尻尾の毒針で攻撃すれば、当たれば即死の連続攻撃をかわすのに必死で、他のサポートをしている余裕はなくなった。

 実際にはワイバーンは殺さないよう手加減しているらしい。即死じゃなければ、救護班による治療魔術でなんとかなるからな。


 そこにテトロの魔術が完成。ワイバーンに向かって複数の火弾が炸裂する。とっさに防風の魔術でそらすが、至近距離で火弾が爆裂。ダメージこそそれほど無いが、爆風にあおられてバランスを崩してしまった。

 その派手なバトルの影で、オレはこっそり投げナイフ、『爆裂刃イクスプロージョンナイフ』を取りだし、狙いをさだめる。標的はゴーレム。金剛が解放されれば、どこに加勢しても形成逆転が狙える。


 オレの投げたナイフは、狙いからかなり外れたところに落ちた。


 おかしい、手先の感覚が鈍っている。まさか、テトロの最初の魔術か? 感覚を麻痺させる毒ガスを撒き散らしていたようだ。


 現状、状況はほぼ互角だが、これくらいの麻痺ならまだ戦えるし、個人の戦闘力はそれほどではないとはいえ、メラルドは完全フリーだ。分はこちらにある。


 そのとき、テトロが話しかけてきた。


「そろそろ交渉の時間といこうや」


 あの、範囲限定の拡声器だ。戦闘中のメンバーにははっきり聞こえているが、観客などには全く聞こえない。


「なんの話だ? 降参するなら認めるぜ」


 オレの答えにテトロが続ける。


「それはこっちのセリフだ。アレを見ても、まだ余裕でいられるかな」


 テトロがさり気なく指した先、貴賓席の反対側の客席を見る。

 客席の間の階段、その最上段のスペースには、人相の悪い男に連れられた車椅子があった。


 そこに座っている……いや、意識をなくして捉えられているのは、アマリンだった。


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