第22話 武道大会(到着)

 それから一ヶ月後、このイタマサ国の首都イタマにたどり着いた。


 馬車で移動の道中は、途中いろいろ観光地なんかを巡って回った。名物を食べ歩きしたり素晴らしい景色を眺めたり、混浴でニアミスしたり嵐の山荘で事件に巻き込まれたり呪いで眠り続ける姫を助けたりなんてことがあったりなかったりした。


 そして、五人全員無事で目的地までやってきたのだ。


 とりあえず武道大会のエントリーを済ませる。シャールとはここでいったんお別れだ。彼はまた別の知り合いがおり、そっち経由でエントリーするようだ。オレ達は選手に用意された宿へと移動した。


 大会は明日から。結構ギリギリだったな。

 初日と二日目は予選だ。オレ達は町長の推薦枠での参加のため、決勝トーナメントから直接参加となる。なので、実際の試合は三日後からだ。まずはチーム戦。その次の日に個人戦のトーナメントとなる。それまでは、まあ、準備期間かな。

 それで各々買い物をしたり観光をしたりしていた。


 そのとき思わぬものを見てしまった。一ヶ月前、裏道の公園で因縁つけてきたあのチンピラ達だ。なんとあいつらも武道大会へエントリーしていたのだ。面倒くさいことにならないといいけど。


 そして迎えた試合当日。朝からアマリンの姿が見当たらない。


「必勝の御守りを見つけたから買ってくるって出て行ったきり、帰ってこないの」


 とは同室のミズキの言。

 とは言えそろそろ時間も迫ってきている。


「試合はオレ一人でも大丈夫だぞ。二人はアマリンを探すか?」


 エントリーはオレ、ミズキ(イヌ耳はなくなってしまった、残念)、メラルドの三人だが、人数が減る分には問題ないらしい。


 ミズキとメラルドは顔を見合わせて悩むが、結局は、

「子供じゃないんだし、そのうち帰ってくるでしょ」

 ということで、試合を優先することになった。


 軽く胸騒ぎがしないでもないが、オレの本来の目的のためには、この大会を逃すわけにはいかない。


 武道の試合は、球場のような施設で行われる。中央に大きな広場があり、それを観客席が囲んでいる。いわゆるコロッセオよりはドーム球場に近い大きさ、形をしている。


 そこに集められた選手達に向け、司会者が挨拶をしている。そして紹介にうつる。まずは観戦に来た政治家達だ。オレはまだ不勉強だが、それでも聞いたことのある名前がいくつか並ぶ。彼らは万が一に備え、防弾硝子に囲まれた貴賓席で観戦するらしい。


 次は特別ゲストだ。

「この度は、なんと二組のゲストがいらしております!」

 司会が腕を振って指し示す。


「一人目は、『閃光の双竜シャイニングダブルドラゴン』、〈拳武〉シャルア殿です!」


 そこには、観客の歓声に片手を上げて応える青年がいた。使い込まれた肉体強化師エンハンサー用の戦闘服(肉体の変化に柔軟に対応出来るよう設計されている)に、式典用の高価な上着を羽織っている。


「彼は武道大会には直接参加せず、優勝者とのエキシビションマッチを企画しています。期待に胸が踊りますね!」


 彼は司会の紹介に胸を張ってアピールする。


「『閃光の双竜シャイニングダブルドラゴン』って超有名人じゃん! アマリンこういうの大好きなのに」


 そういってミズキは観客席を見回すが、ほぼ満員の客席の中から見つけるのは容易くない。


 超有名人なのか。そういえば名前は知っていたが、実際に見たことはなかったな。


「そしてもう一組は、飛び入り参加で予選を勝ち抜いた『ダムドダムド』所属の、チーム『触るな危険トキシック』の皆さんです!」


 次は選手の中の一角を示すと、一部の観客から声援がとぶ。そこには四人組の、なんともガラの悪い奴らがいた。

 あいつら、オレに因縁つけてきたチンピラどもだ。『ダムドダムド』の奴らだったのか。


 『ダムドダムド』は、〈博士〉レイブンが率いる巨大な冒険者組織だ。一般的に冒険者は腕っぷし自慢の粗暴な奴らが多いが、その中にあって『ダムドダムド』はもう暴力団組織と言っても過言ではない。各地で問題を起こしては世間から煙たがられているが、それでも実力は確かなものが多く、実績で考えればその数は馬鹿に出来ない。


 え? まさかオレを追ってここまで来た? オレなんでそんな奴らに目をつけられてんだ?


 いや待て。まだそうと決まったわけじゃない。シャールと同じで、元からたまたま武道大会には参加する予定だったのかもしれないじゃないか。


 ……望み薄だけど。


 その後は司会が試合スケジュールを説明し、いったん解散となった。

 発表されたトーナメントスケジュールを確認すると、オレ達は初日の今日、三試合目が初戦になる。


 そして気になる対戦相手は、チーム『触るな危険トキシック』。


 最悪だ。



とは言え、今さら引き返すわけにはいかない。


まずは控え室で準備だ。


「なんか感じ悪い奴らだよね。強いのかな?」


 ミズキが柔軟をしながら言う。


「『ダムドダムド』も有名だよね。悪い方だけど」

「大きい集団だからピンキリだけど、それなりにデキるみたいだ」

「でも『触るな危険トキシック』ってのは聞いたこと無い。多分雑魚じゃん? わたし達なんて竜殺しドラゴンスレイヤーだよ」

「それを自称するのはやめなよ」


 さすがに大きすぎて背負いきれない。

 ただ、(触るな危険トキシックのではないが)予選の試合をいくつかを見た限りではそれほどレベルは高くない。師匠のしごきの方がよほどきつかった。


「通信機は着けとけよ。念のため」


 そういえばシャールに渡した分を返してもらい忘れてるな。あとで回収しよう。


 点検のために装備を取り出した。


 消耗品はいくつか補充したが、星空の魔刃ナイトウィザードはあの時の影響で、機能の一部が破損している。具体的には、空間断裂と、謎の第三の魔力回路だ。旅の最中に少しずつ修復はしているが、師匠の組み上げた魔力回路は精密かつ複雑。すぐには元に戻りそうにない。

 まあ、空間断裂は当たると死ぬから、威力が強すぎて使うと失格になる。どっちにしろ使えないなら問題ないだろう。


 そうやって各自が準備をしていたが、結局アマリンは戻って来ないまま、試合の時間が来てしまった。

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