第14話 駆除(予定変更……からの決戦)

 殺人蜂キラービーとは、人を襲う習性のあるハチの総称だ。

 その中でもこの『アリを操って奴隷とする殺人蜂』は、危険なハチの上位三位に入るほどだ。実はアリとハチは生物としては近縁にあたる。このハチは、その親戚ともいえるアリを操り、幼虫の世話や餌の調達をさせることで、効率的に繁殖していく。なので、可能な限り早く駆除しなければならないが、規模が大きくなることが多く、完全な駆除には相当の人数が必要になる。


「クロス君、どうする? 状況的には、一刻も早く役所なりに届け出るのが義務だぞ。少なくとも誰か一人でも報告に向かわないと」


 ヤフィさんが後ろを振り返り焦ったように言う。ここまでの道にはあの光るキューブが一定間隔で転がしてあり、道に迷うことはない。


「いや、この状況で手分けなんかしてたら、アリやハチに囲まれたとき、戦力不足でやられることになります。最大戦力を維持したままでなければむしろ危険です」


 これは嘘ではない。


「ではどうするんだ? ハチの繁殖状況もわからんというのに」

「それです。今は少しでも情報を集めるべきです。どっちにしろ、今のオレ達ではハチの完全な駆除は出来ないでしょう。だったら曖昧にせず、できる限りのことはやるべきではないですか」


 ヤフィさんはしばらく考え込む仕草を見せる。


 実は、このやりとりの落とし所は確定している。別にヤフィさんと打ち合わせをしていたわけではないが、お互いの目的は一致しているのだ。そのための、言い訳を考えているにすぎない。

 つまり、口裏を合わせているのだ。


「町からここに来るまでの間には、ハチは見かけませんでした。つまり、このアリの巣を乗っ取ってからまだあまり日が経っていないってことです。なら、このまま奥に進み、女王バチを駆除するのが最適解でしょう」

「だがそれは、実現可能なことが最低限の条件だ。我々に、それが可能だろうか?」

「正直、時間をかけていてはこちらに不利です。一気に最奥まで進み、目的を果たしたら即座に脱出するのがベストだと思います」


 オレはヤフィさんを、そしてミズキとアマリンを見回して言う。


「それくらいなら、問題なく達成可能です」


 そして、ヤフィさんには目で訴えかける。(こんなところで夢を諦めるつもりですか?)


「そうか、なら出来るだけのことはやるべきだな」


 ヤフィさんが、残っていた迷いを吹っ切る。(ように見える演技をする)


 逆にミズキとアマリンは、突然の展開について来れていないようだ。が、これから奥に進む理由が伝われば問題ない。っていうか、このやりとりはそれが目的だったのだ。状況を理解していないミズキとアマリンに、このあとの行動の理由を説明していたのだ。


 このハチのことを知らない二人とは違い、オレとヤフィさんは、一刻も早く目的のモノを手に入れる必要があることを知っているのだ。


 なぜなら、アリはミスリルを集めるだけだが、ハチはミスリルを食べてしまうのだ。


 一匹のハチが食べる量はたいしたことはないが、数の多さが脅威となるのがハチである。時間がかかればかかるほど、ミスリルが減ってしまうのである。

 そのために、義務を蹴ってまで突入するもっともらしい理由をでっち上げ……説明していたのだ。口裏を合わせるために。


 二人には情報と女王バチが目的と説明したが、実際はミスリルさえ確保できればあとはどうでもいいのである。


「とりあえず、ゴーレムを呼び戻します」


 オレはスカウターを操作し、金剛ヴァジュラに新たな命令コマンドを送信する。金剛ヴァジュラ自身とこのスカウターには、オートマッピングとお互いの位置を確認出来る機能がある。命令コマンド一つでここまで自動で帰ってくるのだ。ついでにハチも攻撃対象になるよう、設定も変えておく。


 うわ、対象の数の多い方を優先する設定だったから、反対側のけっこう遠くまで行ってるなぁ。ちょっと時間がかかるかも。


 それはそれとして、オレ達はすぐに先に進む。


「目的地は、坑道の奥のちょっと広いところでいいのか?」


 ヤフィさんが鉱山の地図を確認しながら言う。


「とりあえずそこまで行きましょう。あとはジャイアントワームとアリがどこをどれだけ道を増やしたか確認しながら進むしかないでしょう」



~~~

「クロスさん、次の分岐を右です」


 地図を確認するアマリンの声を聞きながら、オレは籠手ガントレットをつけた拳でハチを叩き落とすと、ブーツで踏んでトドメを刺す。


 あれからかなり進んだが、とっくに魔力切れで『強火』が使えなくなったアマリンが地図を確認し、そのナビゲーションに従って進む。しかし、かなり入り組んでいる上に道がいくつも増えていて、思うように進めていない。

 しかも奥に行くほどハチがワラワラウジャウジャ出てきてうざい。


 ちなみに、狭い坑道内のうえ対象が小さいので、剣は使いづらく、格闘術で対応している。ジン師匠からは、拳闘と空手と中国拳法を混ぜたような格闘術を仕込まれた。素早い虫の動きにも十分対応出来る。一番の問題はむしろ、虫を直接叩き潰すという精神的な嫌悪感だ。うげぇ気持ち悪い。


 『強火』の援護がなくなったミズキもすでに素手で戦っている。ミズキ自身に簡易付与インスタントで炎属性を付与したので、パンチやキックを当てるとそこが燃え上がる。アリやハチには効果バツグンだ。しかし、肉体強化エンハンスは燃費がいいとはいえ、そろそろなにか目処をたてないと息切れしてしまうだろう。


 どうにかしないとな、と思いながら通路を曲がった先に、目的の一つが突然現れた。

 そこは教室ほどの広さの空間で、何匹ものアリがせわしなく動き回っている。その奥に、一際大きなアリがいた。


 女王アリだ。


 女王アリ自身がすでにハチの支配下にあるようで、こちらに対してほとんど反応していない。


 しかし、その取り巻きはしっかりと反応してきた。女王の守護蟻ガードだ。

 二メートル近い三匹の守護蟻ガードが、こちらを伺っている。


 さすがに剣を抜くか? そう迷った一瞬後に、目の前に巨大な顎が迫っていた。とっさに身をかわしながら左手で顎をそらし、カウンター気味に右拳を叩き込む。

 クソ! かてぇ! でもその一撃で守護蟻ガードは女王アリの向こうまで吹っ飛び、壁にぶつかって動かなくなった。残り二匹。


 そのうちの一匹が、ヤフィさんに向かって突進した。速いっ。


 オレはとっさに抜き放った剣を投げつけた。それはアリの胴体に突き刺さった。動きは鈍くなったが、まだ止まらない。


 そのとき、ヤフィさんが右手の小剣を振り上げた。


『火精の加護よ!』


 呪文と共に振り下ろされた小剣から炎が吹き出すと、アリを真っ二つに焼き切った。


 思いのほか強い火力にオレが驚いたスキに、最後の一匹がアマリンに迫っていた。気付いたときには手遅れ。手は届かない。剣の遠隔操作はまだ練習中で、アリの体からまだ抜けない。ミズキは後方のアリとハチの対応で状況に気付いてない。石を拾って投げるか? 手頃な大きさの石を探す間に間に合わなくなる。なにかないか? そうだ!


 オレはポーチからすぐ取り出せるように用意してあった塊を取り出して投げつけた。


『光よ!』


 そのキューブはアリの頭に向かって飛ぶ。その存在の主張明るさに反応してアリはそれを避ける。狙い通り。


 だがまだ足りない、もう一手必要だ。が、投球で泳いだ体勢を戻してもう一度投げつける時間があるだろうか? いや、やるしかない。


 が、アリの牙がアマリンに迫る方が速い。


 オレの後頭部から背中にかけて血の気が引き、鳥肌の立つ感覚がうまれる。


 こんなところでオレは仲間を失うのか? 情報の行き違いがあったとはいえ、オレがもっと準備を整えていればこんなことにはならなかったのか?


 そんな思いが浮かんだ直後、アリとアマリンの間を、何かが通り過ぎた。それを警戒し、アリが一歩下がる。


金剛ヴァジュラ!」


 オレは思わず叫んでいた。ギリギリだった。これでなんとかなる、と思った。が、金剛は守護蟻ガードには見向きもせず、普通のアリに向かって飛びかかって行った。


 しまった! 攻撃対象の範囲に守護蟻ガードが入らないんだ!


 設定を……いやいや、それよりオレが直接行った方が早い! とか考えていたとき。


『雷精の怒りよ!』


 ヤフィさんの左手の小剣から轟音と共に雷が迸る。それが最後の守護蟻を貫くと、守護蟻はバラバラになって吹き飛んだ。


「危なかったな」


 ヤフィさんが深呼吸しながら近付いてきた。


「もっと実戦の訓練をしとくべきだったな。対応が一呼吸遅れる」


大丈夫か? とアマリンに声をかけるヤフィさん。

 アマリンは強く目を閉じて耳を押さえたまま動かない。どうした?


「……あ、治ってる。急に光ってうるさくてなんだったの?」


 デスヨネー。まあ、無事ならいいッス。


「いや、助かりました。その小剣、すごいですね」


 オレはヤフィさんに声をかける。


「自信作の一つだが、一発で充填した魔力を全部使うからな、今日はもう打ち止めだ」

「ちょっと見せてもらえますか?」

「いいぞ」


 オレは二本の小剣を受け取り、その魔力回路をめつすがめつ見てみる。


 魔力回路が見事に組まれている。が、それ以上に小剣自体の意匠デザインがまたいい。実用性や効果とは全く関係ないが、だからこそ細かいこだわりが見て取れる。誰でも、どうせなら見た目のいい物を持ちたいものだ。……だよね?


 それを返すついでに、魔力を充填しておく。


「魔力入れといたんで、もう一回ずつ使えます。それにしても見事な作品ですね! 今度お店の方にも行かせてください」

「ああ、いつでも来てくれ。って、ほんとに魔力が戻ってる!?」

「そんなことより、なんかデカいのいるけどいいの!?」


 ミズキが女王アリを指差して言う。


「女王アリだよ。女王アリ自体はそんなに強くないし、ハチに操られてるからそんなに危なくない」


 オレは言いながら女王アリに近付き、剣を取り出してそれを構える。

 女王アリの反応は薄い。ハチのために子供を産まされていると考えると、ちょっと可哀想にも思えてくるが、もともとコイツを駆除するために鉱山に入ったのだ。


 オレは剣を振るい、女王アリを駆除した。

 オレは振り返ると言った。


「ハチの女王も近くにいるはずだ。準備がてら、ちょっと休憩にしよう」



~~~

 オレはこれまで、自分自身の戦闘能力を鍛えることをしてきた。師匠との修行もそうだし、「ゴンッ」とにかく自分が死なないことがまず前提だった。だがここにきて、仲間がいる「バキッ」ことによって、自分の手の届かないところまで守る必要が出てきた。正直、今までそんなことを「ゴツッ」考えてこ「ガギッ」なかったために、対応が後手後手に回ってしまっ「ドンッ」ている。


 さっきからうるさいのは、金剛ヴァジュラがこの部屋に入ってくるアリやハチを退治する音だ。


 オレ以外の三人は、そんな金剛の動きを目で追いながら休んでいる。

 オレ達は部屋の隅に座って休みながら、装備の確認なんかをしていた。部屋の中は虫の死骸だらけでリラックスできる状況でもないが、体力と魔力くらいは整えておかないと、へばってしまってはミスにもつながる。


「ゴーレムって初めて見たけど、けっこう激しく動くのね」


 ミズキが素直な感想をこぼす。


「いや、普通はこんなにピョンピョン跳ばないし、空中で方向転換なんてしない」


 ヤフィさんが感心したように呟く。


「もっと可愛くすれば良かったのに。うさちゃんとか」


 アマリンが不満をもらす。いや、仮にうさぎのぬいぐるみ風だったとして、それがこんな激しい戦闘してたら逆にホラーだろ。


 そんな三人を横目に、オレは準備を進める。

 目的のミスリル置き場はまだ先のようだ。となればこのあと女王バチとその守護蜂ガードとの戦闘になる。ここまで坑道が崩れることを恐れてあまり威力の高いものの使用を控えていたが、ここまでの感じを見ると少し高火力のものを使っても大丈夫だろう。


 こっちは弱点アマリンを抱えている以上、時間はかけていられない。遭遇即殲滅が理想だ。


 ポーチから投げナイフを十本ほど取り出し、すぐ取り出せるようにベルトや籠手ガントレットにセットする。

 ハチは、特に守護蜂ガードは、ミスリルを食べることで、アリの数倍の防御力を持っている。素手でも倒せなくはないけど、一撃必殺とはいかなくなってくるだろう。


「そろそろ行こうか」


 ヤフィさんが、メンバーの様子を見て言う。体力はほぼ回復した。魔力の集まるミスリル鉱山のおかげか、魔力もそれなりに戻ってきたようだ。オレには関係ないけど。


 あ、そういえば。


「アマリン、これ着とけ」


 そう言ってオレは、フード付きマントを脱いで渡す。

 アマリンは、差し出されたものを指でつまむようにして受け取る。そしてゆっくり臭いを嗅ぐ。


「そんな臭くも汚くもねーから! な?」


 オレはミズキに同意を求める。が、視線をそらされた。

 な!? まさかオレ、臭いの?


「虫の臭いが強すぎて全然わからないよ」


 ヤフィさん、それフォローじゃない。


「いいから着とけよ。防御力大幅アップだ」

「でもなんか、移りそうだし」

「臭いは諦めろ」

「いや、病気が……」

「病気? なんの?」

「中二の」


 ……。


 オレは問答無用でマントを羽織らせ、フードをかぶらせた。


「ギャー! クロス菌が移る!」


 菌ゆうな! でもこれで、黒フードの立派な中二病患者だ!


「外に出るまで絶対脱ぐなよ!」


 まだわめくアマリンを、ミズキがなんとかなだめている。

 ヤフィさんがそのやりとりを見て言う。


「さっさと行って、さっさと終わらせよう。ワシもこんなところ早く出たいし」


 そうそう、さっさと行くぞさっさと。



~~~

 戦闘能力でいえば、オレと金剛ヴァジュラで突入するのが一番早いが、それだとミズキだけで二人を守ることになって、通路で挟まれると詰む。金剛ヴァジュラを残してオレ一人で突入すると、雑魚の処理が間に合わなくなる可能性が高く、不利になる要素が多い。結局、全員で突入するのが最も合理的ということになる。


 金剛ヴァジュラの偵察モードで女王バチのいる部屋までは確認した。ミスリル置き場は、その部屋から続く通路のどれかなのだろう、ここまでには発見できなかった。


「突入してからの作戦をもう一度確認する」


 オレは三人を見回した。


「アマリンとヤフィさんは壁際に。ミズキはその護衛。ゴーレムは近付いて来るヤツから優先的に攻撃するように設定してある。ただし、守護蜂ガードには攻撃しない。万が一にも人を攻撃しないようにだ。だから、もし守護蜂ガードが近付いてきたら、ヤフィさんの小剣で追い払ってくれ。両手とも使いきるまでには片付ける」

「ホントに大丈夫なんでしょうね?」

「負けはないよ。あとは時間の勝負だ。だから、無理してたくさん倒さなくていい。安全第一でやってくれ」

「一番危険なところに飛び込ませといてどの口が言うのよ」


 アマリンが睨みながら言う。黒フードはかぶっているが、とても不服そうだ。毒舌も辛辣。

 ミズキは足下の石を拾っていた。


「ないよりマシかな」

「頼りにしてるぜ」


 オレは呪文を唱える。


簡易付与インスタント総合強化ブースト


 人数分の強化魔術を発動する。身体機能、反射神経、視力や聴力などなど、全体的にスペックを底上げする。


「行こう」


 オレが先頭に立って女王部屋に突入する。そこは学校の講堂くらいの広い部屋で、奥に女王バチ、その近くに守護蜂ガードが八匹。そしてそこら中に普通のアリとハチが合わせて二十匹くらいいた。


 数はともかく、問題は天井の高さだ。これだけ広いと、ハチは自在に飛べる。機動力が段違いに上がると、脅威の度合いはさらに跳ね上がる。

 オレはまず、用意していたものを部屋中に蒔きながら叫んだ。


『光よ!』


 いくつものキューブが部屋中に散らばり、十分な視界を確保する。

 続いて入ってきたミズキ達は、壁際を移動して死角をなくす。


 オレは真っ直ぐ女王バチを目指す。


魔術付与エンチャント起動開始スタートアップ


 取り出した投げナイフを、迎撃に来る守護蜂ガードをかわしながら、すれ違いざまに突き刺す。固い手応えだがなんとか刺さる。そのナイフは刺さったままにして手を離し、次のナイフを取り出す。


 二メートルにもなる巨大なハチに小さなナイフが刺さったところで、それだけで倒せる訳でもない。が、そいつはほっといて次のハチを探す。


 二匹目が飛びかかってくるところをバックステップで避け、ナイフを投げると腹部の後ろにかろうじて刺さった。


 背後に羽音が迫るのを感じて振り向くと、目の前に毒針! 左腕を横から当てて払うと、毒針が服の表面をズルッと滑る。防刃の強化繊維がいい仕事をしている。ハチはそのまま頭上から掴みかかってくるので、掴ませたまま引き込むように落として、途中で上下交代。地面に叩きつけナイフを突き刺すと、噛みつかれないよう避けながら飛び退く。


 横手から次が真っ直ぐ突っ込んで来る。それにナイフを投げてすぐに身を捻りながら地面を転がり、突進を回避。そいつはそのまま通り過ぎた。


 次は、と見ると二匹がミズキ達の方向へ飛んでいく。その背中に向かってナイフを投げた。見事に突き立ち、翅を動かす力を失ったのか、地面に落ちた。が、そのままミズキ達へと進んでいく。あとはミズキを信じて任せることにする。


 オレは回りを見回して次を探す、が。


「しまった! 目を離したスキにシャッフルされて、まだ刺してないのがどれだかわかんなくなった!」


 アイツか? いやコイツか? 時間かけてられないってのに、じっとしてろよ!

 って言っててもしょうがない。警戒されないよう、本当は全部に刺してからやりたかったんだけど、そううまくはいかないか。


 オレは発動の呪文を叫ぶ。


爆裂ブレイク!』


 ハチに刺さったナイフが、爆発する。

 六つの轟音が坑道を震わせる。


 爆裂刃イクスプロージョンナイフ


 刃と柄に別々に限界まで魔力を溜め、合図と同時に柄の魔力を刃に移動させることで限界を超え、爆発する。グリフォンと初めて対峙したときの魔剣爆発をヒントに作った、いわゆる遠隔操作リモート付き小型爆弾だ。欠点は、使い捨てであることと、威力の手加減ができないこと。


 さすがの守護蜂ガードも、一撃で倒せるはずだ。


「クロス! やっつけたの!?」


 ミズキが声をかけてくる。


「まだだ! 気を抜くなよ!」


 状況的に仕方なかったとはいえ、ミズキ達にリスクがまわる前に処理できたのは良かったとしよう。問題は残りの守護蜂だ。


 爆発で砂埃が舞い上がり、視界が悪い。


 部屋の奥からは、女王バチの「ギギギ」という威嚇音が聞こえるが、残り二匹の守護蜂の位置がわからない。さっきの爆発でアリの巣全体が騒いでいる。このまま戦闘が長引くとただ不利になっていくだけだ。

 どうにか見通す方法は?


 そうだ、金剛ヴァジュラの熱源視界からなら判別出来るかもしれない!

 オレはスカウターを操作し、金剛の視界を映し出す。

 すると、金剛が不自然な感じに宙に浮いている?

 とっさに金剛の位置を確認し、そちらに向かうと、金剛が守護蜂に捕まっている!


 守護蜂は金剛に噛みつき、毒針を突き立てようとするが、さすがにミスリル合金の装甲を傷付けることが出来ずにいる。

 ハチはミスリルを食べる、とはいっても、バリバリムシャムシャってわけではなく、舐めるようにしてゆっくり吸収するだけだ。いきなり金剛が煎餅のように食べられてしまうわけでは無い。


 金剛の方も、守護蜂の拘束を外せずにいた。単独行動のときに、障害物を回避したり、絡まったものを外したりすることは出来るようにしてあったが、生き物に捕まった状態から抜け出すには足りなかったようだ。改良の余地あり。


 その金剛の視界にオレが映る。その背後から迫る影。


「ここかぁ!」


 振り向きざまに右拳を突き出す。守護蜂の頭部に直撃した。

 頭部を破壊された守護蜂が、勢いのまま地面を転がっていく。


 それを見た最後の守護蜂が、金剛を解放してオレに向かって来た。オレはそれを見て、安心してナイフを投げる。守護蜂はそれを避けようとするが、『爆裂ブレイク』接近した時点で爆破。衝撃で落ちてきた守護蜂を、踏み潰してとどめを刺す。


 回りを見ると、やっと砂埃が収まってきた。


「クロス! 急がないと、アリやハチが集まってくるぞ!」


 ヤフィさんが焦るように叫んでくる。


「あとは女王バチだけだ。すぐ終わる」


 オレは、部屋の奥の女王バチのもとへ向かう。

 女王バチは、顎から警戒音を発しながら、こちらをうかがっている。


 女王バチは五メートルはあるだろうか。その巨体のためか、動きはあまり早くなく、守護蜂ガードと比べれば戦闘力は低い。


 怯えたように部屋の隅にいる女王バチを見ていると、なぜだか少し可哀想に思えてくる。ハチだって一生懸命生きてきただけだろうに。


 いやいやいや、元々の目的を思い出せ。ミスリルを採掘するのが直接の目的だけど、最終的にはこの鉱山を安全に使えるようになった方が良いに決まっている。そうなれば結局は全てのハチとこの女王バチも駆除されることになるのだ。だったらなるべく早く駆除してしまった方が被害も少ない。


 どう考えても今殺す方がいい。


 オレは剣を抜き放ち、怯えるように後ずさる女王バチに歩み寄る。


 集中しろ、余計なことを考えるな。

 ただの害虫だ。

 殺せ、殺せ。


 女王バチが、その大きな顎を開き、襲いかかって来た。


 殺せ!


 オレはその頭部へ向けて、素早く剣を振り下ろす。

 続けて左から右へ振り抜く。同時にそこへナイフを投げ込み、飛び退きながら振り返る。


 着地し、姿勢良く立つと、剣に付いたハチの体液を振って払うと同時に唱える。


爆裂ブレイク


 爆炎でシルエットになるオレの背後で、女王バチが倒れる音が聞こえた。


 決まった!


「ふぅ……」


 オレは呼吸を整えて、みんなのところへ向かう。


「中二病は遺憾いかんなく発揮できましたか? 出来れば急いで欲しいんですけど」


 アマリンが叫ぶ。黒マントを着させられたのをまだ根に持っているのか、イヤミの威力が爆裂刃イクスプロージョンナイフ並だ。


 台無し感満載だが、急がないといけないのは間違いない。


 オレは剣をしまうと、目星をつけていた通路へ進むよう、みんなに合図を送った。



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