第13話 駆除(実行)

 まずは、坑道の入口まで進む。途中でまた一匹アリが出てきたので、石をぶつけて殺しておく。ミズキへの見本だ。ミズキはまだ不満そうだけど。


 そしていよいよ我がゴーレム、金剛ヴァジュラのお披露目だ。


 攻撃対象の設定は、『一メートル以下五十センチ以上の外骨格の生き物。動きを止めるまで』。これなら、万が一中に他の人間がいても大丈夫だろう。全身鎧でガチガチに守られた赤ちゃんとか居ないことを祈る。


 オレは金剛ヴァジュラの武器として、ポーチからハンマーを取り出す。見た目はほとんどピコピコハンマーだが、これもミスリル合金製だ。アリなら刃物よりも打撃武器の方が効果的だろう。


魔術付与エンチャント自立行動オートモード命令実行コマンドスタート攻撃開始アタック


 金剛ヴァジュラが弾ける様に飛び出す。

 鈍重なイメージを覆す、瞬発力と俊敏性。どうよ。


「アムロ、いきまーす」


 アマリンさん、そういうのホント止めてもらえます? しかも気の抜けたかけ声で。気合いが入ってればいいってわけじゃないけど。


 そんな声を置き去りに、ゴーレムはほとんど一瞬で坑道の暗がりへ消える。


 オレは耳に引っ掛けるタイプの片眼鏡を取り出す。スイッチなどがついた機器が一体となっている、いわゆるスカウターってヤツに近い。これに金剛ヴァジュラのカメラに映った映像が映し出せるのだ。


 スイッチを操作し、映像を観る。


 めまぐるしく回転する画面に、アリが一瞬映っては頭を潰され動きを止める。次のターゲットを見つけると、壁や天井を駆使して反射するように跳び回ると、連続でアリをしとめる。


 オレは画面を消した。


「どうしたの、クロス? 顔色悪いよ」

「……よ、酔った」


 画面の動きが激しすぎて、回転酔いしてしまったのだ。この程度で、情けない。


「ゴーレムは問題なく可動している。オレ達も入ろう。その前に」


 オレはポーチからクルミほどの大きさのキューブをいくつか取り出し、呪文を唱える。


『光よ』


 それに反応して、キューブが明るく輝く。


「皆に渡しておく。もし中ではぐれたら使ってくれ。まだいっぱいあるから、使い捨てていいからな」


 追加で、取っ手とフタのついたものも起動して渡す。懐中電灯タイプだ。


「『エンチャントブースト』とか言わないんですね」

「汎用道具に凝った呪文なんて使わねーわ!」


 アマリンにツッコミながら坑道へと進む。

 楽しいミスリル採集の始まりだ。


~~~


「後ろ、また来たぞ!」


 オレも剣でアリを突っつきながら言う。


『料理の基本は強火!』


 アマリンの魔術で炎が宙に現れる。


「任せて! 『おにはー、そと!』」


 ミズキが一掴みに投げたモノがアマリンの『強火』の炎をくぐると、炎弾と化してアリに降り注ぐ。着弾の衝撃に弾けた炎弾が、小さな火の海……火の水たまり……火たまり? を作り、アリを焼く。火たまりはほんの短時間しかもたないが、アリを焼き殺すには十分だった。


 アマリンの放出魔術ウィザード『強火』が思いのほか役に立っていた。


 『強火』に対してオレが『付与可能』の付与魔術エンチャント簡易付与インスタントしたことで、『強火』をくぐったモノに炎属性を与えることが出来るようになったのだ。


 それに粒の揃ったつぶてをくぐらせてぶつけることで、即興の炎散弾を再現していた。別に石でも良かったのだが、手頃な大きさで数を揃えるのが意外と難しいかったので、手持ちで代わりになるものを出したのだ。


 かけ声でわかるかと思うが、それは非常食用にしていた大豆だった。世の中、何が役に立つかわからんね。


「でもなんで『おに』なの? アリなのに。あと『そと』ってどこ?」

「あまり気にするな。ある地域での伝統的なかけ声なんだ」


 ふうん、と言って次のアリに大豆をぶつけるミズキ。

 そんな感じで、特に危なげもなく進んで行った。


~~~

 それは、三十匹ほどの群れを片付けたときだった。


「ねえ見てクロス、ハネアリがいるよ」


 ミズキが虫の死体をつまみ上げて持ってきた。


「ハネアリはオスだって聞いたことがあります。旅立ちが近かったのでしょうか?」


 アマリンが知識を披露するが、それを見たオレとヤフィさんは息をのんだ。


「これは、ハネアリじゃないぞ」


 アリより一回り小さく猫くらいの大きさで、確かに背にはハネがあり、姿形はアリとよく似ている。しかし、真っ黒のアリに比べて黄色いラインが入ったこの体色は、アリではないことを示していた。


「コイツは、ハチだ。殺人蜂キラービーの一種の」


 これはマズいことになった。この手のハチは、アリと違い、名前の通り人を積極的に襲うのだ。

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