第12話 駆除(作戦)

「さて、どうするのかね」


 ヤフィさんが言う。

 アマリンとヤフィさんと合流し、小屋の一つで作戦会議だ。


「アリさんの駆除となると、一般的なのは毒餌で一網打尽かしら。でもそうなると、いっぱい毒を集めないと」


 アマリンが言うと、どうしてか物騒に聞こえる。


「まあ待て、今回はとっておきで、とても便利な魔道具を使おうと思う」


 オレはそう言って、ポーチに手を突っ込んだ。

 しかしそこで、一瞬動きが止まる。


 オレが取り出そうとしているのは、付与魔術師のロマンの一つであり、こだわりの塊である魔道具。秘密の七つ道具その六でもある。


ゴーレムだ。


 ゴーレムとは、付与魔術を駆使して作られた自動人形だ。

 ただ、付与魔術では擬似生命は作れない(使役魔術サマナーや希少魔術の死霊魔術ネクロマンシーなら可能)ため、条件分岐で行動パターンを設定してやる必要がある。それはコンピュータープログラミングに似ていて、術者の技量で行動の正確さがかなり変わってくるのだ。


 オレのゴーレムは正直かなりの自信作だ。実戦投入してみたい。

 ただ一つ懸念があるとすれば、それは、かなり中二病的であることだ。

 いや大丈夫、この世界では、ただちょっと変わった形だってだけのはずだ。


 一瞬止まった取り出す動きを再開する。オレは目的のものを掴み、近くのテーブル置く。


 それはミスリル合金でできたゴーレム。体高は約六十センチ。全体的には人型、幾何学的で重厚なアーマーを装着しているようなフォルムで、しかし関節部分などは可動域を考えたデザインになっている。装甲でありながらまるで鍛えられた肉体美を彷彿とさせる、バランスの取れた造形は、自分でいうのもなんだが、芸術的だ。背面、足裏、腰部やショルダーアーマーには姿勢制御用のスラスターがついており、背部に背負ったユニットには、短時間の飛行を可能とするジェット噴出機能がある。頭部もメットと仮面のようなデザインで、額からはアンテナも兼ねた角が広がっている。素材の銀色に白と黒、要所に赤を使ったカラーリングは正直あまり上手ではないので、色合いはシンプルだが、逆にそれも気に入っている。


 おわかりいただけるだろうか。

 つまり、いわゆる戦闘用の人型ロボットである。大抵は、中に人が乗って操縦するアレのミニチュアである。

 まるで「バンダイのプラモデル」というセリフが聞こえてきそうなヤツである。


「なにこれカッコイイー!」


 ミズキは思いの外興味を持ったようだ。


魔術付与エンチャント起動開始スタートアップⅢ型戦機金剛ヴァジュラマークスリー


 ゴーレムが起動し、目の部分が赤く光る。

 名前はマークスリーだが響きでつけただけで、他に二つあるわけではなく、今はこれ一体だ。


「ちょっと、よく見せてもらえるか?」


 ヤフィさんが目を輝かせている。


「いいですよ」

「ありがとう。お、思ったより軽いな。金属だと思うが、もしかしてミスリルか? 全身? なるほど。お、動くぞ。バランスをとってるのか。センサーは、光、音、熱源も? 暗闇でも立体的に周囲を感知できると。さらにその視界の送信まで? 最高だな。動きも滑らか、バランサーも優れている。強度は当然、パワーも……申し分ないようだ。なに? 空も飛ぶだと! まったく、つくづく最高だな!」


 ヤフィさんは魔力回路を読み取って解析する。この素晴らしさをわかってもらえるとは、最高だな!


「でも、今時ガン○ムはどうかと思う」


 アマリンよ、何故お主はそんなことまで知っておる? つかガン○ムじゃないし! 似てるけどオリジナルだし!


「ガン○ムってなに?」

 ミズキの疑問にはアマリンが答えている。


「ワシはいいと思うぞ! モノを作るってのは性能だけじゃない。そこに思い入れがあってこそだ。ワシもガン○ムはよく知らんが、熱意は伝わってくるぞ!」


 ヤフィさんへの熱意の伝わりかたがむしろ恥ずかしいヤツ!

 ああ……消えたい……。



 気を取り直して、アリの駆除を始めよう。


「先に知っていれば、それこそ殺虫剤でも用意できたんだが、無い物はしょうがない。一匹ずつ駆除していくしかないだろう」

「めんどくさー」


 ミズキがグチる。オレは続ける。


「数が多いのは問題だけど、アリの戦闘能力自体はあまり高くない。速いし固いし本気で噛まれたら腕くらいもってかれるけど、所詮虫だ」

「いや、十分恐い部類じゃないか?」


 ヤフィさんが頬をひきつらせている。


「ともあれ、先に確認する必要があるのはこちらの戦力だ。各自、何が出来るのか教えてくれ」

「ワシはこれくらいだな。魔術を込めた魔道具だ」


 ヤフィさんはそう言って、小剣を二振り取り出した。道中はたいした魔物も出なかったので、護衛対象のヤフィさんが戦うことはなかったが、廃坑の中では何があるかわからない。いざという時は自分で自分の身を守ってもらうこともあるだろう。


「わたしは、放出魔術ウィザードが使えるよ」


 アマリンが言って力こぶを作る。放出魔術ウィザードに力こぶは関係ない。


「具体的な威力は?」

「炎系だと……」


 お、良いぞ。虫に火は効果的だ。


「強火と中火と弱火かな。弱火なら、二時間はキープ出来るよ」


 強火……よ、弱火?


「あと水系なら洗浄、風系なら速乾が得意」


 それあれだよね、生活魔術だよね。


「あとは冷蔵も出来るよ。一時間でいいなら冷凍も!」


 それはすごい。温度をさげるというのは、エネルギー量を少なくするってことだ。魔力はエネルギーなので、エネルギーをつぎ込んむことで総合的に熱エネルギーを下げるというのは、案外難しいのだ。魔術で冷蔵が出来るだけでも、採集系や運搬系の依頼なら引く手あまただろう。


「ってちっがーう! 戦闘用の、アリを殺せる術は無いのか?」

「うーん……強火?」


 コイツ、なんでついて来たんだ?


「アマリンはここで荷物番な」

「いやです。絶対着いていきます」

「足手まといだろ? あ、格闘技でも出来るとか?」

「出来るわけないでしょ。見てわかりませんか?」


 腕を広げて、ふくよかな体型を見せてくる。


 なんで自信満々なんだよ。足手まといどころか、弱点の塊だよ。

 まあいいや、一人でいるところにアリが来ないとも限らないし、それなら目の届くところに居てもらった方が、まだ守れるってもんだろう。


「あたしは」

「ミズキはいい、だいたいわかるから」


 言いかけた格好で固まるミズキ。


「そんなミズキには、特別な武器をやろう」

「え、なになに!」


 オレはポケットから取り出した石を渡す。


「なにこれ! 石みたいだけど、どんな効果があるの? 爆発するの?」

「いや、その辺で拾ったただの石だ」

「え?」

「お前の怪力で投げつければ、アリ程度なら一撃必殺になる。坑道に落ちてる石を拾えば、弾数は無限だ。三つ四つまとめて投げてもいいぞ、命中力を上げられる」

「全然特別じゃなーい! むきー!」


 何故悔しがっているのだ? わからないな。


「さて、特別アリに効果的な能力が無いとわかったところで、作戦を説明する」


 オレは改めてみんなを見回す。


「まず、オレのゴーレムを先行させる。自動モードで突入させれば、露払いくらいは十分出来る。続いてオレ達が突入。隊列は、オレが先頭。続いてアマリン、ヤフィさん、殿しんがりがミズキだ。責任重大なポジションだから、頑張ってくれよミズキ」


 何故かミズキはふくれている。最後尾が嫌なのだろうか? それともまだ石のことを引きずっているのか?


「あとは、出てきたアリを片っ端から潰すだけ。ただし、危なくなりそうなら早めに逃げる。簡単だろ?」

「作戦って言うのもおこがましいが、って感じのやつですね」


 あれ? アマリンって味方だよね?

ともかく、作戦が決まれば、あとは実行するだけだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る