第11話 廃坑
「暑いなおい!」
整備されているが、放置されて荒れかけている道を歩きながら、オレは汗を拭う。北の廃坑って言葉のイメージから、なんとなく荒涼とした岩山で寒いところだと思っていたけど、むしろ密林に近く、生命力にあふれている。
それで思い出したけど、ミスリル鉱山のように魔力が集まるところは、エネルギーが高いために自然豊かと何かで読んだことがあった。ただの知識と体験するのとではまるで違うものだと実感した。
「クロスー、水ちょうだーい」
ミズキがだるそうな声をだしながら手を伸ばす。その手にお茶の入った水筒を渡す。ポーチに入る荷物は全部オレが持つことになった。メンバーの手荷物が少なくなれば、いざという時に動きやすくなるから、それ自体はいいんだけど、ことあるごとにオレが対応しないといけないのはちょっと面倒くさい。
前回のワイバーン討伐から数日後、各々準備を整えてからの出発となった。今回のメンバーは、オレとミズキとアマリン、それに依頼人のヤフィさんだ。メラルドは、ヤフィさんの命令で居残りだ。店番が足りないらしい。
そういえば、今までメラルドが使った魔術は肉体強化だけだけど、鍛冶師などの物作りの職人は付与魔術師の方が多い。まあ、やりたいこととやれることが違うってのはよくあることだし、他人の仕事選びにまで口を出すつもりはない。
「今回もサクッと終わるといいね」
「質のいいミスリルがたくさん見つかればいいがな」
なんだかキノコ狩り気分のミズキとヤフィさん。念のためオレが釘を差す。
「でも安全第一だぞ。どんな価値のあるものよりも、命あっての物種だからな」
ジャイアントワームはワイバーンほどの強敵ではないが、気を抜いていいものではない。
「まあ大丈夫でしょう。ミミズさんもいなくなったって話ですし」
と、アマリンの声。
……は?
「今回はジャイアントワームの対応をしながらのミスリル採掘の依頼じゃないの?」
オレはヤフィさんを見る。
「鉱山が閉鎖された原因はジャイアントワームだけどな、最近それがいなくなったんじゃないかって噂があって、だからこそミスリルを採りに行こうと思ったって話をしたはずなんだがな?」
ヤフィさんはミズキを見る。
「あれ? 言わなかったっけ?」
ミズキはアマリンを見る。
「私はヤフィさんと話をしてるところを聞いてましたけど、クロスさんは何故か打ち上げの途中から落ち込んじゃって、あまり耳に入ってなさそうでしたね」
マジで? あのあとの打ち合わせでそんな話になってたの? 言えよ! 出てくる敵に合わせて準備が変わってくるだろ! いまさら言ってもしょうがないんだけど!
「ジャイアントワームがいないんなら、普通に魔術師
ジャイアントワームとの対決を想定して、ワイバーン討伐の実績のあるミズキ(率いるオレら)に依頼したんだと思ってたんだけど。
「だって
ヤフィさんは指で丸を作る。
「高いだろ?」
マジか。
「それに、この年でそんな夢のためにムチャするなんて言ってたら、そもそも受け付けてもらえないかもしれんし。それにやっぱりなんかちょっと」
ヤフィさんがちょっと照れ笑いをしながら言う。
「恥ずかしいじゃん?」
自分のブランド名に『おひげのクマちゃん』なんてつけてる奴が何を今更だよ。と思わないでもないが、その少年のような笑顔を見ると、協力してあげたくなる。
「なら今回は楽勝か。気合い入れて作戦を考えてたのがバカみたいだ」
でもちょっと嫌みを込めて言う。
「でも、何か別のが住み着いてるかもしれないし、クロスが活躍できるところはあると思うよ」
ミズキが悪いと思ったのか、フォローっぽいことを言う。
「そうそう、思う存分暴れていいですからね」
アマリンはオレのことを血気盛んな不良少年だとでも思っているのだろうか? 別に暴れられなくて不満なわけじゃないぞ。せっかくジャイアントワーム用に用意した準備が無駄になっていじけて……じゃなくて、もったいないと思っただけだ。
「オレだって、楽に済むならそれにこしたことはないよ。オレもミスリルはなるべくいっぱい採りたいし」
ヤフィさん自身は、自分が作る魔剣用と予備にいくらかあれば良いらしく、余った分はもらっていいと、それは確認している。
ちなみに、鉱山自体は国の所有だが、閉山された時点で誰でも自由に入って良くなるらしい。なぜなら、それで原因(ジャイアントワーム)を誰かが対処してくれるなら、予算を組んで難しい問題を解決する必要がなくなるからだ。立ち入り禁止にしてしまうと、それを許すことができなくなる。でも、問題が解決したら当然すぐにまた開山して権利を復活させるらしく、もし本当にもうジャイアントワームがいないなら、自由に入れる期間はすぐにも終わってしまうだろう。
そう、今ならミスリルがタダで採り放題なのだ。
「もうすぐ見えてくるはずだけど」
道なりに進み、前方の山のふもと辺りまで来たとき、ミズキが声をあげた。
「じゃあオレが偵察に行ってくるわ」
オレはそう言って駆け出す。
「あ、あたしも行く」
ミズキがついてきた。
少し走ると、やがて広場と小屋がいくつか現れ、その奥に山の中へ続く入口が見えた。小屋の影に隠れて様子をうかがい、問題ないようなら少しずつ坑道の入口に近付いていく。
「とりあえず大丈夫そうだな」
入口近くに、人を襲う魔物が住み着いてる気配は無い。ジャイアントワームがまだいるかどうかは、中に入ってみないと判断できない。まずは入口まで行こう。そう思って歩き出した途端。
「なんか出てくるよ!」
ミズキの声に、慌てて小屋の影に戻る。
そこから覗いていると、出てきたのは。
「アリ、だね」
それは、中型犬ほどの大きさがあるアリだった。それは餌を求めて、木々の間に消えていった。
ミズキが眉をひそめる隣でオレは。
「よし!」
軽くガッツポーズ。
それを見たミズキは軽く引いていた。
「そんなに欲求不満だったなんて」
「違うわ! 暴れる口実見つけて喜んだんじゃねーわ!」
オレはミズキに、このアリの性質を説明する。
普通の小さいアリと比べて図体はデカいが、一つのアリの巣に住むアリは普通の小さいアリよりもかなり少なく、自然にある程度普通にいる、大きいだけの普通のアリだ。ここは多少人里に近いが、もともと雑食で、枝から落ちた木の実や死体を集めることがほとんどで、生きている獲物を襲うことはほぼ無く、危険性は低い、大きいだけの普通のアリだ。そう、普通だ、普通普通。
それよりも、アリの性質として、アリの巣は内部の部屋ごとに役割があり、食料庫や子育て部屋などがあるが、こういう場所だと女王アリの部屋の近くに、特別なゴミ部屋があることがある。
そう、ミスリル置き場だ。
ミスリルは魔力というエネルギーを溜め込むために、近くにあると体調が良くなるといわれている。動物にもミスリルを集める性質のものがいて、このアリはまさにそう。つまり。
「ミスリルがいっぱい集めてある部屋があるってこと?」
「そうだ。うまく行けば苦労せずミスリルを大量に採れるぞ。それにアリが住み着いてるってことは」
オレはミズキと顔を見合わせる。二人同時に言った。
「ジャイアントワームはもういない!」
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