第10話 回想(修行編)
師匠が爆発に驚き、様子を見にきたときには、グリフォンはすでに飛び去っていくところだったそうだ。
その近くに倒れているオレを、師匠は家まで運んで介抱してくれた。
オレは数日寝込んで、目覚めてから話を聞くと、ジンに弟子入りを頼み込んだ。
なぜなら、師匠の家は『鷲獅子の聖域』の中にあるのだ。王国の追っ手から逃げるのにも都合がいいし、何よりこんなところで生活をするほどの実力の持ち主だ。このあと魔法王から
ジン師匠は、最終的には引き受けてくれた。
オレ自身の事情についてはあまり聞かれることはなかったが、一度、王国からの追っ手が訪ねて来たときには、適当にあしらって追い返していた。そのあたりのやりとりで、なんとなくは察している様だった。
後日、買い出しに行ったときに聞いた話では、オレの参加する遠征隊は、何の問題もなく、出発したそうだ。クソッタレめ。
その後、オレは師匠について、三年間を修行に費やした。
最初の一年は、とにかく溢れ出す魔力を制御することだけを練習した。
王国にとっても誤算だったのは、オレが
紅玉は強力な回復によって肉体を修復するが、同時に体力も回復させる。そして、魔術は魔力を使うものだが、魔力がなくなっても、実は根性で維持することも出来るのだ。つまり、紅玉を持っていれば、体力で魔術を維持し、それが即座に回復するので、事実上、無限の魔力を持っていることと同義なのだ。
逆に王国にしてみれば、紅玉を奪われたオレはもうただの人に過ぎない。例えまだ生きていて、反抗してきたとしても、なんの力も持たない一般人であれば問題ないと放置されている状態だ。
そこが付け入る隙になる。
オレ個人に強大な力があれば、王国を、魔法王を出し抜くことが出来る可能性がある。
ちなみに、オレの魔力は、正確には無限ではない。師匠がいうには、とにかく容量が膨大なのだ。
例えるなら乾電池。一般人なら単一や単三、それが二本あるか三本あるかといった容量の差がある。訓練をしてその容量を鍛えた魔術師や兵士などは、携帯の充電出来るバッテリー。国を代表するようなレベルになれば、電気自動車や家庭用の電源をまかなえるほどの容量を持っているって状態だ。
そこにきて、オレの魔力容量はどのくらいか? 電車が動くほど? マンションが一棟まかなえるほど?
いやいや、そんなもんじゃない。
火力発電所。
師匠が直接そう言ったわけじゃないけど、わかりやすく例えるならそういうことだ。
それだけ膨大な魔力となると、少し力を入れただけで魔力回路が壊れてしまう。
普通は、出来るだけ魔力を絞り出して魔術を使うところを、オレの場合はなるべく少なく絞り込むようにしないと、まともに魔術が発動しないのだ。
魔力の制御がある程度出来るようになって、やっと魔術の訓練だ。
魔術は系統で大きく五つに分けられる。
そして、
わかると思うが、
まず
これは、中空に瞬間的に魔力回路を形成し、状況に応じた様々な魔術を臨機応変に行使することが出来る。炎や雷を放ち、嵐を起こし、障壁で守ることも出来る。対応力に優れるかわり、他に比べると発動までに時間がかかり、必要な魔力が多い。
次に
文字通り自らの肉体を強化する魔術だ。上級の魔術になるほど、人間離れした力を発揮し、形状すらも変化する。腕や翼を増やしたり、火や毒を吐くことも出来るようになる。最終的には、究極の生命体の一つであるドラゴンに近い力を持つことが出来るという。自分の体に影響する魔術なだけあって、発動が早く、何より自分が死ににくくなる。そのかわり他人に直接影響を与える魔術はごく少なく、難易度が高い。
そして
これは基本的に、魔道具などのアイテムに事前に魔力回路を組み込んでおくことで、他の系統の魔術に比べても複雑で強力な魔術を行使することが出来る。効果は様々で、武器や防具ならば単純に強力になるだけでなく、属性を付与したり、魔術に対する防御力を得ることも出来る。何より、術者本人でなくても、使い方さえわかれば誰にでも使うことが出来ることも大きな利点だ。
ただし、事前に有効な魔道具を用意することが出来ればだ。状況に応じて
あ、利点がもう一つ。魔獣が持っているものや他人の魔術を、強化することが出来るのも付与魔術だけだ。グリフォンの羽根から魔道具の
これは、捕まえたり召喚したりした動物や魔獣を使役する魔術だ。何を使役するかによって、その効果は様々だ。戦闘能力でいえば、強い魔獣を使う魔術師が単純に強いし、特殊な能力を持った魔獣を捕まえられれば、生活を豊かにすることも出来る。例えば水の精霊を捕まえられれば、水道代がタダになり、洗い物も楽々だ。
最後に
その数は少なく、他の魔術の分布割合は一般的に『放出魔術:肉体強化:付与魔術:使役魔術』=『3:3:3:1』といわれていて、希少魔術はその中の誤差程度しかいないといわれている。ただし、
さて、魔術は技術だ。一人の人間は、基本的にはどの魔術も使うことが出来る。ただ、不思議なことに、生まれ持った個人の素質によってその効果に大きな差がでるのだ。
それは本当に顕著で、放出魔術に素質がある人が肉体強化を使おうとしても、肉体強化に素質のある人のそれに比べて、一割も効果を発揮しない。希少魔術に至っては、素質が無ければどれだけ練習しても一生使うことは出来ない。
魔術を使うためには、まず魔力回路を組む必要がある。
魔力回路とは、魔術がどんな効果を生み出すかを決めるためのプログラムのようなものだ。それは術者のイメージによって空中、もしくは道具や触媒などに刻まれ、それ自体には魔力はほとんど必要無い。その魔力回路に魔力を流し込むことで効果が発揮され、魔術が発動する。
そのときに必ず必要なものが、『呪文』だ。ただし、文言そのものの意味はあまり関係ない。術者が精神集中できるものであればオレのようにカッコイイ
逆に、猿ぐつわなどされると声が出せないから魔術が発動できない。うめき声のような音でも出せばいいというものではないのだ。
余談だが、魔術を発動すると、魔力回路に特有の発光現象がみられる。しかも魔術の種類によって色が違い、放出魔術は緑、肉体強化は白、付与魔術は赤で、使役魔術は青。希少魔術はこれもその他の色になることが多く、術によって千差万別。
何故そうなるのか詳しいことはわかっていないが、魔法陣にも似た魔力回路が輝くのはカッコイイ。これはこの世界でも共通の認識だ。
オレには、
ジン師匠も同じく付与魔術の使い手で、オレは師匠から様々な魔術を習った。逆に、師匠の魔術研究の力になることもできた。例えばこの四次元ウエストポーチ。元々師匠が魔術理論を完成させていたのだけど、何故かどうしても発動しなかったという。そこでオレが通常よりも極端に過剰な魔力を注ぎ込んだところ、見事に発動したのだ。単純に、普通の人ではパワーが足りなかったということだ。
そんな人を選ぶ魔術に対して、師匠がへそを曲げなかったかって? 逆だ逆。自分の理論が正しかったことが証明できて、嬉々として一般人が使えるようにするための改良を始めたほどだ。師匠は根っからの魔術研究家なのだ。
そこで、師匠と共に魔術の能力を鍛えた。そこから約二年の間修行を重ねたのだ。時々、不意に現れるグリフォンを相手に修行をしたこともあった。グリフォンもあの大爆発は堪えたようで、オレのことをどことなく認めてくれているかのように、修行に付き合ってくれたのだ。
ただ、研究や修行はそれはそれで楽しかったが、オレには目的がある。いつまでもここで研究をしていたいのも本心ではあるが、師匠からのお墨付きを貰えたことで、旅立つことを決心したのだ。
旅立ちを決めたとき、餞別として師匠から魔道具をいくつか渡された。そのうちの一つを紹介しよう。
それは、師匠自身が最高傑作の一つと言っていた『最上大業物 第三種』相当の魔剣『
この世界には、魔術の触媒となる希少金属がある。有名なのはミスリルだが、もっと希少で効果の高い素材が三種類ある。
一つは『
次に『
そして『
『
いつも間違いそうになるが、間違っちゃダメだぞ。
この
通常のミスリルは銀色だが、明星の夜銀は表面が黒色をしていて、魔力をなるべく漏らさないようになっている。だが、内に秘めた魔力を完全に遮断できず、小さな穴のような白い穴がいくつか散らばっている。暗いところでそれを見ると、まるで夜空に浮かぶ星々のように見えるのが、名前の由来だ。
星空の魔刃は刃渡り八十センチほど。ロケットを縦に割った断面のような、柄もとが少し太く、切っ先がなだらかに丸くまとまって尖ったシルエットをしている。色は当然黒で、特徴の星空の模様に、刃の部分だけが二ミリほど研がれて銀色になっている。
星空の魔刃には、三つの魔術が付与されている。
一つは、空間を切り裂く魔術。
四次元ポーチと同じく空間干渉魔術で、膨大な魔力を必要とする。ただし、空間ごと切り裂くために、どんな防御力も完全無効。魔術が成功し、干渉した空間を切ることが出来さえすれば、なんでも切れる。オレが『
二つ目は最近解読した、遠隔操作の魔術。
文字通り、手を離しても剣を自在に動かすことが出来る。ただ、まだまだ練習中で、実戦に使うにはまだ時間がかかりそう。
最後は……まだ不明だ。
この魔術を読み解いて使いこなすようになることが、師匠からの宿題なのだ。
魔術の元となる魔力回路を読めば、基本的にどんな魔術でもその効果を知ることができる。が、師匠の作る魔力回路は細かいうえに複雑で、なにがどうなってるのかさっぱりわからん。しかもわざわざ、魔術を理解していないと、単純に魔力を流しても発動しないようにしてあるのだ。メンドクセー。
そんなこんなだけど、他に二つと無い最高の魔剣だ。
オレはそれらの魔道具を持って、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます