第4話 警備?

「あ、お客さんみたいよ」


 ミズキの言葉で、オレの回想がさえぎられた。声で、少し緊張しているのがわかる。


 神社の、サッカーコートが二つ三つはとれそうなそれなりに広い敷地を参道が貫いている。参道でないところには所々植樹され、涼しげで落ち着いた雰囲気を醸し、近隣の住人の憩いの空間であることがうかがえる。

 一番奥の所に社があり、自分達はその辺りにだべってるわけだが、参道の先、入り口の所に強化馬に引かせた大きめな馬車が止まっているのがかろうじて見えた。よく見えたな、あんなの。


 馬車から降りた人物は五人。いずれもスーツ姿で、一人を除いて大柄で逞しい体つきをしている。グラサンをかけたその一人を先頭にして、真っ直ぐこちらへ向かってきていた。


 こちらもミズキを先頭に、彼らの進行をふさぐ位置に立つ。神社の人は、いつの間にかいなくなっていた。


「こちらの神社の方とお話がしたいのですけど、取り次ぎしてもらえますかねぇ」


 言葉は丁寧だが、横柄な態度に圧倒的見下し感。

 完全にモノホンのヤクザです、はい。


「あいにく、今は手がはなせませんので、お話があるなら私がお聞きしましょう」


 ミズキが腕を組んで立ち向かう。


「あんたじゃぁ話になんねぇな。憩いの場を遺恨の場にはしたくねぇだろ」


 グラサンがオレ達を睨め付けながら言う。

 神社の方によると、この神社を安く買い取って、なにやらいかがわしい施設を建てる計画があるらしいのだ。立地上、ここがちょうどいいんだそうで。


 最初は正攻法で買い取りの交渉をしていたのだが、神社側が渋ると、嫌がらせの実力行使が始まったのだと。


 その嫌がらせからの警備が、清掃と共に受けた依頼だ。


「あんたたちが何度来ても、この土地は渡さないそうですよ。諦めたらどうですか」


 そう言ったミズキの後ろから、アマリンが声をかける。


「意志は堅いですよー。どうにもなりませんよー。えーとこういう時は……」


 アマリンはちょっと考えて続けた。


「どうぞ、一昨日おとといいらしてくださいね」


 ちょま、それケンカ売ってるヤツ!

 案の定、何かがキレる音が聞こえてきそうなほど怒りをあらわに、ガタイのいい四人が進み出てくる。


 アマリンは相手がなんで怒っているのかわからない様子で、オロオロしている。天然なのか? 演技なのか? 判断がつかない。


 その四人を威嚇するように、ミズキの隣にメラルドが進み出る。


「……」

 お前は何にも言わねーのかよ。


「あそう、ふぅん」

 グラサンはメラルドを見たあと、奥の建物に目を移す。


「あんな古いだけのボロ家ってのはさ、火でもついたらよく燃えると思わねぇか?」


 ミズキの背中がビクリと震える。そこまでの実力行使をされると、オレ達だけでは防ぎようがない。


「そんなこと、オレ達に言っていいのか?」


 しょうがないからオレも前に出る。


「真っ先に疑われるのはお前らだぜ?」

「なんの証拠があるってんだ」


 グラサンはあくまで強気だ。やっちまえばどうにでもできる自信があるのだろう。


「あんたらだって、神社とは関係ないんだろ。下手に首を突っ込んで、自滅することもないんじゃないか」


 グラサンがミズキを睨みつけて言う。

 ミズキに代わってオレが言い返す。


「やれるもんならやってみなよ」

「後悔すんなよ。助けはこねーぜ」


 ガタイのいい四人が上着を脱ぐ。

 オレの安い挑発に、簡単に乗ってくるヤクザ達。

 それを見てアマリンが嬉しそうに言った。


「人目がないなら、思う存分やっつけられますね!」


 あんた、ナチュラルにケンカ売るのな。


 ヤクザが、魔術を発動する。


 全身が淡く光ったかと思うと、筋肉が隆起し、体が一回り大きくなる。そのうちの一人など、両肩の後ろからシャツを突き破って腕が生え、四本腕となる。


 あれだよな、わざわざシャツを破ってみせるとか、威圧のための演出だよな。


 ヤクザ達が使ったのは、『肉体強化エンハンス』の魔術だ。文字通り自らの肉体を強化する魔術で、最上位になればドラゴンにだってなれる。


 オレも魔術を発動する。


魔術付与エンチャント:基礎増幅ブースト

 オレは呟き、服に編み込まれた魔力回路に魔力を流すと、魔法陣にも似た魔力回路が一瞬赤く輝く。

 それだけで魔術効果が発揮され、全身の能力が飛躍的に向上する。


 オレの魔術は付与魔術エンチャントだ。


 今回、結果的に効果はヤクザの魔術と似たようなものだが、力の源が違う。


 隣では、メラルドも魔術を発動していた。

 ヤクザと同じ、肉体強化エンハンスだ。腕は増えていないが。


 オレとメラルドの前に、それぞれ二人ずつヤクザが来た。オレの前の二人のうち一人が四本腕だ。まあ、腕が増えたところでなんの問題もない。


 オレは頭にかぶっていたフードを外すと、歩いて二本腕に近づく。なんか表現がおかしい気がするが、気にするな。


 目の前で立ち止まると、そいつはオレの胸ぐらを掴んできた。


「ナメた口きいてるとどうな」


 そんなヤツの言うことなど最後まで聞かない。セリフの途中でヤツの脇腹を殴る。胸ぐら掴んだ腕の方だ。自分の腕で死角になるし、防御出来ない。


 ヤツは二、三歩よろめく。お、手応えから肋骨の二本くらいは折れたはずだが、倒れなかったか。


 それを見た四本腕が突っ込んでくる。その腕が届く前に、タイミングを計って股間を蹴り上げる。下の二本の腕でガードされるが、それこそが狙いだ。必然的に前傾し、前に出た顔面に向かって頭突きを食らわせる。顔面への攻撃は、物理的なダメージもそうだが、精神的にも大きなダメージを与える。


 懲りずに殴りかかってくる四本の腕をかいくぐり、二回目の頭突き。


 下がったヤツにさらに追いすがり、頭突いてやろうとすると、恐怖にかられたか、四本の腕をすべてガードに使う。

 がら空きになった股間を蹴り上げると、うずくまって動かなくなった。


 そこへ一人目が復活し、横手から殴りかかってきた。


 その拳を左手で受け止め、そのまま掴んで離さない。


 押しても引いてもびくともしない拳を握り潰されそうになって、二本腕はうめき声をあげた。


 オレはグラサンに笑いかける。これから獲物を狩る、蛇の笑みだ。


 オレは掴んだ拳を右方向に投げる。


 グラサンは、視界を遮られた一瞬の間に、オレを見失った。

 実際は単純に高速で移動しただけだ。視線の誘導とタイミングを外すことで、認識の外へ離脱したのだ。

 そのままグラサンの真後ろをとると、その首の後ろを柔らかく、しかし抜け出すことのできない力で掴んだ。


「こ、こんなことをして、タダですむと思うなよ」


 グラサンが負け惜しみを言う。


「やりゃあいいじゃん。オレには関係ねぇし」

「はっ、だったらこの手をどけろ」

「勘違いするなよ。もしこの神社に何かあれば、お前がどこにいようと探し出して追いつめる」

「ヤクザを敵に回すつもりか。それに、どこに証拠が」

「証拠なんていらないさ。誰がやろうと関係ない。神社に何かあったら、お前という個人を探し出して」


 少し手に力を込める。


「殺してやる」

「うぐぅ」


 突き放すようにして手を離す。


「そんな、理不尽な」

「お前がいうな」


 そのとき、メラルドが残りの二人のヤクザを倒した。なかなかやる。


「帰るぞ! 何をやってる、立て! 一度戻る」


 グラサンがそう言って元来た道を戻ると、他のヤクザも傷を押さえながら歩く。

 実力差は思い知ったはずだ。


 いくらヤクザの幹部だとて、四六時中、部下を使って身の回りを固めるのは無理だろう。そんな姿はヤクザとしての顔もたたない。しばらくは怯えて暮らすがいい。


 だめ押しで声をかける。


「夜道には気をつけな」


 オレが言うと、


「特に月のない夜道はねー」


 なぜかアマリンが続ける。なんなのこの

 

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