第3話 異世界転生
その次のオレの記憶は、三、四歳のころのものだ。積み木の車のようなオモチャをもらい、それではしゃいで遊んでいると、つまづいてこけてしまったのだが、手から離れた車のオモチャがそのまますーっと進んでいくのを見て、自分はこんなに痛いのに平気で進むオモチャに対し、泣きながら理不尽な怒りを燃やしたことを覚えている。
オレは、異世界の中級貴族の三男として生まれ変わっていた。
そしてオレの胸には、生まれたときから紅い宝玉が埋まっていた。
この世界ではまれに、こうやって体のどこかに宝玉やそれに類するものが埋まった状態で産まれることがあるらしい。
この宝玉は
オレの胸にあった紅玉は、強い癒やしの効果を常に周囲に発揮していた。特に強い影響があるのが半径二メートルほどの空間で、この範囲内では、刃では人が殺せない、とまで言われるほどだった。
そんなとんでもない
そして十歳になるころ、唐突に前世の記憶がよみがえった。
そのときには、丸三日間意識を失っていたらしい。家族は心配して、さまざまな種類の専門の医者を集め診てもらったようだが、治療はおろか、原因すらわからない有り様だった。この間に記憶の更新がされていたのだろう。目覚めたときには自分はカケルであり、同時に今はクロスであるということが、なんの違和感もなく受け入れられていた。
だが、それから二日ほどは、ふさぎ込んだようになってしまった。
家族は意識が戻ったことは安心したものの、原因不明の奇病であるなら気が抜けないと、医者を何人も付き添わせたがったが、オレが一人にしてほしいとみんなを追い出すと、ゆっくりと考える時間がとれた。
オレは後悔していたのだ。
前世で、安易に自殺を選んでしまったことを。
いや、あのときは、あれ以外の選択肢は存在しなかった。それ自体に後悔は無い。
クロスとして、カケルとは違う環境で充実した生活をすることで、あのときやり残したことに気付いたのだ。
例えば逃げること、例えば助けを求めること。
当事者としてのカケルは経験も乏しく、精神的に強烈なストレスを受けることで、視野がかなり狭くなっていた。今なら、あの状況を打開する方法がいくつでも思いついた。
もう一つは、復讐だ。
どうせ死を選ぶことは決まっていたのだ。夜道を襲うでも罠にかけるでも家を燃やすでも、何かしらの報復はできたはずなのに。オレをいじめていた奴は今ものうのうと生きているのだと思うと、怒りをおさえることができないほどだった。
そして、カレンのこともだ。
病気が良くならない以上、カレン自身が死を求めることを止めることは出来なかっただろうけど、それでも、死ぬまでの間にもっと楽しい思い出をつくってあげることは出来たはずだった。
二人ともが、ただただ絶望のなかで死ぬことはなかった。
だからこそ、オレが転生したように、カレンも転生した。
このオレの胸に、
あのとき、流星に打ち抜かれたとき、オレは衝撃でカレンと離れてしまわないようにするのに必死だった。そしてとっさに願ったのだ。彼女を守るための力を。流星の衝撃にも負けない、無限の力を。
そしてカレンは、オレの肩越しに見たのだ。オレの千切れた下半身を。それを戻して、治さないといけないと思ったのだろう。生まれた時から治ることのない病を負った彼女は、健全な肉体を死ぬほど望んでいたのだから。
二人の願いは、流星のあの謎の声が聞いていたのだ。
そして、それを叶えた。
オレには無限ともいえる魔力を。
カレンにはあらゆる傷を癒やす魔術を。
与えてしまったのだ。
ただ、あのときの声が言っていた。『エラー』だと。『イレギュラー』だと。
つまりこれは、バグのようなものなのだ。
少なくともカレンは、明確な意思もなく、ただただ強力な治癒魔術を溢れさせ続ける魔導石という存在になってしまった。
なにが
この転生に関することは、オレのただの直感だ。だけど確信もしている。
魔術は、魂がなければ使えないといわれている。ゾンビやゴーレムは魔術が使えないし、肉体が無事でも、術者の魂が死んでしまうと、持続性のある魔術でも消滅してしまうのだ。
だからこそ
だけど、カレンのように特殊な転生をしてしまった転生者であり、魂を宿した物質だとすれば謎は解けてしまうのだ。
それが一番、オレの精神を蝕んだ。
カレンをこんな姿にしてしまったことを。
だが、オレになにか出来るわけでもなく、現状を受け入れるしかなかった。
それに二日かかったのだ。
今後悔していてもなにもならない。だったら、自ら力をつけ、研究をすれば、なにか解決策が見つかるかもしれない。そんな不確実な未来に希望を託す形で、オレは生きていくための理由を見つけたのだ。
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