写真を撮るように、

003 名もなき、

 揃いの制服を着た中学生が三人、揃ってズボンのポケットに両手を突っ込み、肩が触れるほど近く並んで笑いながら横断歩道を渡って行った。

 舗道に上がると彼らはまるで速度をゆるめることなく二人と一人に別れた、二人と一人は別々の方向に歩き出しながら少しだけ顔を傾け短い言葉を交わしたようだった。


 彼らは考えるだろうか、今夜三人のうちの誰かが死ねば二度と同じ帰り道は実現しないと。

 ほんの短かな「じゃあな」でふつりと終わる関係もあるのだと。


 二人は笑い、何か話しながら歩いた。

 別れた一人がしばらく行ってからちらと振り返った。


 その光景が最後の最後にならないと誰が約束できるのだろうか?


 二人は視線に気付かなかった。

 私だけが見ていた。


 こうして事実は、その行い手とは別の場所にしか記録されず、行い手も対象も永遠にこの記録を知ることはない。

 私ももうすぐあの光景を忘れ去るだろう。

 再構成された文字だけがここに残るが、私はいつかここを消すだろう。

 そうして手が届かなくなる。


 世界は無名の、決して手の届かない、無数の事実でできたれきの箱庭である。

 事実の死骸を積んでは忘れ、誰もが通り過ぎていく。





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