009 流れ

 街の底は重みを欠いた泥だ。

 混ざり合っている、ケミカルな甘い香り、喉の斜め後ろの所で鳴らされる作り声、予定、マスカラのさらついた膨らみ、約束、煙草の匂い、髪の毛に反射する蛍光灯、期待、携帯のキイのかすかな音、鍵の鳴る音、何処かへの、速度、速度、速度。

 とろとろと煮込まれて正体の分からないこの、汚泥のスープの潮目を読んで、同じ模様の魚のように泳ぐものどもよ。

 食われる時も声は上げなかったそれもまた日常だからだ、最早明確に思い出せない既存のフレーズで、吠えるように夕日をね返すビルの硝子壁、猛禽は別の場所にいる。



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