ボロ衣の天使
「次の方どうぞー!」
ヘンドリア王国
彼女はボロ衣を自ら結い、服とも呼べぬ衣を纏っていた。髪は真っ直ぐに腰まで伸ばし、清楚で可憐な雰囲気、片手ですっぽりと覆えるような小さな顔に、大きな二つの目、筋の通った鼻と愛らしい唇がのせられている。
「じゃあ回復しますね」
彼女は白魔術を用いて、西地区の怪我人、病人を治していく。
「おねーちゃん、ありがとう!」
彼女はそう言って笑顔で帰る子供たちに癒されながら、この無法地帯に身を置いていた。
「コハルちゃん、助かるわー。あなたが来てからこの町の治安も良くなったみたい」
「そうですかねー。そうなってると嬉しいな……」
彼女は異世界からの転生者だった。名は、
いつの間にか彼女の周りには人が集まり、笑顔が溢れる。彼女が来てから、事件の件数も数件にまで減り、子供たちが身体を売るような商売も、無くなっていった。
「あら、ハーブが切れたみたい」
そんな彼女を手助けする者らもいる。主に彼女に助けられた、西地区の住人だ。
「それなら私、買ってきますよ」
恋春はにこりと微笑むと、バスケットを抱えて中央区へ出た。基本的に西地区の住民は中央区、東地区、北地区には入れない。買い出しは主に彼女が行っていた。
ハーブの香りはリラックス効果があり、精神の安定に期待が出来る。しかしハーブにも危険なものがあり、麻薬のような効果が出てしまうものもある。そのため、なるべく信頼性の高い店で買わなければならなかった。
中央区へ出て、外れの邸宅のドアを叩く。いつもハーブを売ってくれるこの館の主人は、元々考古学者だったらしい。
「コハルちゃんね。どうぞ」
メイドに案内され、中の売り場まで足を運んだ。客はいないが、別に特別待遇という訳ではなく、単に屋敷に入ってハーブを買おうなんて思う人間がいないだけである。しかし、今日は何やら奥の書斎が騒がしい。
「あ、そうそう。今日はお客様が来ていたんだわ。珍しいでしょ?」
「いいえ、やっとホリスンさんのハーブが認められたんですよ」
奥の部屋のドアを開けると、二人の男が家主であるホリスンのと話していた。一人は赤く髪を染めて、一人は見上げるような大男だった。
「ほう、懐かしい。ゼネガルの奴、まだ生きておったか」
懐かしそうに目を細め、頷きながら書類を見る。
「早速で悪いんですが、ホーリーラジェントが記された手記について詳しく教えてください」
ホーリーラジェント……!?
恋春は聞き慣れたその言葉に、過敏に反応していた。
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