職業勇者
ユグレルの中央にはこの国のものであろう文字で、『案内所』と書かれていると教えてくれた。
「この世界には様々な職業が存在する。それも、数え切れないほどに。その最適なものは何かを相談してくれるのが案内所だ。道案内もしているが、大抵人生の案内をしている」
案内所のスタッフを呼び、ステータスを測ってもらった。当然、驚かれる。……悪い意味で。
「HP1で防御力0て!」
プフーと茶髪の女性スタッフに思い切り吹かれた。
「お前……外れ番号だな。思いっきり」
「……そうなのか?」
凌馬は攻撃力無限、HP1、防御力0の数字を見てそう呟いた。
「いやぁ、戦闘系は厳しいと思いますよ。だっていくら攻撃力が高くたって死んだらおしまいですから。身長も高いし、ガタイも良いから、土木関係とかどうですか?」
「それは無理だ。冒険できる職業でないと困る。非常に困る」
純貴は断固抗議する。
「しかしねぇ……こんな転んだだけでも死にそうなステータス見せられたら勧められないですよ」
「確かにそうなんだが……頼む。どうしても探し出さなきゃならないものがあるんだ」
うーん、と女性スタッフは頭を搔く。
「でも、それ以外は素晴らしい数値ですんで、まあ何にでもなれるといえば何にでもなれるんですが……」
「じゃあモンクにしとけ。オーク殴り倒したんだろ? 自分にしっくりくるのが一番成長が早いし、何より能力以上のものが出る」
「じゃあ、それで」
女性スタッフは「了解しました」と裏へ行くと、一つの光沢のある、クレジットカードのようなものを持ってきた。
「これがあなたのジョブカードです。身分証明書にもなりますので、無くさないようにしてくださいね」
「ジョブカード?」
「ああ。俺が説明しておきます。行くぞ」
半ば強引に純貴を引っ張り出す。訳もわからずされるがままにした。
「ジョブカードってのは名前、職業、ギルドランク、自分のステータス、能力とか個人情報がガッツリ入ってるカードの事だ」
「へえ。でもそのくらいあの人にも説明できたろ。何で……」
「今から説明する。この世界の言語は日本語じゃない。神様が、この世界に来るとき日本語に翻訳してくれるように脳の機能を少しいじっているんだ」
ほうほう、と純貴は頷く。
「まずこの世界自体にステータスという概念はない。あくまで目安的なもので、神様がわかりやすいようにRPGになぞられて翻訳しているだけだ。つまり具体的に数値化されていない。HP80で敵から81ダメージ受けても生きてることがあるし、逆も然り。当てにならないし、具体的なステータスの数値を現地民に言っても、混乱してしまうし、何より敵国のスパイだと疑われてしまうリスクがある。あっちが言ってくる分には良いが、俺ら転生者は言わない方がいい」
長い説明を聞き、簡単にまとめる。
「つまりステータスのことは、こちらから言っては混乱するからダメなんだな。それとギルドランクって何だ?」
「ギルドってのは仕事仲間の集いだ。戦闘系ギルドだと、依頼を受ける場所だが。ギルドランクってのはギルドに所属するやつの階級だ。下からブロンズ、シルバー、ゴールド、カジオスまでが通常ライン……つまり引退するまでに大半の人が出来る出世ラインだ。現代日本のサラリーマンで言うと、課長とか部長とかと同じくらいの偉さだ。そこから上、レルフォス、クリンネバルバ、最後にラジェントと続く。クリンネバルバまで来ると国から勇者としての指名が入るようになる。俺はそこを目指しているわけよ」
「じゃあ、勇者を目指しているってこと?」
「当たり前よ。まず何で最初から勇者じゃないのか疑問だったぜ。それもこれもまあ、当たり番号のチート野郎どものせいだが……」
二人はギルドのドアを開いた。中はガヤガヤと賑わい、タバコ臭く、屈強な男たちが集まっていた。壁には一面に何か書かれた紙が規則正しく並べられている。
「これは……」
「クエストだ。一部では注文表と呼ばれているがな」
いきなり長い金髪を三つ編みにし、横に垂らした長身の男が、純貴らの前に現れた。
「レルガンさん」
凌馬にレルガンと呼ばれた男は、まつ毛が長く、女のような顔立ちをしていた。
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