炎精霊の守護

 『力に成りたい。』

 その声がまた聞こえた。

 そして、こんな声も聞こえた。

 『少しだけ、力に成れた。』

 自身の無力さに打ち克ち、それを心の底から喜んでいた。

 嗚呼、祝福を。

 我が主の喜びは我が喜び。

 我が主の心は今、空に散りばめられた星々全てを、たった一つの金剛石に閉じ込めたとしても叶わぬほど輝き、春の陽光が霞む程の温もりと未来に満ち溢れている。

 わが心には太陽が如き炎が灯った。

 主の光は我が光。

 嗚呼、祝福を。



 ………………守りよ。

 主の周囲に在る炎が囁いた。

 主に危険があると囁いた。


 我は炎熱と叡智を司る。

 故に、我を炎熱で屠る事能わず。

 故に、炎熱の悉くは我が盟友にして我が手足にして耳にして眼。

 主の危機。故に、盟友に願い奉る。

 我が主に守りを。

 指先に魔力を灯す。

 僅かな力。炎を細く、長く、力強く。

 我が力よ、汝が元に。我が主の為に、どうか。

 我が力の一端を、囁いた炎熱へ、伸ばしていく。

 洞窟の暗闇を走り、伸び、届ける!

 仄かな光をもたらす松明へと炎熱をもたらし…………………弾ける。

 「熱ッ」

 主から危機が去ったのが伝わった。



 「主よ………良かった。」

 胸の枷が取れた。

 後は、招かれざる客を、灰燼に変えるだけだ。

 洞窟の向こうからやって来る重圧。

 龍……鬼………悪魔…………否、アレは何だ?

 今までに対峙した輩の中に、同じ者は無かった。

 異質、異様、異常。

 この世のものとは到底思えない。

 我が叡智にも無い存在。

 しかし、私には解る事が三つだけある。


 危険である。

 恐ろしきものである。

 私は止めねばならない。


 灯火が如き、火の粉が如き我が力。

 しかし、私は逃げる訳にはいかない。そして、この場と言う頸木から逃げられはしない。

 故に迎え撃とう。

 願わず、望まぬものは灰燼となって疾く消えるが運命。



 「さぁて、私を呼んだヤツはこの先かしら?」

 力の奔流。視覚ならざる眼で捉えると、悍ましき力で視界が歪む。

 『人ならざるもの』

 幽かな肉体を、精神を、燃やす。

 我が主の為にも、私は燃やさなければならない。

 願うもの、望むものに力を。

 しかして……………………

 「お前は、何も願っていない。何も望んでいない。」

 炎を一息。視界が紅蓮に染まる。洞窟内の空気が膨張し、轟々と唸りを上げる。

 たとえ金属で武装しようが、魔術で護ろうが、この紅炎は全てを蒸発させる。如何な守りをも灰にする。

 この洞窟内では避ける事なぞ出来ない。

 攻撃は当然能わず…………………………………………………ほう。


「願いとか望みとか、そんな事私にはどうでも良い。

私はアンタのその面に挨拶噛ましたいだけ!!望みなんざぁ叶えんでも良いよ?勝手にぶん殴る

からナァ!」

 紅炎が晴れて、傷一つ無い四肢の娘子が現れた。







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お待たせして申し訳ございませんでした!(作者より)

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