炎精霊の回想
気付いた時には自分は燃えていた。
意味も無く呼ばれた訳がない。しかし、呼び出す為の祭壇は在れど、主の姿が無い。
私は座して待った。
契約も無く我ら最高位の精霊は動く事はままならない。
ただ、迎え、従い、力を持つに相応しい主に、相応しい力となって我が力を振るうその時まで待つだけ。
我が叡智は問い掛ける。
我が主は、炎と叡智を司る自身を使役して、一体何を為すのだろうか?
全てを焼き払い、無に帰すのか?
己の全身全霊を燃やして輝き、燃え尽きるのか?
純粋に全てを知ろうと足掻き、非道と外道の奈落に堕ちるのか?
嗚呼、最後はいつもの事だ。
下らない理由で人や財を浪費し、自分以外に苦痛を強いて私を呼び出す。
我が主にはなり得ない無力と非力が傲慢に契約を強いようとする。
そうしたら、焼く。
相応しくない主であれば、灰燼に変えよう。
肉も無く、骨も無く、自らがそこに居た跡形も無く、焼き消してしまおう。
私の叡智と炎が為に僅かな命の者達を無為に捨てるなぞ、愚行。
醜い欲望を叶える為に大きな力を使おうとは、なんと小さく、愚かな事か。
嗚呼、私の悪癖だ。
叡智故に思考は意志を離れて動き始める。
止めよう。
何も考えず、在りもしない願いと祈りを無様にも心の底で求めるとしよう。
そうしている内に、私は消えるだろう。
『私に力が有れば』
思考無き世界に沈む私に届いたのはそんな小さな意志だった。
またしてもか………。
力を求めて溺れて沈む…………………
『私は何も出来ない。』
?
『力も無い。知恵も無い。お金も無い。何も出来ない。迷惑を掛けるだけ。
私を助けてくれて、私の為に動いてくれて、私の事を考えてくれて…………………………。
私は何をしてあげられる?私は何も出来ない。何の力も無い。
私は力に成れない。私は足手纏い。
気にしないって笑ってくれるけど、そんな事無い。
私は迷惑。このまま私はこのままじゃだめ。
なんとかしなくちゃ。
でもどうやって?
私には特別な力は無い。
何もしてあげられない。
私に力が有れば、少しでも有れば、力に成れるのに。
御礼ができるのに……………』
小さくも、哀しみと憂いに満ちた感情の奔流。
小さく、しかし強い祈りと願いが込められた思い。
『力に成りたい。』
力が欲しい。
力が有って欲しい。
それが個人の虚栄心を満たす為のものではなく、他の為、自分を思い、慈しむ者の思いに応える為に求むる。
美しい。
他が為の力を求むる。それを私は『願い』・『祈り』と呼ぶ。
そして、叡智と炎を司る私は、持てる全てでその願いと祈りに応えたいと強く思う。
彼の者こそ、否、彼のお方こそ、我が主。
我が叡智と我が力の全てを捧ぐに相応しい御方。
主、主よ。
どうか、我が元へ。
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