炎精霊の享楽
回避を潰した純粋な熱量攻撃。
逃げれば後ろから焼き、立ち向かって来たとしても攻撃ごと灰燼に変え、防ごうとしても周囲の空気ごと急激に加熱するが故に体内から消炭となる。
純粋な力。しかし、この場における最適解の一つ。
相手が魔導の徒であろうと、剣や拳に生きる者であろうと、この紅炎から逃れる事は能わず…………………の筈の紅炎を防いだ。
興味深い。
我が紅炎。あのような方法で防いだ者は我が叡智には無い。
認めよう。この娘子は素晴らしい力を持つ。最上級の炎精霊たる我が認めよう。
しかし、やはり違う。
その眼には何処までも闘気を滾らせて、活力を漲らせて、希望を湛えていた。
私の主ではない。
「待っていない。お前は待っていない!」
否定の言葉。それと共に拒絶の意を込めて焔球を展開する。
速度は並。軌道は直線的ではあるが、展開したそれらは肉を焼き、骨を塵に変え、鉄を熔かす超高温の炎熱。人間にとっては正しく必殺と言えよう。洞窟の様な移動の制限される場所では躱す選択肢は無く、生身で防御をしようとすれば、防御に使った部位は灰になり、燃え広がり、命までもを焼く。
それを、それら全てを素手で、何の魔力も持たない娘子の手が掻き消していく。
純粋な武術の類であろうと予測出来る手の動きは、全ての炎を霧散させていく。
掻き消えていく炎の中からは無傷にて、不敵に笑う娘子。
我が炎熱を前に臆せず、真っ向から掻き消すその意気や良し。
そして、それを誇る事も無く笑い、この炎を恐れずに更に向かう意気や良し。
畏怖でも無く、恐怖でも無く、好奇心でも無く、信仰でも無く、狂気でも無い。純粋な闘争の意志。
久々に向けられたこれに対し、我が内なる炎が僅かに揺らぐ。燃える。滾る 。
この娘は容易には燃え尽きぬ。私を前にして、対等に挑もうとしている。そして、挑む事が無謀とは言い切れない。
あぁ、少し楽しい。
全身から鳥の形の炎を生み出す。
純粋火力を弾かれるのであれば、弾けぬ死角から炎を喰らわせるまでだ。
娘子の周囲を旋回飛行させ、火の鳥を全方位から一斉に襲撃させる。
が、娘子は防御をした。それは即ち、守らねば無事では済まないという事。
相手が守りを展開するのであればその隙を突き焼けば良い。
全方位からの一斉攻撃。
それに対して、娘は背中から何かを取り出した。
それの正体を確かめようと目を向けたが、次の瞬間にはもうそれが何なのかは解らなくなってしまった。
轟音、何かが空を切る音と共に火の鳥たちが地に堕ちる事さえ無く消えていく。
娘を焼く前に、嘴を折られ、翼をもがれ、無くなっていく。
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