走れヒロイン!
《投稿遅れて申し訳有りません。BY黒銘菓》
八華は激怒した。かの性悪なメガクロヘビを一発ブン殴らねばならないという使命感に似た憤怒を、ブチ撒ける相手を追いかけつつ抱いていた。
八坂は激怒した。傍に居たにもかかわらず、テミスちゃんをむざむざ攫われた自分の無様さに激怒していた。
「テェェェェェェェェェェエミィィィィィイイイイイスゥゥゥゥゥゥウウウウウウチャァァァァアアアアアン!」
八華は走った。メロスをバックミラーから消してやる位には走った。
ウサインさんに背中を見せる位には速く走った。
有識者から見たら『これ、衝撃波でテミスちゃんの方が危険では?』と思う程、走っていた。
零コンマ数秒後、八華が見た光景は信じられないものだった。
「ンー!ンーンンンンンンンンンンンンンン!」
その少し前、テミスは囚われの身となっていた。
八華が大立回りをしている間、息を殺し、目を瞑り、彼女の無事を祈っていた。
「ジェェェェェエエエエエエ!」
故に、体を分けたメガクロヘビの分体に気が付く事無く、助けも求められず、黒い泥に絡めとられてしまった。
デリードの防具故にまともな傷を付ける事は能わない。が、身動きが取れない様に拘束する事は出来た。
そして、その場で危害を加えることが出来ないと知ると直ぐ、メガクロヘビはその場から立ち去る事を選んだ。
『人質』である。
私、死ぬのかな?
テミスは考えていた。
身体は黒い泥の様なもので覆われて動けない。
自分は非力でこの黒いドロドロを如何にかして倒す事は出来ない。逃げる事も出来ない。
無力を悔やんだ。
自分は守られ、思われ、微笑まれ、施され、何も出来ない。
足を引っ張る事は有っても力になれたことはない。
今もそう。
おねえちゃんは多分、私が居ない事に気付いて助けに来てくれる。直ぐ。
この黒いのは速いけど、多分直ぐに追いつかれる。
この黒いのはそれでも構わないと思ってる。ううん、多分狙っている。
多分、私が居るのを良い事にお姉ちゃんが攻撃出来ない様にするつもりだ。
「テェェェェェェェェェェエミィィィィィイイイイイスゥゥゥゥゥゥウウウウウウチャァァァァアアアアアン!」
お姉ちゃんの声が聞こえて来る。
来ないでお姉ちゃん!これは罠だから!私に構わないで!
しかし、彼女の声は響かない。
ドロドロした黒い身体で地面を滑る様に駆け抜けていくメガクロヘビ。
そして、その周囲で物音が聞こえる。
今まで弱い獲物であったが狙いたくとも狙えず、今になってやっと狙える様になったのを確認して舌なめずりするモンスター達。
そう、テミスは魔物除けのアイテムを失くしていた。
しかし、その事を彼女は誰にも言っていない。
今、彼女は攫われつつ、モンスター達の注目の的になっていた。
心配を掛けまいという他人を思いやる気持ちが裏目に出てしまった。
「じぇぇぇ……ジェィエエエェェェ!」
その事に気付いたメガクロヘビ。
しかし、彼女はデリードの防具に守られている。そこらのドラゴンや古代兵器の攻撃、王城の偉大な魔法使い(笑)程度の攻撃では傷一つ付けることは出来ない。
しかし、奴は狡猾だった。
「あっ」
器用に口でポンチョだけを掴み、テミスを空中に投げ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます