大蛇と凶獣

 『筋肉と考えるんだ!そうすれば真実はムキッと見える!』

 おじさんの話、思い出してみたけど…………結局何も解決してないじゃん!

 さっきから筋肉フル活用してるけど、メガクロヘビ相手に辛うじて反射対応出来てるだけだし!いきなり消える理由解らないし!

 そう思いながら、今度は背中から迫って来たメガクロをすんでの所で避けつつ、カウンターを喰らわす。

 蛇とは思えない硬い弾力が拳に響く。

 バチィン!

 軽く吹き飛びはするものの、やっぱり堪えていない。

 またとぐろを巻いてこちらを威嚇する………………ん?


 そう言えばコイツ、さっきから殴られた後にとぐろを巻いて威嚇するな……。

 消えた後の攻撃パターンは違うけど、消える前はいっつも一緒の行動パターン。

 とぐろを巻く。そして…………

 「消える。からの不意打ち!」

 バチィン!

 消えたメガクロが今度は右側面下から飛び込んで来た。

 殴り倒したメガクロは堪える様子が無く、またもとぐろを巻いて威嚇。




 『筋肉と考えるんだ!そうすれば真実はムキッと見える!』

 この言葉が頭に浮かぶ。

 (筋肉…………体の動き………………攻撃の前に必ずするモーション………………あっ!)

 特定の攻撃前に必ずするモーション。

 それは武術を齧った事が有る人間ならば誰もが思いつく筈の考え。

 『構え』だ。

 攻撃前に足を踏み込んだり、関節を稼働したり、息を吸い込んだり、胴体を回転させたり……………予備動作として行われるソレは、次の行動をより速く、より鋭く、より強大な力で、より最適に行う為の最短距離を走り切る為の準備。

 逆に言えば、ある程度習熟した人間がその行動をよく観察すれば、次の行動を予測出来る。

 『筋肉と考える』それは、相手の肉体の動きを注意深く観察して次の動きや相手の意図を読み解けって事だったんだ!

 相手が自分の知らない生態系の生き物(?)だったからと言って考えないで殴るんじゃなくって、対人でぶん殴る感覚でやれって事!

 おじさん、ここまで考えていたんだね!有り難う!


 つまり、アイツはとぐろを巻く事で次の予測不可能な動きに繋げてるって事。

 そこまで考えれば後は予測が出来る!


 またとぐろが消えて今度は正面下から飛び上がって来た。

 バチィン!

 手応えがあまり無い。


 アイツが複数方向から攻撃してきて、その攻撃が頭から突っ込んでくる突進だって事。更に、アイツの皮膚の硬質ゴムみたいな硬さを考えると…………考えられる答えは発条バネ

 体をとぐろ状にする事で肉体を発条にして、筋肉と皮膚の弾力を使って飛び上がる。

 これによって急加速を行い、洞窟の壁や天井に衝突して、反射を繰り返して私の死角を取っていたって事だ。

 だって言うなら、対策は簡単。


 『領域掌握 暗域』


 目を瞑る。

 イメージは目に入る情報を切り捨てて耳だけに集中する事。

 目から脳に伸びている神経を途中でぶった切り、脳から目に伸びるコードを全部耳に突っ込むイメージ。

 目を瞑っても瞼が映る。それが徐々に見えなくなって、目が何も映さなくなる。

 代わりに耳が周囲の空間をよく見せてくれる。

 領域が広がり、強くなるのに従って自分の呼吸が徐々に煩わしくなって来る。


 「スー………………」


 呼吸音を、集中力を妨げない程度に意識して静かにする。

 すると、メガクロヘビの動きが見えて来た。



 バ(チッ)カラコロ    バ(チッ)カラカラ                バ(チッ) 

                バ(チッ)   ゴトッ            バ(チッ)

     バ(チッ)                   バ(チッ)ゴロっ



 身体自体の弾力が音を殺していたんだろう。

 こうして『暗域』を使っても跳躍音には聞こえない。

 寧ろ跳躍時に跳ねた岩の音の方がよく聞こえた。



 バチッ!



 頭上で他より大きな音が聞こえた。

 「ここ!」


 目を瞑ったまま両腕を肘関節が外れる寸前まで大きく広げ、それを上空目掛けて拍手する様に閉じる。

 ただ、拍手と違うのはその手の形だ。

 それは平手と言うより、獲物の命を刈り取ろうとする熊の手の様だった。

 軽く手を丸め、左右のそれぞれの指が、手を閉じる時にもう片方の手の指の間に入る様に閉じられる。

 まるで、獲物を喰らおうとする獣の牙の様に!


 『陰絵 大顎おおあぎと


 上から迫りくるメガクロヘビが全身の眼で見たのは、人の手を模した凶獣の禍々しい牙だった。

 ガブリ

 メガクロヘビの頭が喰い千切られた。









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