二つの策
「戦線維持!手の空いている者は土魔法で道を作って下さい!
その隙に門の内側の人間は逃げて下さい!」
ガービスが青筋を立て、汗を滴らせながら口にした。
余裕が無いのか、目を細めて笑うギルド長の姿は無い。
ガービスは上空の疑似太陽が徐々に徐々に、落下傘の玩具が落下している事を知り、完全な撃墜は難しいと判断していた。
たとえ正面から破壊できる火力が有っても、あの規模の炎の塊を吹き飛ばせば余波で甚大な被害が出るのは確実。
無傷での解決は無理だと知っていた。
しかし、彼は人命を犠牲にする事を決して許してはいなかった。
確かに、あの規模の攻撃が直撃すればこの都市全てが火の海に包まれる。
無事なのは強固な魔法に守られた王城くらい。
そして、王城は今現在、沈黙しているし、そもそも到底民草の為に城を開放するとは思えない。
故に彼が皆を守る為に考えた策は大きく分けて二つ。
1.城壁外のスライム包囲網に穴を空ける。
2.穴を維持しつつそこに土魔法で地上から離れた高所に道を作る。
3.道を利用して都市の一部の人間を逃がす。
先ずはこれで
しかし、突破口を作れるのは戦力を鑑みて辛うじて一つだけ。
都市一つの人数を脱出させるには突破口の大きさと数が到底足りない。
彼は全ての人間をこの都市から逃がす事は出来ないと解っていた。
故に、全員を脱出させる事は
一部の人間だけ、この都市から逃す事にした。
ゴゴゴゴゴと地響きが聞こえ、城門が揺れる。
城門から外に続く道、スライムが退けられた空白の地面が徐々に徐々に持ち上がり、城門と同じ高さにまで昇っていく巨大な一本の道が出来上がっていく。
スライムは高低差で防ぐ事は基本的に出来ない。城門の様な特殊な防御機構でも無ければ壁に張り付いて登られる。
しかし、スライム自体に知能は無い為、高低差が在って自分の感覚外に居る生物は認識出来ない。
これで、非戦闘員を安全に逃す事が出来る。
「土魔法で道、出来ました。」
「先導をお願いします!」
伝言魔法でそれを伝えた相手は………
「解りました。皆さんを安全にお連れします。
ギルド長も、皆さんもご無事で!」
頭に響く声は安心と安寧を齎し、同時に絶対に自分の為すべきことを成し遂げるという強固な意志を持っていた。
ギルドの受付のお嬢さんを筆頭に、幾人かの冒険者が途中、眼下の戦況を警戒しつつ、作られた道を逃げて行く。
一つ目の策は順調。
そして、
「おぅ!ギルド長のあんちゃん!」
伝言魔法から荒々しい声が聞こえて来た。
「コッチは避難完了だ!
派遣された魔法使い連中も頑張って準備万端だとよ!」
「皆安心しろ!ヤバけりゃぁ俺達の武器や武具を貸してやる!あの程度の火の粉、ウチ炉の火に比べりゃぁ屁でもねぇってんだ!」
荒々しい声が頭を揺らす。
正直、今の状況では頭痛さえするが、吉報の前にそれは些事だった。
「……それは心強い……。
では、こちらも全力で参りましょう!
武運を。」
「おぅ、そっちもな!」
二つ目の策。
どうしても都市の外に全員を逃がす事は出来ない。
だから、もし、あの太陽が爆ぜて雨霰の如く降ったとしても守り切れる様に、ギルド長は協力を仰いだ。
相手は道具街の職人達。
住民を道具街に避難させて欲しいと願ったところ…………。
「オゥ!良いぜ。何千でも何万でも来い!面倒見てやる!」
「………感謝を。」
道具街は城壁よりで都市中央上空にある太陽から最も離れている。
その上、あの場所は鍛冶職人が集まる性質上、耐火性に優れた建造物が建ち並んでいる。
そこに魔法使いを配置し、魔法による障壁で炎から守り切る。
それが第二の策。全員の命を取りこぼすこと無く、全員助かる為の策だった。
「後は………頼みますよ、八坂さん……………。」
二つの作戦の要の少女を思い、そう呟いた。
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