消耗戦


 幾つかの視界に黒と淡い水色のドロリとした津波が見えて来た。

 「11時方向からダークスライムとヒールスライムの混成群体が接近してます!」

 ダークスライムは物理攻撃に対する耐久に優れ、ヒールスライムは肉体そのものが生物の活性作用を持っている。つまり、あの波は生半可な攻撃では破れない、破っても治癒により足が止まる事は無い、動く城壁と言っても過言では無い。

 「支援魔法部隊は攻撃魔法部隊に支援を一時集中!攻撃魔法部隊はその後11時方向に攻撃を!先頭部隊は合図をしたら全力で後方に退避して下さい。」

 「承知、伝言完了。」

 伝言魔法を使い、眼下に広がる冒険者達の頭に戦略が流れ込んでいく。

 城壁上で座している伝言部隊とギルド長は高みの見物………とは勿論いかない。

 「先頭部隊二番は大技で距離を取って一度退いて休んで下さい!

 攻撃魔法部隊はこちらが退いた隙にスライムに追撃を。その隙に後方部隊も隙を見て回復を。」 

 「承知、連絡完了。」

 伝言魔法で作戦が全部隊に伝わっていく。

 『ギルド長ガービスの視覚俯瞰による情報収集』と『伝言魔法による情報伝達』の二つを併用する事でラグ無く戦況を分析して最適な戦術を組む事が出来る。

 純粋な戦術だけでなく、疲労状態さえも考慮する事でより長く、安定継続した戦線維持が可能となっている。

 多人数でのラグ無き臨機応変な戦術。これがギルド長の得意とする闘い方である。


 「と言っても…これはあくまで時間稼ぎの消耗戦………。

 ここまでの数の暴力相手だと崩壊を先延ばしにするのが関の山………。」

 悲しい事に、ギルド長の分析は的確だ。


 先陣を切って肉弾や近接武器で戦う先頭部隊は、幾つかの部隊に分ける事で一時的に休憩を挟める様に編成してある。

 加えて、支援魔術による肉体の活性化が疲労を和らげる。

 が、だからと言って無限に闘える訳では無い。

 休憩を挟んだ所で、体力の消耗の減少スピードを緩やかにする事が出来る程度。

 大半が変異種スライム故に、弱いとは言えないが、強敵とも言えない。何より問題は数だ。

 一体一体の齎す体力のマイナス分は少ないが、数が多く、継戦する事で体力の減りは大きくなっていく。

 体力のマイナスがサポートによるプラス分よりも圧倒的に多過ぎる。このまま膠着状態が続けば、疲労で物量に押し負けてしまう。


 攻撃魔法部隊、支援魔法部隊もそうだ。

 魔法は体内に溜め込まれた『魔力』という力で発動出来る。

 これを回復する為の『ポーション』と呼ばれる飲料はあるが、一本飲めば魔力が空の状態から完全に満たされる程のポテンシャルは無い。

 ギルド長の権限で、ギルドに貯蔵されていたポーションを惜しみなく使っているものの、先頭部隊同様にマイナスが大き過ぎる。

 


 ジワジワと、削られていく。

 「何より…不甲斐無い事に僕の魔法がその前に切れてしまう可能性が大きいんですよ………ね………。」

 眼が充血しながらも戦況分析の手を緩めないギルド長。

 彼の場合、この状況を維持する要石であり、同時に最も負担が掛かっている役割でもある。

 「隙を見て……………逃がさないと………いけないですからね。」



後書き>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


 こういった技能はサポートで使うとかなり光りますよね。

 ただ、器用さが無いと使いこなせそうも無いので、不器用な身としては羨ましいですね。色々。

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