気絶
「私は見て来ました。『また今度』と言って二度と帰ってこなかった冒険者を。
私は見て来ました。『大丈夫だ』と言って取り返しのつかない事になった冒険者を。
私は見て来ました。『猛者』と呼ばれた冒険者が呆気無く敗れるのを。
認められません!駆け出しの、しかもまだ子どもにこんな命懸けの、無謀な冒険をさせるだなんて!
私達ギルドの人間は、冒険者が集めた冒険に必要な情報を安全圏で収集し、分析・解析し、それを冒険者に還元。そうして冒険者方がより確実に生き残る方法を提供する為の命の砦!
私達は子どもを死地に送り込んで殺す仕事をしている訳では無いのです!」
泣きながらではあるものの、その啖呵を切る姿は己の信念と慈愛を決して曲げない一人の『強き人』だった。
実際、ギルド長もその言葉に対して少し引け目を感じているのか、何も言えずにいる。
私達にスパルタ通り越して拷問と言っても差し支えない様な、『万が一』や『億が一』の状況まで警戒された圧縮知識を叩き込んだのはこの信念故だったのか…………。
実際、私達はあの知識のお陰で、イレギュラーな異常個体のスライムの群れに対して然程遅れを取る事無く対応が出来た。
アレが無ければ冗談抜きでこちらが致命傷を喰らっていた可能性は十二分にある。
要は、彼女は命の恩人。私達はリエさんに命を助けられている。
だから……………
「よいしょっ。」
リエさんの後ろに回り込み、右腕を首に掛け、右手で左二の腕を掴みつつ、左手でリエさんの後頭部を右腕に押し付ける。
要はスリーパーホールド。刑事ドラマやアクション映画で見かける相手を気絶させる系の首絞め技だ。
「!…………………………」
一瞬驚いたものの、リエさんは本当に非戦闘員。抵抗出来ずに気絶してしまった。
「あの……………」
「お姉ちゃん!何してるの!?」
驚く二人を余所に、私は力の抜けたリエさんを抱えて調度品のソファに寝かしつける。
「何を………?」
「ギルド長。リエさんが目覚める前に早く。
私は如何すれば良い?」
私がこんな事をした理由は簡単な話で、説得するよりもこっちが最適だと思ったから。
今から説得してもリエさんの覚悟を退けるのは時間が掛かる。
リエさんと私がここで話をして時間を悪戯に消費すれば優秀なギルドの人材と戦闘員が一人ずつ減る。
今の締めだったら気絶して数分。
その間に私達が準備を終えて出発すればリエさんも諦めてギルドの仕事に向かってくれる。
なら、そっちの方が速い。
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