再戦に立ち塞がるは


 「この街がスイッチ一つで都市ごと移動する移動要塞機能を持ってたりは……」

 「そんなモノ、聞いたことが無いです……。」

 「地面が割れて巨大砲が現れて疑似太陽と撃ち合いは………」

 「無いです……………」

 「ギルド長が殴って……」

 「残念ながら僕、あのレベルの殴り合いに参戦出来るとは…………」

 「じゃぁ……………私が出るしか無いね!」

 筋肉、血管、そこを流れる血液、骨、皮膚、心臓、肺、肝臓、腎臓………が胎動している。


 未だ暴れ足りない。

 暴れさせろ。

 再戦を。

 今度こそ勝利を。

 完全燃焼を。


 肉体が鬱憤を晴らすべく、完全な勝利を貪りたいと叫ぶ。

 「今、ギルド長が動かせる駒は冒険者だけ。合ってます?」

 「はい…………残念ながら。」

 「で、その中でスライム退治をした事ある人は一杯居るけど、疑似太陽の原因を相手にした事あるヤツって、私だけでしょ?」

 「……………………はい。」

 徐々に気まずそうに、苦慮と申し訳無さが顔に浮かび上がって来た。

 ま、私しか居ないよね。アモン相手にしたヤツ。

 新人の私達がここに呼ばれた理由は、闘った経験の有る奴にアモンを任せてスライムと疑似太陽に専念する為。

 洞窟とアモンの性質上、下手に大人数を送り込めば機動力が削がれて蒸し焼きにされるのは目に見えてる。

 どっちみちやるなら少数精鋭で、それなら一度闘ってドローに持ち込んだヤツを戦力として切るのは当然だ。

 だから私達を呼んだ。

 当の本人は一人でアモンを相手にさせるリスクを気にしてるみたいだけど、こっちとしては寧ろ望むところ。

 大勢で囲って殴って『はい勝ちました』……なんて事を考えていたらこの都市を全壊させてた。

 「ギルド長。私達が地下のヤツを引き受けます。

 だから、スライムと疑似太陽の対応、お願いできますね?」

 折角のお膳立て。存分に暴れさせて貰おう!

 「! 是非お願いします。

 …………死なないで下さい。」

 神妙な面持ちでギルド長が頭を下げた。

 「ギルド長!いくら何でも無茶苦茶です!

 未だ冒険者に成って数日の新人に死地へ単独特攻なんて私はギルドの人間として許す訳にはいきません!

 他に方法を!今からでも再考して下さい!」

 今まで沈黙していたリエさんがいきなり私とギルド長の間に割って入った。

 目は赤く腫れ、瞳は角膜を覆う過剰な涙で乱反射している。

 「リエさん……………ごめんなさい。

 僕としても不本意です。

 本来ならこの状況を順々に総力で対処して、確実な手で解決したいのですが、時間はもう残されていません。

 スライムを討ち漏らせば非力な人から死んでいく。

 かと言って疑似太陽を放置すれば我々が全て死に絶える。

 そして、疑似太陽とスライムを乗り越えても、原因が取り除かれなければが考えられる。

 あの疑似太陽。僕達では発動さえ困難です。が……………相手もそうとは限らない。

 一発目に辛うじて対処……出来ても、二発目が直ぐに撃ち込まれない保証は無い。

 戦力を三分しなければならないこの状況で、少数精鋭が望ましい場合で、一度手合わせした事の有る人間が居て、その人がとても強い事が解っている………。

 僕にはもう考えられる手は……無いんです。」

 実際、この状況だとコレが一番マシなのは本当なんだよなー………。

 でも、リエさんはそれを知りつつ、私とギルド長の前に立ち塞がった。




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