火と黒

 暗闇の中で歩き続ける。

 自分の手足が見えない、地面も見えない、足裏にある筈の地面の感覚も無い。

 それでも歩けるのは、歩く先に光があるから。

 遠い様で近い様な場所、煌めく光がある。

 それは温かく、優しく、力強い光なのを私は知っている。

 だから、暗闇を歩き続ける。



 ボコ…ボコ……ボコボコボコボコ………

 後ろから何かが沸き立つ様な音が近寄って来る。

 振り向いても暗闇が在るだけ。しかし、確実にが近付いてくるのが解る。

 『急がなくては!』

 根拠も無く、そう思った。

 より先に

 駆けだす。暗闇の中、光へと近付いて行く。

 手を伸ばす。光を掴もうと必死で。


 ボコボコボコボコボコボコ………グチャギャグチャ………ズズ………ズズズズズズズズズズズ

 形無い何かが自分の横を滑り抜けるように飛んでいった気がした。

 それに呼応するように光が強く、激しく、熱く輝き始める。

 「だめ!逃げて!」

 『に触れてはいけない。』そんな気がした。

 口を開いたが、言葉は紡ぎ出されない。

 喉を絞り出し、肺を締め上げ、必死にその言葉を響かせようとするも、それは叶わない。


 ボコボコボコボコボコボコボコボコボコ………グチャグチャ…ジューシューッ!ドロドロドロドロドロドロドロドロ……ゴォォォオオオオオオオオオオオ!


 光と黒い何かが争っているのが見える。

 光を蝕もうとする『何か』。しかし、光はそれを焼き尽くし、近づけようともしない。

 光が圧倒的に優勢だった。





 「話にならない。」

 火の魔人は目の前で跪く女を心底詰まらないといった顔で見下す。

 「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……言うね!ッ!」

 立ち上がろうとして顔を苦悶に染める。

 体中に火傷、着ているものも、どす黒いあの剣も全てが焦げ付き、今にも死にそう。否、死んでいないのが不思議な程である。

 「何の用が有ってここに来たかは知らないが、こちらはお前の様な悍ましい輩に用は無い。

 灰になって消えろ。」

 魔人の指先に小さな火が灯る。

 蝋燭の火程度の小さな火。しかし、その小さな中には人一人を存在しなかった事に出来る程度の熱が詰まっている。

 「ケラケラケラケラ…………まったく、面倒なフォローをおっつけられたなー。

 マジ何なの?って丸投げって。」

 彼女はそれを知っているのにもかかわらず、乾いた声で悪態を突きながら笑っていた。

 「ま、良っか。私の仕事はこれで済んだし。

 後は勝手にやってくれるっしょ。君自身がね。」

 そう言って手に持った剣を捨て、先程まで虫の息だった筈の体で立ち上がる。

 すると、何かのヴェールが取れたかの様に火傷も焦げ跡も全て消えてしまった。

 「…お前、何者だ?

 いや、問いを変えよう。?」

 その問いが魔人の致命的なミスだった。

 一瞬、怪我が消失した事に気を取られた事が正に命取りだった。

 ドスドスドスドス!

 「!」

 下から突き上げる様に何かが魔人の体を貫いた。

 「ケラケラケラケラケラ。余所見するからこーなるの。

 じゃねー。」

 女は魔人に背を向けると、怪我が消えるように、自身も消えてしまった。


 後に残ったのは、魔人。

 そして、持ち主に捨てられ、無数の針山に形を変え、魔人を突き刺していた元どす黒い剣だった。

 「お……オォ…………オオオオオォォオオオォオォぉおオォぉオオオオオ!」

 剣は…剣だった何かは生き物の如く蠢き、魔人を突き刺し、その体に絡み付いていく。

 ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!

 魔人の体から炎が舞い上がり、周囲を燃やす。

 洞窟の壁や天井、地面がドロリと溶ける……が。

 ボコボコボコボコボコボコボコボコボコ………グチャグチャ…ジューシューッ!ドロドロドロドロドロドロドロドロ……………

 どす黒い何かは健在。

 炎上する周囲など気にも留めずに炎の魔人の体を覆っていった。

 「こ:、ノ。・;アル、。「ニg:〈e…:。・:;・|>_………。」

 どす黒い何かに飲み込まれる瞬間、魔人は何かを口にして………


 ドプン


 どす黒い何かへと消えていった。



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