暗躍者

 お湯たっぷりの入浴!疲れた人間には有難い何時もより塩がひとつまみ多い、美味しい晩御飯!甘い果実のデザートとギルド長のお菓子という、宿屋に帰ってからのあれこれの過程をすっ飛ばし!『就寝』という結果だけが残る!


《ブオォォォン!》


 ベッドの中。

 テミスちゃんは疲れていたのもあって、糸の切れた人形みたいに横たわって、直ぐに寝ちゃった。

 当然か。あれやこれや振り回されたし、純粋に魔石探しも疲れただろうから。

 あれだけの数を一人で集めたって言うのはやっていない私には解らないけど、職人の人達の反応を見る限り、相当らしい。

 核の時もそうだったけど、テミスちゃんはあまりに気負い過ぎている。

 あれだけ数を集めているのに、誇らしそうな顔一つしない。

 知っての通り、核拾いをしてくれるお陰で、色々と初見な私達は日銭に困らずに過ごしてる。

 魔石が無くて困っていた職人’sはあれのお陰で結構仕事が出来るらしい。


 誇らない要素、有る?無いよね?

 何で誇らないかって考えたら……多分、罪悪感だと私は考えてる。

 自分には何も出来ないと思って、やれるだけの事をやろうって考えて…その結果がアレ。

 でも、テミスちゃんはあれでもまだ足りないと思ってる。

 あの様子だと、もっと役に立たないといけないと思ってる。


 どうしよっか?明日、待っててもらおうかな?








 炭と化した森の奥、ドロドロに溶けて岩の塊となった洞窟の入り口。

 溶け落ちた岩の奥の奥、最奥の広間。

 そこだけまるで爆炎の影響を受けなかった様に何事も無く、炎は静かな暗闇の中で燃えていた。

 揺らぎ無く、淡々と、寂々と、燃えていた。


 ユラリ


 突然炎が揺らぎ、燃え上がり、火柱が轟々燃え始めた。

 火柱の中から特徴的な炎の魔人が現れた。

 「お前は、何も願っていない。何も望んでいない。」

 洞窟内にはかの魔人の他、誰も居ない。

 そもそも居る訳が無い。

 何故なら爆炎で出口という出口は溶けて無くなり、『誰か』と呼べるようなものは、かの魔人の前に立つことさえ能わないのだから。

 「ったりまえっしょ?だって?アタシ?何も無いんだから?」

 何度も言おう。立つことさえ能わない。

 「疾く消えるか?それとも、疾く消し炭になるか?」

 「はははッ!アタシを消炭にィ⁉ウケる!ちょーウケる!」

 居る筈の無い少女が魔人の前でお腹を抱えてケラケラと笑い続ける。

 不自然。または、不気味。

 居る筈の無いものが居るという不自然さ、そして、笑えない状況下で笑っていられる不気味さ。

 「ケラケラケラケラ……………ふー…………まー、色々面倒な事は他にも有るんだけど、取り敢えず…一度斬ってみよっか!」

 少女はそう言って、何も無かった手の平から剣を取り出す。

 黒く、厚く、到底刃物とは思えない、どす黒く変色した肉の様な刃。

 それを構えて魔人目掛けて突っ込んでいった。

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