見えざるもの
ガービスの能力について話そう。
ガービスの能力は先ず、浸眼通。他者の眼のクラッキングともいえる能力。
次に、唇の動きを見て相手が何を言っているか理解する読唇術。
これらが、ギルド長がリエ、八華、テミスの三人の会話を予め知っていた理由だ。
では、『八華の異世界出身である事』、『アモンとの邂逅の事』、『ワイズを隠していた事』を知り得たのは何故か?
それは、彼の持つ、『千里眼』の渾名の、もう二つの由来故だ。
先ず一つ目。『過去視』。
と言っても、サイコメトリーの様な過去にあった出来事を読み取る訳では無く、『相手と目を合わせている間、相手が過去に見た情報を閲覧することが出来る。』というモノだ。
要は、相手の過去のログの閲覧能力だ。
これは時間的距離に比例して時間が掛かる上、「視覚的記憶の閲覧」というのが本質なので、そもそも記憶の改竄や認知機能への細工には弱い。
しかし、尋問等においてはどんな口の堅い相手に対しても効果を発揮する脅威の能力。
アモンの件も異世界出身の件、おまけにテミスちゃんのデリード謹製装備の件。
どれも過去の彼女らの視界を覗いて判断した……という訳だ。
そして、ワイズスライムの件。これは別の能力だ。
『眼光支配』。所謂透視能力の事だ。
眼にした相手の隠し武器や複雑な機械等の内部構造を見通す事が出来る。
八華が隠していたワイズスライムを見破ったのはコレ由来。
シンプルだが、文字通り相手の手の内を見る事が出来る為、他の能力とのシナジーで強力な能力として使われている。
これが彼の千里眼の全貌。
戦闘において、相手の視界を自分の思うがままにする圧倒的アドバンテージ。
情報戦において、複数名の視覚情報を思うがままにする圧倒的アドバンテージ。
これらをフルに使い、彼は中央都市のギルド長として辣腕を振るっていた。
「ただ、少し引っ掛かるなぁ……。」
ガービスは難しい顔をして独り、呟いた。
アモンの件や異世界の件を彼は見抜いて八華を驚嘆させていた。
が、彼には一つ、見抜けていなかった事が有った。
「スライム核の件、ちょっとした悪戯や盗賊の案件かと思ってたけど、違うな……。
何であの部分は
彼の能力。『過去視』。それは相手の過去の視覚情報を遡って閲覧するというモノだ。
それを用いれば、見た当人が話さずとも、相手がどんな容姿か位は判別する事が出来る。
が、前の説明の通り、弱点もある。
『「視覚的記憶の閲覧」というのが本質なので、そもそも記憶の改竄や認知機能への細工には弱い。』
見えない場合が存在する。
「タダの盗難にそんな手間をかける意味が無い……。そもそも、報酬が支払われている段階で金品が目当てじゃない………。それに、気になる事がもう一つ。
テミスちゃんの持っていた首飾り。アレは一体、どこで手に入れたんだ?」
ガービスには、首飾りの件も見えていなかった。
彼の疑問は確実に核心へと目を向けていた。
しかし、見る事は出来て触れる事は出来なかった。
「悔しいなぁ………。」
千里眼の限界に、自分の能力の限界に臍を噛むしか出来なかった。
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