アクロバティックリターン


 「何か………変?」



 『見られる』というのは相手に独特の感覚…違和感?を覚えさせる。

 口で表現し辛いけど、ヒヤヒヤ?ぞわぞわ?変な感じがする。

 視線の出どころはある程度慣れれば方向くらいは解る。

 しかも、その視線の種類によって相手がどんな相手かもある程度解る。

 殺意じみた視線は刺さる様な厭な感じがして直ぐに解る。

 観察や偵察の視線は悪寒みたいな感覚で、舐める様に見ている様な気がする。



 今回の視線は…………何か変だ。

 見られている気がするし、多分誰かが見ている。それは解る。

 でも、何処から見られているか解らないし、どんな視線かもハッキリ解らない。

 多分………敵意じゃない……とは思う。

 今までに感じた事の無い……コレ、本当に視線?



 「ど……したの?変って…何か……あった………の?」

 テミスちゃんの瞼が殆ど閉じかけている。

 ここから尾行を撒いて……………は厳しいか。

 「テミスちゃん、ちょっとゴメンね。」

 そう言いながら眠い目をこすっていたテミスちゃんを抱え上げる。

 所謂…お姫様抱っこ?

 「?」

 「帰りにリエさんに声を掛けなくちゃいけなかったの忘れてた。

 ちょっと戻るね。」

 そう言いながらUターンして……………


 ダッ!


 助走を軽くつけて斜め左上に跳躍!

 目の前に迫る建物の壁に向けて左足を突き出し、軽く蹴り上げて今度は右側へ跳躍!

 道を挟んで右側の建物の屋根に飛び移り、走る走る走る!

 急にまた地面へ降り、すぐさま屋根上へと飛び上がり、左右、上下、斜め、重力無視して壁走り…………

 抱えている内に眠ってしまったテミスちゃんの眠りを出来るだけ妨げない様にスピーディーかつサイレントに走り抜け……


 シュタッ


 ギルドの入り口にまた戻った。

 建物に入ると相変わらず中は騒がしい。

 そんな中、リエさんが………居た。

 休憩なのか受付から裏手に回ろうとしていた所だろうか?一息ついていた。

 「リエさん。」

 大声にならない程度に声を掛ける。

 周囲のガヤに阻まれそうだったけど、直ぐに辺りを見回して私達に気が付いた。

 「どうしたんですか?ギルド長との会談は…もう終わったと聞いたのですが……?」

 「急ですいません。10分だけ、10分だけテミスちゃんを預かってくれませんか?」

 端的に用件を述べる。説明をしようかと続けようとすると……

 「解りました。事務所で待っていますから、用件が済んだらギルドの人間に声を掛けて下さい。」

 何かを察して首を縦に振り、私が抱えていたテミスちゃんを受け取って裏へと歩いて行った。


 「ありがとう、ございます。」

 背筋を地面と垂直に、そこから二つ折りの定規が折れるが如くその背中に礼をした。






 「さて、10分でケリを着ける。」

 指を鳴らしつつ、ギルドの入り口に立ち、そう、言葉にした。


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