千里眼持ちのギルド長


 私達が向かったのは冒険者ギルド。

 もう、かなり遅い時間だというのに、人の数がもの凄く多い!

 ガヤガヤワイワイ…火柱が原因かな?

 「お二人とも、こちらに。」

 リエさんが手招きしたのはギルドのカウンターの裏手。

 リエさんが何時も立っている側だ。

 カウンター裏にある、幾つか並んだ木製の扉の一つを開けて中へ入ると、ちょっとした石造りの広間に大きくて頑丈そうな机が幾つか、地下へ続く大きな階段、上に続く階段があって、壁には黒板が取り付けられていた。

 ギルドの人達が慌ただしく走り回っていた。

 見た事の無い毛皮や爪や牙がテーブルに載せられ、その周りを彩る様に幾つもの書類が広げられた広間。

 周囲の人達はそれに目もくれずに書類を持って駆けまわり、黒板に何やら書いたり、外へと出て行ったり…………何の事かと思って一応耳を澄ますと…………

 「周囲の被害は⁉」「木々が全焼。怪我人は居ないようですが、近辺の魔物がそれを見て暴れ出したという報告が………」「あの近辺の地下には何が有るんだ⁉」「アレは自分の使った魔法の所為だと嘯く連中が受付に5人も…………」「別の方向でも火柱………」「情報は黒板に書いて共有しろ!」「複数同時に火が出たってのか⁉」「ギルド長は当分手が離せない!」「クエスト作成の手配をしておけ!ギルド長のゴーサインで即刻調査隊を派遣する!」「洞窟から出てきた二人組の情報がシエッサさんから………」「王国の戦力に連絡を!未だ連絡が取れんのか⁉今日で何日目だ⁉」「自然現象か人為か解らん!その両方か警戒……!」


 会話からして、明らかに例の件だ。

 「この先です。詳しい話はギルド長から有ると思いますが、気を付けて下さい。

 ここのギルド長は心眼を持っています。」

 「?心眼?」

 「心を読まれたり、相手を見透かす事が出来るんです。」

 「ギルド長さん、凄い。」

 広間を抜けながら解説を続ける。

 「んー…………心眼………じゃぁ武人の類か……はたまた読心術でも使えるのかな?」

 「くれぐれも!お二人共、本当の事を言って下さい。

 ギルド長は見掛けこそ温厚ですが、クセの有る冒険者や貴族、良からぬことを考え付くシンジッケートを相手に計略奸計で生き抜き、長年ギルドの長を務めてきたクセモノです。

 下手な嘘は露見して逆効果になります。

 私も援護しますので!」

 「ん~狸オヤジって事か~……………。」

 心強い言葉を言いつつも顔が緊張している。素人を脅かしている訳じゃなくって、本当に警戒しているみたい。

 結構クセモノって事ね………OK理解した。

 ま、心眼だの魔眼だのの類を持っているなんて、割と珍しい訳じゃないケドね。


 階段を上がって奥の方の部屋へと向かっていく。

 周りの扉よりも少し大きな、要人が中に居るであろう扉……。

 ん~………武人とかいう気配じゃないなぁ……。

 「まったく……ヒドイなー。狸オヤジとかクセモノとかって………。

 僕は、知略謀略奸計はガラじゃないんだよ………。

 ただ、ちょっと変な連中を相手するのが得意ってダケなのに…………。」

 拍子抜けした。

 ゴツいおっさんとか、眼光鋭いのとか…………。そういうのを想像していた。

 でも、目の前に居た人は緑衣に身を包んだ眼鏡の優男。

 虫も殺せなさそうな、近所のお兄さんみたいだ。


 ただ、警戒は必要みたい。

 『狸オヤジ』だの、『クセモノ』だの、そんな大声で言ってた訳じゃないのにピンポイントでそこらの言葉をチョイスしてる。

 「そこの小さなお嬢さん。君には後で秘蔵のお茶菓子をどうぞ。」

 にっこり笑ってテミスちゃんに微笑んだ。

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