招待

「さぁて、テミスちゃん、成果は如何?」

この辺のスライムを大方倒し終えたと感じた私は、回転を止めて、テミスちゃんの方へ目を向ける。 「ん?石の事?」

私の言葉に気が付いて持っていた袋を後ろに隠す。

と言っても、ゴロゴロした石の塊が幾つも入った袋なんて隠しきれる訳はない。

正直、『灰の眼』でテミスちゃんも捉えていたから、成果を知ってはいる。

それでも、やっぱり本人から訊きたい。

だって……テミスちゃんの今の顔がどんな風だか解る?

キラキラ笑みが溢れそうなのを堪えているけど、全然隠しきれてないの!

無いと見せかけてサプライズで渡すやつ!!実はのサプライズのやつ!!

今!私は!猛烈に!!感動してる!!!!!



ゴァ!!



そんな癒しの感動は、下から突き上げる様にやって来た猛烈な威圧感に掻き消された。

苛烈に燃える火のように、妖刀と言われる様な業物のように鋭く、凄まじい執念が渦巻く強烈な威圧感。


「!」


思わず身構えて辺りを警戒する。

今のところ、威圧感の中には殺意は無い。

ただ、今の威圧感を洒落や冗談、遊び半分で放ったなら笑えない。あれは一般人や素人が居たら腰を抜かして、最悪気絶するレベル!

城で殴って蹴った連中じゃぁ比較物にならない位、少なくとも、威圧感だけなら、私が出逢ったそこらの達人じゃあ負ける!

威圧感の主は何処に居る?否、先ずはテミスちゃんの安全を!

「お姉ちゃん、怖い顔してどうしたの?」

心配した相手のテミスちゃんは涼しい顔。私の事を見て不思議そうに心配していた。

私の気のせい………?………じゃない!あんなの気のせいで誤認する訳がない。

ってことは……これを向けられたのは私だけ?

「テミスちゃん大丈夫!足が震えるとか、怖いとか無い?」

周囲を警戒しつつ、テミスちゃんに訊ねる。

「大丈夫だよ?お姉ちゃんが居るし、明かりが有るから暗く無いし。

それにね、なんだかさっきからポカポカするの。」

やはり気圧けおされていない。

つまりは…そういう事ね。

「私への招待状…挑戦状か。」

未だ放たれる威圧感に心臓が早鐘を打ち、血が沸き立つ。

「丁度良い。子ども拐い達の砂上の楼閣一つ潰しただけじゃぁウォーミングアップにもならなかったんだ。

ここらで異世界の強さッ見せて貰おうッ!!」

臨戦態勢。こちらも威圧感に威圧感で応える。

「お姉ちゃん?口調どうしたの?あと、これ…」

「テミスちゃんは少しここで待ちながら石を集めておいて。

私は…少し挨拶させて貰うから。」

暗闇に一歩足を進める。

威圧感に少し近付いた。

この威圧の主は、どうやら私だけに用があるみたい。

ただ、大概この手の輩は標的をあちこち変更する。と言うか、一寸ちょっとでも視線が反れれば、見たもの全てに襲い掛かりかねない。

今、見ているのは私だけ。

……………今の内に片を付ける。

「ちょっと行ってくるだけ。直ぐ戻るから心配しないで。

ただ、少しの間、一人にしちゃうから気を付けて。

スライムは大方片付けたけど、それでも誰かが来たら念の為隠れて遣り過ごして。」

闇へまた足を進める。

徐々に徐々に威圧感が増していく。

「お姉ちゃん、あの!!」

テミスちゃんの言葉は残念ながら掻き消された。

何故なら次の瞬間、私の足元の地面が爆発し、私だけがその場から消え去ったのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る