ブラックスミスの怪物


 「ここんところな~、少~し加工の材料が市場に出回らなくってな~。

 この飾りレベルを加工するには、少~し今は厳しいなぁ~。」

 状況を説明し、首飾りを見たデリードさんはそう言った。

 首飾りを加工するには特殊な鉱石が必要らしい。が、それが最近市場に出回らなくなっているらしい。

 理由は簡単。

 「この近くの洞窟で採れるんだが~、スライムが最近大量発生していてな~、退いてくれれば、す~ぐに取りに行くんだが~…………」

 だって………。

 「それって、何処の洞窟?ちょっと場所を教えて貰えない?」

 「ん~?

 壁の外、丁度城壁の入り口と入り口の中間………お~、地図が有るから待っておいてくれ~。」

 そう言ってデリードさんが工房に一度戻っていく。

 あっ、そう言えば……………。

 デリードさんを見送って、ガヤガヤしていた職人‘sに声を掛ける。

 「ねぇ皆さん!鑑定代ってどうやって払えば良い?」

 暴徒化しかけたり、加工の目途が立っていないのに色々約束しようとしたりして、忘れそうになるけど、一応、これでも一流職人の軍勢。目利きと言えど、タダでやらせては腕前への敬意に関わる。

 「何言ってるんだ?」「オイオイオイ冗談言うなや。」「要らんよそんなの。」「逆にこっちが渡してぇくらいだ。」「あれくらいなんてこたーない。」「毎日来てくれても構わんぜ?」「嬢ちゃんは昨日と言い今日と言い、おもしれーもん見せてくれっから楽しみだぜぇ?」

 「流石に安全の確認をして貰ったんだし、そう言う訳にはいかないでしょ?」

 自身が認めた職人やプロに対しては見合った対価を払う。そして、職人は自分の腕を安売りすべきではない。

 例え金に興味が無くとも、『それだけの価値が自分には有る』と言う事を示す為に貰っておくべきだし、お金を渡す事は即ち、文字通り腕を買う事になる。

 「嬢ちゃん、ここに居る職人は金じゃないモンを嬢ちゃんから貰ってるんじゃよ~。」

 デリードさんが地図を持って戻って来た。

 「昨日、嬢ちゃんがこいつらの自信作を叩き割った後、こいつらが何をしたと思う~?

 笑いながら鍛冶を始めたんじゃよ~。」

 ???精神的に参ったの?

 「皆、すこーし楽しくなった様での~。

 こいつらは職人同士、こう見えて互いに尊敬しとる~。だから、互いに自信作をぶつけ合おうとはせん~。まぁ、互いに酷い事になる事が解るからの~。

 じゃが、自分の自信作を容易くぶち壊せる人間が現れたのは初めてじゃったし、まぁ、超えたくなったんじゃろ~。

 次は、お前さんでも容易に壊せんモノがここら辺にゃぁ転がっとるじゃろうな~。」

 いとも容易く自身の誇りを砕いた人間。つまりは私。

 それで挫折して店を畳むならプロじゃないって事ね。どころか、目標にして奮起した。

 「昨日は得難い挫折の経験を、今日持って来たソレも、中々お目に掛かれる様なシロモノじゃなし。

 要は、嬢ちゃんは儂らに与えたんじゃよ~。

 久々に『強敵』と呼べるモノをの。

 そりゃぁ、金で買える様なモンじゃない。が、より高みに征くには必要なモノ。

 嬢ちゃんが渡された鈴。ありゃぁ、親愛の証であり、目標への目印じゃよ~。」

 その場の職人達から漂うのは真剣な者の気迫。

 なるほどね。私は目標を渡しちゃって、その礼って訳…………とんでもない怪物を目覚めさせちゃったのかもね。

 ま、今回は有難く厚意として頂きましょう。

 「ほれ~、話が長くなったの~。これが地図じゃよ~。」

 そう言って地図を取り出した。



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