死合いで得た物
「どう、しおりも一つ、私と死合わない?」
「では、一つ。
今回は拙者が勝たせて頂くでゴザル。」
「無理、何故かってゼッテー勝たせねぇカラヨォ!」
「ホゥ…………面白い事を言うでゴザルなぁ。」
パタン!
勢いよく本を閉じる。
それとほぼ同時に、こちらにその本を投げて来た。
別に空気を切り裂く様な速度では投げつけていない。かと言って、これを何となくのノリで取ろうとすれば
危機を感じて飛んで来た本を、道場まで跳んで回避すると、『葉隠』と書かれた表紙がこちらに向かって急加速。飛んで来た。
ガキン!
何の変哲も無い鉄のブックカバーが掌で弾かれる。別に大した威力じゃない。でも、回避する必要が有った。
そう、本は視線誘導の為の物。うっかり本を手にしていたら、手に取った本の後ろからやって来る『重ね当て』の衝撃で片手が肘まで持っていかれていた。
『重ね当て』
両手で行う掌底のようなもの。と言えば近い。
ルーツは古武術らしく、目的は『鎧の貫通』。外側から中に衝撃を加えるもので、しおりの十八番。マトモに胴体に喰らえば私基準で臓器が揺れる。
「前言の撤回は不要でゴザル。
一刻もすればそんな言の葉一つ口に出来ない様になっているでゴザろうからなぁ。」
道場にやって来るしおり。闘気が漲っていた。
しおりと私の戦績はまぁ、私が余裕………余裕で勝ち越している。
ただ……インファイトになると割と重ね当てがエグイ。
ガードやカウンターがモロ砕かれる。紙一重で躱さなきゃ文字通り身が持たない。
という訳で…………
「『空爪』!からの……」
不可視の空気の刃、それを回避する間に敢えて距離を詰める。
「!」
向こうの方が近距離は有利。だからこそ距離を詰めた。それに刹那、しおりが怯む。しかし、重ね当てを構える。至近距離でこれは確かに鬼札。それに対しての突進は確かに悪手だ。
でも、自殺行為に見えるこれにも勝ち目がない訳じゃない。
『重ね当て』
空爪を躱しつつ、重ね当てが正面から襲い掛かる。
重ね当てはエグイよ。モロ喰らえば流石に不味い。
……………だからこそ。
「ヒロイン力よ、燃えろ!『Hirate uchi』ダ!」
重ね当てに平手を叩き込んだ。
前回腕の骨を持っていかれた時、対策を考えた。
重ね当ては確かにエグイ。が、それは前方に押し出す技であるという特徴がある。つまりは刀で言う所の突きに近い。
何が言いたいか?突きの弱点は、
「Sokumen がガラ空きDA!」
側面で払うと割と楽にカウンターを狙える。の、だ、が…………
スパァン! ゴッ!
平手打ちの破裂音と重ね当てが当たる音が聞こえる。
ウゲェ、平手で軌道捻じ曲げたのに捻じ込んできた。
肩に平手打ちで若干威力が落ちた一撃を貰った。
ゴキリッ!
肩が外れた。
「強いで……………ゴザルなぁ……………」
道場に大の字で寝っ転がるしおり。
「人のッ!関節ッ、外しまくっておいてッ!何、言ってるのッ⁉」
肩二つ、肘二つ、手首一つ…………ゴキゴキと外された場所を入れていく。
平手ラッシュと重ね当ての応戦の結果、コッチは脱臼5か所。向こうは肘から先が日焼けしたみたいに真っ赤になっていた。
勝ちとか負けとか引き分けとかじゃなくて痛み分け。
「ねぇしおり。」「八華殿?」
互いに互いを呼ぶ。
「一緒に言ってみる?」「で、ゴザルな。」
息を吸って同時に一言。
「「その技教えてくれない?」」
互いの技の覚え合いを提案した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます