じーじの辞書に自重の文字は無い。


 「ねーね、ちーちー。」

 昔の私は祖父の事をちーちーと言っていた。

 じーじ―と言いたくて上手く発音出来ずにちーちーになってそのままの呼び方になったらしい。

 「おぉ?なんじゃ八華?」

 「ちーちーはつおい?」

 「おぉとも。儂はつおいぞ。世界一つおい!

 いや、マジで。世界一つおい奴を決める大会で色々な輩とやり合って世界一になったんじゃがな。」

 「おー、マジつおい。」

 「ウン。未だそこらの世界チャンピオンくらいなら1ラウンドだけ相手に出来る。」

 「二ラウンド目は?」

 「相手がもう寝とる。だから1ラウンドだけじゃぞー。」

 「おぉー、ちーちーつおい。」

 「まぁのぉ。

 つおくなる方法とちょっとつおい奴に勝つ方法ならちーちーは世界一知っとるぞぉ。」

 今考えると、じーじは孫に持ち上げられて舞い上がって、空も飛べるほど有頂天になっていた。

 この時点で自重は無かった。

 「じゃぁちーちー、訊いてい?」

 「良いぞぉ。今ならどこぞの流派の秘伝だって20個までなら教えてやるぞぉ。」

 この時のじーじは何を考えていたのだろう?秘伝て………流派の強者がかにえて連綿と繋げるものなのに。なんでしれっと20個以上知ってんの?

 「ひえんはいいの。

 この前マスキュラのトコロテン怪人がマスキュラのパンチとかキックとかが効かなかったの。

 その時はマスキュラのマッスル放熱で熱中症にして倒したんだけど、八華にはマッスル放熱なんて出来ないから、ところてん怪人を倒す方法を教えて欲しいの。」

 『マスキュラ』

 日曜朝の大人気女児向け筋トレ番組の事だ。

 『女の子が筋トレして何が悪い?』がキャッチフレーズの、怪人『ファットトストレス』と筋トレ大好きJK『マスキュラ』の肉弾の闘いを描いたガールズバトルアニメ。

 視聴率が高く、女児向けの筈なのにイベントの筋肉率が異様に高い。

 そして、意外な事に未だに続編が出ている長寿番組。

 その中で、悪役として出て来たトコロテンの様な肉体を持ち、打撃を無効化する怪人を倒す方法を本気でその頃の私は考えていた。

 「ふぅむ……トコロテン怪人かぁ………」

 その頃のじーじは子どもの疑問を何となく納得させる方法を考えていた訳で無く、マジでトコロテン怪人を〆る為の方法を本気で考えていた。

 「怪人は知らんが、そんな感じの技を使う奴を50年前位に二・三人倒した事は有ったぞ?」

 「ホント?ちーちーはマスターマスキュラ?マスキュラ達のお師匠様?」

 その頃は眼をキラキラさせていた。

 「いや、儂はマスターマスキュラの更に師匠。グランドマスターマスキュラだぞぉ。」

 胸を張ってどや顔をする。

 「ぐあんどマスターマスキュラ!」

 眼をキラキラさせている私。済まない。その頃の私。

 残念ながら目の前のじーじはグランドじゃない。

 マスキュラの『筋肉監修』をしている人。有名な武道家なんだが………後々調べたらアレ、じーじの弟子だった!

 要は、目の前のじーじはグランドマスターどころかグレートグランドマスターだったんだ!

 「そういう打撃が効かんとか言っとる奴にはこういう方法が有る。

 これは八華みたいな可愛い女の子が悪い奴をやっつける為に出来た方法だ。」

 「ちーちー。教えてくえる?」

 「ッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 教えてしんぜよう!もうトコロテン怪人だろうが武道家だろうが一撃で沈められるくらいに教えよう!」

 自重しないじーじの所為でヒロインは幼女時代に必殺技を伝授して貰う事になった。

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