青春の兄の定規 高校生作
あさとろ
兄の定規
兄の単純な作り方をした筆箱を覗いた。縦に長細く、二つファスナアの着いたものでボオルペン、シャアペン、油性名前ペン、恐らく一般、元は四角い、今は磨耗の激しく丸い小石のような消しゴム、修正液なんかが、ファスナアをズリズリ開けるだけで、犇と鏘然、窮屈そうにしていた。片方には、煤けたシャアペンの針の束、定規の入った、今し方、見ていた方と比べて存外、寂然たるポケットだった。と、小突かれたように、決して予期もできないものが目に飛び込んできた。むむむとその定規を刮目。唖然。なんと15センチ定規の尻に学生の証明写真が、そこにいるのが当然のように貼られていたのだ。
最近に貼られたものではないようで、白く困憊した部分が散見され、また学生にはきっと月並の小さな消しゴムのカスさえのめのめと凝着していた…。
その写真は兄の友達のある男子高校生の学生証用の証明写真だった。動ともすると学生と言うものは、何を相手にしているか訳のわからない反抗の為に、制服を着崩しがちだか、一方かく彼は僭越することがなく、一見、社会の忠僕を「振る舞っている」ように見られた。
しかし、彼の表情を見落としていた。写真がまだ普及していない頃に写された豪族のように、欺瞞的な独身のお見合いの写真の信用され易くしたいらしい表情のように、おぞましい微笑をしていたのだ。事によるとそれは、最上級生である彼の一種の茶目な余裕が垣間見れたのかもしれない。
この定規に私はひどくそれを「いとおしい」と思った。
もう二度と感ぜられない過去となる、
明日のことなど考えずに唯、
ひたすらに汗の染み付いた
グラウンドを駆ける時を。
窓ガラスの自分を心配する時を。
懸想し、思い上がりで告白し、
玉砕の夜も。
夜の仲間と別れたあとの虚無感に
煩わされながら、
漕ぐ度軋む自転車にギター負いながら
跨がり、明星を仰ぎながら帰る夜も。
どこかしらから吹きしきる
留まりのない、煤けて甘い春風を。
高校、日常の瞬間の連続の、
すべからくして、けたたましい轟音を鳴らしながら訪れる絶対的な黎明に、訪れるなと悲壮的な感情を、ふと浮かべる時を。
その一欠片を私は掌で見ていたのだ…。
すると胸の辺りが収斂して、下の瞼に水平線の涙が兆した。
私を羨ませるその「青春」。
青春の兄の定規 高校生作 あさとろ @asatororon
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