ヤバいUさん

 私が生涯でただ一人アナルを捧げたのは捧げたのはUさんという大学の先輩だった。身長がたかくて、黒い髪の毛をブルーブラックに染めていて、くせ毛でもなんでもないのにストレートパーマをかけて、毎月の美容院代は2万もするらしかった。当然のように彼が語るのでふぅん、まあそのくらいしますよねとうなずいたが私は3ヶ月に1度、地元のサンリブに入っている美容室で4000円出してお釣りがくるカットにしか行けなかった。髪は自分で染めていた。Uさんは東京で美術の仕事をしていた。金を払って名前を書けば誰でも入れるような大学に通っている私からすればもうその情報だけでヨダレがだらだらでてたまらない存在だった。


 Uさんは私の事を「俺は可愛いと思う」と言った。彼は覚えていないかもしれないけど、私は10年以上たった今でもUさんの「俺は可愛いと思う」と言ったUさんの横顔を鮮明に思い出す事ができる。会話の流れまで。私の地元は美人が多いと言われる某九州の件で確かに美人が多かった。美人はだいたい年上の眉毛がない作業服を着た体の隅っこに若気の至りで入れたタトゥーがあるような男と付き合って、中出しをしてそうそうに結婚していた。「私は可愛くないからなぁ、モテたこともないんですよ」と自己憐憫満載の私に対してUさんは「そうかなぁ、俺はかわいいと思うけど。」と言った。今考えるとそんな事を言われたら、そう返すしかないよな、と思う。今日は天気がいいですね、そうですね、くらいの、たった一言の返事を磨き上げて磨き上げて宝物にしていた。恐ろしいことに私は「俺は可愛いと思う」という一言だけで「わんちゃん、いけんじゃないか。」というところまで勘違いできていた。ちょろい、を通り越しいて本当に恐ろしい。


 私は「東京に好きな人がいる。」と周りに豪語して回った。Uさんと一緒に映っている写真はひとつも持っていなかったのでFacebookの写真をスクショして、友達やバイト先の先輩に見せびらかしていた。好きな人がいる、と言ってから興味がなさそうにされた時はわざわざ「美術の仕事をしていて」「渋谷に一本で行ける所に住んでいるらしい」とUさんの情報をいい散らかした。しびれをきらした優しい人は「どんな人?」と聞いてくれて、その言葉を待っていましたとばかりにFacebookのスクショを嬉々として見せつけた。「一緒に映ってる写真じゃないんだね。」とは言われなかった。みんな優しかったなあ。 

 UさんのFacebookに載っている数枚の写真のうち、2枚は女が入り込んでいた。後ろ姿だった。首の短い汚れた茶髪の女だった。私はどうかその女がこちらを振り返る事はないようにと、彼のFacebookを開く度に祈った。どうか美人じゃありませんように。二人で写る写真が上がりませんようにと、それはもう真剣に祈っていた。

 

 Uさんが私の「好きな人」から「セックスをした人」になるのは、彼が地元に帰ってきた年の瀬の日だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛の死に方 DJ家系ラーメン @s_yusurika

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る