52匹目・友人は突然に現れるもの

月日は流れ、あーやは中学生になった。教室には小学校の顔見知りや他の小学校の子達が入り混じって談笑している。あーやはその子たちを遠巻きに見ていた、只それだけ。誰に話しかけるようとはしなかった。

ソラが帰国してからというものあーやは大分落ち込んでいたみたい。当時の事を他の子達に聞いてみると、それはもう傍から見ていて気の毒になる位。でもそれからのあーやは人との付き合いはそこそこになり、周りからは一歩引いた感じの距離感を取り始めたせいで親しい友人は居なかったとの事。


さて今この教室では入学式諸々もろもろが終わり、クラスメートたちは新しく友人となった子たちと談笑したり、アドレスを交換したりと楽しそうにしていた。

その中であーやは一人帰り支度を始めている。そしておもむろに立ち上がろうとすると――


「へーい、かっのじょー♪お茶しなーい?」


突然隣の席の女生徒がナンパしてきた。見ればすっごい期待に満ちた目であーやを見つめている。


「……いや、遠慮しとく」


「えー?いいじゃんいいじゃん~行こうよ~」


そう言うと女生徒はぐいぐいとあーやの腕を引っ張りまくる。そこへ、


あかねちゃん、えーっと、遠西、さん?凄いしかめっ面になってるから止めなよ……」


とあーやの腕を引っ張っている女生徒の向こうからもう一人、丸メガネを掛けた女生徒が呆れたと言った表情を浮かべ歩み寄ってきた。それに対しいまだに腕を引っ張っている女生徒は、


「いーやーじゃー!この別嬪べっぴんさんとお茶するまでこの手を離さないんじゃ~」


と変な口調で駄々をこねる始末。丸メガネの女生徒は二人を見てオロオロ、周囲もなんだなんだと二人に視線がそそがれる。


「――はぁ……ほら騒いでいないで行くよ」


溜息をきながらあーやがそう言って、腕にしがみついている女生徒を引きずりながら教室を出て行く。もちろんもう一人の女生徒も引き連れて。




「あ、あの。なんで急に行く気になったんですか?」


下駄箱に向かう道中、丸メガネの女生徒が聞いてくる。もう一人の女生徒は未だにあーやの腕から離れようとはしないけど、大人しく歩いている。


「いやぁ……クラス中の視線がこっちに向いているのは、もう、なんというかねぇ……はぁ……」


あーやはそれが苦手だと言わんばかりの大きな溜息を吐いた。


「なんかごめんなさい、茜ちゃんが変な事をして……」


「いや、まあ鵬屋おおとりゃさんが謝る事じゃないでしょ?どっちかといえば麒麟寺きりんじさんがする方だし――」


「お!私たちの名前覚えてくれてたんだ!うっれし~♪」


と麒麟寺は嬉しそうにそう言ってぎゅーっと抱き着いてきた。


「――ちょっと、歩き辛いんだけど……ほら下駄箱に着いたんだから離れて離れて」


あーやはそう言って麒麟寺をがしていたけど、ちょっと耳が赤くなっていた。麒麟寺は渋々自分の靴が置いてある場所まで離れる。


「……なんで、私とお茶しようと思ったの?」


思い出したかのように、あーやがぽつり。それに対し麒麟寺は、


「うーん……最初は隣の席だしちょっと声を掛けるだけにしておこうと思ってたんだけど、遠西さんがなんか寂しそうな目で他のクラスメートたちを見てたんでさ。思わず『この人友達いないのかな?んじゃ私が友達になってあげよう!』って。んで気付いたらお茶に誘ってた♪」


あっはは~♪と笑いながらそう答える麒麟寺。


「……そっか。つか鵬屋さんはいいの?なんか巻き込まれた感じだけど」


「まあ茜ちゃんに関してはいつもの事だし、慣れてるから。友達の事だったら遠西さんが良ければ、友達になってくれますか?……私も友達は少ない方だから」


麒麟寺とは対照的に控え目に『あはは……』と笑う鵬屋。そんな二人を見てあーやは、


「……全く、私と友達になりたいなんてとんだ物好きなんだから。それじゃあ――その、よろしく」


そう言いながらあーやはそっぽ向く。傍から見てもその耳は真っ赤っか。


「お~う、遠西さんメッチャ照れてるぅ?」


「うっさい。置いてくよ」


茶化す麒麟寺を尻目にあーやは早歩きで外に向かっていった。鵬屋と麒麟寺は慌ててあーやの後に付いて行く。

外は春の日差しにあふれ、穏やかで暖かい風が吹き生徒たちや入学式に来ていた親たちを包み込んでいる。あーやたちは自分たちの親を見つけ、『これから遊びに行く』と伝えカバン諸々を預けていく。あーやのお母さんはあーやが友達と遊びに行く事に大層驚いていたけど。そして校門に向かって歩き出した。


「遠西さんのお母さん、『友達と遊びに行く』って言ったらすっごい驚いていたね」


「ほんとほんと!どんだけ友達いなかったのさ」


歩きながら二人がそう言うとあーやは重々しく口を開く。


「――色々あるんだよ、私だって。それに前に一人……居……た……」


あーやの言葉はゆっくり途切れた。二人があーやを見るとあーやは正面を見たまま固まっていた。あーやの視線を追ってみると校門の門柱近くに手を振る誰かが見える。そしてその誰かがこちらに向かって駆け寄ってきた。正確にはあーやに向かって。


「――あーや!!!」


そう叫ぶ、ううん、名前を呼びながらあーやに抱き着く少女。抱き着かれたことで我に返ったのかあーやは、


「ソ、ソラ!?なんで日本に!?」


「なんでって、勿論あーやに会うためですノヨー♪」


満面の笑みで答える見知らぬ少女。ただあーやをハグしたまま中々離れようとはしない。その光景を呆然と眺める麒麟寺と鵬屋。少女はその二人に気付くとパッとあーやかな離れ、二人に歩み寄る。


「お二人はあーやのお友達ナノデスー?初めまして♪あーやの友達で鯨潟くじらがた コンソラータって言いマス、宜しくナノデスヨ♪」


ソラはそう言って2人にぺこりと一礼する。ただ二人は同時に、


「……本当に友達いたんだ」

「……本当に友達いたんですね」


と口からこぼす。その様子を首を傾げ不思議そうに見ているソラ。ちょっとしてから、


「――あ、ごめんなさい!私は鵬屋 水夏みなかです。それでこっちは――」


「麒麟寺 茜!遠西さんとはついさっきマブダチになった所だぜぇ!」


鵬屋は自己紹介し一礼、麒麟寺はいい笑顔でサムズアップしながらソラに自己紹介した。


「アハッ♪オートリヤにキリンジ、宜しくデスノヨー♪」


そう言ってソラは2人の手を取りブンブンという擬音が出そうな勢いの握手を交わす。


「それで……ソラはただ私に会いに日本へ来たの?」


「フッフッフッ、それだけじゃないデスヨー♪実は――」





「鯨潟 コンソラータです♪初めましての方もそうでない方も今後とも宜しくデスノヨー♪」


翌朝のホームルーム、そこには制服に身を包んだソラが自己紹介していた。

聞けばソラは親に――特に父親を説得して日本の学校に通う事を選んだそうだ。住居は母方の親、ソラのお祖父ちゃんお祖母ちゃんの家に住まわせてもらっている。国籍とかの問題もソラのお母さんが昔から事前に色々準備していたので大丈夫との事。

兎に角、あーやに会いたくての一念みたい。


でもあーやは大きくなってからまた会う約束のはずだと言ってたんだけどソラは、


「大きくなりましたノヨー?ホラ、イ・ロ・イ・ロ・と♪」


そう言われてあーや、顔を赤くしてそのまま黙っちゃったし。





「とまあ、私達4人の出会いはそんな感じかな~。本当はもう少し語りたい所なんだけど……」


りんりんがチラリと辰歌よしかたちを見る。辰歌や未夜みや卯流はるな辺りはちょっと眠そうに目を擦ったり、うつらうつらしている。


「結構いい時間だしね。今日はこの辺にして皆寝る準備しようか」


私がそう言うと皆頷き、寝る準備に入る。


「――ねぇねぇ綾芽ちゃん、どーゆー感じで寝る場所決めるのー?」


巳咲みさきがわざわざ聞いてくる。別に場所はどこでもいい気がする。そもそも部屋いっぱいに布団が敷いてあるし、なんなら雑魚寝ざこねでも。


「好きな場所でいいんじゃない?」


その一言で巳咲がニヤリと笑う。――しまった、それが狙いか。


「そ・れ・じゃー私は綾芽ちゃんの隣ねぇ~♪」


言いながら巳咲は体をくねらせ私にピタッとくっ付いてくる。それを見聞きした他の居候達は、


「あー巳咲姉ぇずるい!ボクも綾芽おねーさんの隣がいい!」


「私も~綾芽おねーちゃんの隣~」


と口々に言っては私の周りに集まってくる。仕舞いには辰歌たちも寝ぼけ眼ながらも私の服をきゅっと掴んで放さない。


「あーやは相も変わらずモッテモテだねぇ。んじゃ――私達もあーやの隣がいい~♪」


とりんりんはソラとスイカの手を引いて私のそばまでやってくる。そして振り向き、


「杏奈は来ないのかな~?」


にやにやと意地の悪そうな笑顔で杏奈に話しかける。


「――っ!はぁ!?な、なんで私が綾芽の傍に行かないといけない訳!?べ、別に私は困らないしっ!」


そう言ってぷいっと赤くなった顔を背ける杏奈。まあそれでも視線はチラチラ私の方に向いている訳で。


「ほら杏奈おいで。皆で一緒に寝るよ」


私は笑顔で杏奈に手を差し出す。それを見た杏奈は顔をますます赤くするものの、


「……しょうがないわね!仕方ないから、一緒に……寝てあげる……」


徐々に声は小さくなったけど、杏奈は私の手を取る事を選んだ。周りの皆はその様子を微笑ましく見ているし。


――まあ結局、誰が私の隣で寝るかをじゃんけんで決めたんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る