45匹目・明かされる事実

ビタン!と大きな音の後、辺りがしぃん、と静まり返る。

――あー……、申樹しんじゅを人質に取った暴漢にムカついて、空気を読まず頭突きをかました申樹にいらついて、――申樹を助けられそうになかった自分が腹立たしくて、それらの怒り全てを暴漢にぶつけるが如くつい投げ飛ばしちゃった。

その当の暴漢は白目をいて気絶している。ま、受け身を取れない状態で投げ飛ばされればそうもなるか。……ちょっと反省。


ギルメン達を見れば皆一様に目を点にして放心状態、そして周囲には騒ぎを聞きつけた人たちが次第に集まり人だかりができていた。道の真ん中で大騒ぎしていればそうもなるか。

それはともかく、申樹は大丈夫かと向き直り申樹に近づく。当の申樹はその場でぺたんとへたり込んで放心していた。見た目はどこも怪我をしてないように見えるけど……。


「大丈夫?申樹」


申樹の前まで歩み寄り、立膝たてひざしつつ声を掛ける。私の声に我に返った申樹は私の姿を認識すると、


「……う、うん。私は大丈夫。それよりも遠西さんは――」


「私に怪我がある様に見える?」


申樹はすぐに答えると私の安否を聞いてくる。微笑みながら答えを返す私。とりあえずいつまでも暢気のんきに座り込んでいる訳にはいかないと、私は立ち上がり申樹に手を差し伸べる。

申樹も私の手を取り立ち上がる――はずだったが。

一向に申樹は立ち上がらない。手に力は入っているものの全然立ち上がらない。


「……どしたの?申樹」


「……うーん……ていうか腰、抜けちゃってる、みたいな?」


苦笑いを浮かべながら困ったように言う申樹。そんな申樹を見て申樹の行動に文句の一つでも言おうと思っていた私だけど、そんな考えはどこか吹き飛んで苦笑いを浮かべるしかなかった。

とは言え流石に申樹をそのままにする訳にもいかない、そこに――


「えんしんちゃん大丈夫!?立てないなら俺が抱きかかえてあげるよ!?」


申樹が立てない事を察したメコウが駆け寄り申樹に触れようとした。私はすかさずメコウの伸ばしてきた腕を掴み制止する。そしてメコウを睨みながら、


「メコウさんは大象寺エレファンと一緒にギルメンの面倒とここの警備員さんと警察を呼んできてもらえますか?今すぐに」


「い、いや俺はえんしんちゃんの――」


「聞こえませんでしたか?今すぐに警備員さんと警察に連絡してください、と言ったんです。えんしんは――」


メコウの腕を放し私は申樹を――お姫様抱っこで抱え上げる。


「私が面倒を見ますので」


そう言ってメコウに背を向け、私は少し離れたベンチへと向かう。横目でメコウを見ていると渋々と言った感じで言う通りにギルメン達の元へ向かっていくのが見える。申樹と言えば私の腕の中で大人しくしていた。……まあ、大分だいぶ顔を赤らめているけど。


「……あの、遠西さん」


おずおずと上目遣いで私の名前を呼んでくる申樹。


「どうしたの、申樹?どっか痛い所でもある?」


「い、いやま……そうじゃないんだけどさ……重く、ないっすかね?」


「全然」


「……えっと、その――」


その言葉を最後に申樹は黙り込んでしまうけれど、私にすり寄る感じで安心したような笑みを浮かべていた。まあベンチに座らせた際はちょっと不満げだったけど。




座らせてから数分後。


「――はい、お茶」


「あんがと」


すぐそばの自販機で申樹リクエストのお茶をかってそれを差し出す。申樹はそれを受け取り口をつけると一つ溜息。それから少しの沈黙の後、


「遠西さんってパネぇっすね」


申樹が口を開く。


「刃物持った人に物怖ものおじしないで立ち向かうなんて、フツー出来ないっしょ」


「……まあ、それは、あれだよ。よく脳内でやらない?相手がこう来たら私はこうするとかさ」


「いやいやいや、それだけじゃ説明つかないっしょ。それにあの人投げたアレもかーなーり!綺麗なフォームだったしさ。もしかして遠西さんってば武術の達人?」


「そういう訳じゃないけど……まあ親に仕込まれたというか覚えさせられたというか」


「むしろ遠西さんの親が武術の達人とか!?マジすげーっしょ!」


興奮気味の申樹だけどそうじゃない。……まあいい機会だしうちの親について話すのも――とか考えていると。


「えんしんちゃーん!すっごい心配したよぉ!どこも怪我はないかい!?」


わざとらしく大声で申樹の心配するメコウが割って入ってきた。ああ、本当にコイツは。


「メコウさん、警備員と警察は呼びましたか?」


「――ちっ!あーはいはい、警察も来てっからすぐにこっちにも事情を聞きに来るんじゃね?それよりもえんしんちゃんは大丈夫!?怪我してない!?なんなら俺が家まで送ってあげる――」


私が間に入ると露骨な舌打ちをして答えると、また申樹の方へ向き直る。

……傍から見ればコイツの言動とかは申樹を凄く心配している良い人そうなんだけど、私から見れば要注意人物、というか危険人物だし。


「その必要は無いよ。この子は私が責任を持って送り届けるからアナタは自分の心配をしなさい」


「あ゛ぁ!?うっせぇな!なんなんだよお前は!俺は今えんしんちゃんと――」


メコウが口を開くと同時に、私は自分のスマホのある音声を再生する。


『――そうそうお団子頭の女の子。上手くナイフを突きつけてさ。そこで俺がカッコよく助けだせば……へへっ――』


私が流した音声にメコウの顔が青ざめる。――そうこれはメコウの声。しかも内容は申樹を標的にした計画。

私もその音声を聞いた申樹もメコウに対して冷めた眼差しで見やる。


「お、おめぇ、いつの間に録音してた!?」


「いやーカラオケの時にたまたまトイレに立ったら、たまたまアンタがそんな話をしてたんで、ちょっと危ない内容だったんで録音を、ね」


「くそっ!それを寄越せ――」


これは不味まずいと思ったのかメコウは私のスマホを奪い取ろうと一歩踏み出すが、


「あー……お話の最中っすけど、いいっすかね?」


いつの間にか警官がこちらに来ていて、メコウはやむを得ず動きを止める。しかしメコウは何かを思いついたのかニヤリとわらうと、


「お巡りさんこの人、俺を脅してきたんですよ!」


素早く警官に泣きついて私を指差す。それを見た申樹が『んなっ!?』と声を上げると同時に飛び出そうとするけど、私が片腕で制止する。

色々と悪手過ぎてメコウが哀れに思えてくる。調べられて困るのはメコウだろうし、それに――


「君、その話ホントっすか?ちょっと……って、キミは――」


「久しぶりですね、蜴田えきださん」


「おわー!やっぱりお嬢じゃないっすか!一瞬誰だか分からなかったっすよ!」


私が軽く挨拶すると警官も嬉しそうに挨拶を返してくれる。その光景を見ている申樹は『なんか前にも見た光景だ』と言った感じでぽかーんとしていて、メコウに関しては私と警官の顔を交互に見て何かを察してか徐々に顔を青ざめさせていった。


「遠西さんってお巡りさんの知り合いが多い……いや、ってゆーか、『お嬢』?なんでお巡りさんから『お嬢』って呼ばれてるん?実はいいとこのお嬢様なの?」


ふと我に返った申樹がその言葉に首を傾げながら私を見る。すかさず蜴田さんが、


「あれ?知らないんすか?お嬢は網葉あみは中央警察署の署長の娘さんっすよ?」


あっさりと父親の職業をバラしてくれた。


そう、私の父親はこの網葉市にる警察署の署長である。秘密にしていた訳じゃないんだけど、周りの誰も聞いてこなかったしその事を言うタイミングが今の今まで無かっただけだ。


「あー……遠西さんがお巡りさんと知り合いだったりとか色々腑に落ちたわぁ」


「それは良かったっす――ところでそこのキミ、お嬢に脅されたと言ってたみたいっすけど……どういう事かお話を伺ってもいいっすか?」


蜴田さんがそう言いながらメコウに向き直る。メコウは先程よりも顔を青く、むしろ蒼白と言った感じの顔色になって震えていた。


「いや~その~ボクの勘違いだったみたいです――」


メコウの喋りと被せるタイミングで私はさっき流した音声を再び大音量で流す。その音声を聞いた蜴田さんは、


「……どうやらキミにはちょーっとお話を聞かなきゃいけないみたいっすねぇ?」


そう言いながらメコウへ向き直る、と同時にメコウは全力ダッシュでこの場から逃げ出した。


「あ、オイコラ待ちやがれっす!――あーそうそう、お嬢たちの聴取は後日改めて伺うっす!では失礼!オラぁ逃がさねぇぞ!」


そう言って蜴田さんは走り出し、逃げたメコウを追いかけていったのであった――。

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