43匹目・再会は突然に

家を出てオフ会に向かう道を歩く私と申樹しんじゅ

時折すれ違う通行人は振り返っては私達を見やる――何とも居心地が悪い。

そもそもなんでわざわざ振り返ってまで私達を見るんだろうか。


「いやー遠西さん凄い見られてるね~。ま、こんなすっごい美人さんが歩いてりゃ振り返るなってのが無理だけどさ」


申樹の言葉で合点がいく。通行人の視線の原因は私か。いやつかほんと、じろじろ見るのは勘弁してほしい。

なお今日の服のコーデは申樹、髪のセットとメイクは亥菜りな、……自分じゃ何もしてないけど。あ、今日の髪型はちょい編み込んだポニーテール。

私の髪も大分だいぶ手櫛てぐしでも絡まなくなってきたみたいで、亥菜は『少し手の込んだ髪型にしましょう♪』と。


「うーん、やっぱ遠西さんはスポーティー系も似合いますなぁ。

 猪林ししばやしさんも私のコーデに合わせた髪型をチョイスしていい仕事してるし~」


指で四角を作り、その四角の空間に私の姿を収める申樹。


「……でも人の視線が集中し過ぎてちょっと、ね」


話ながら歩いている今も尚すれ違う人たちの視線が私に降り注ぐ。

申樹も『あー……』と言いながら周りを見やる。


「でもさ~、遠西さんって前に演劇部の助っ人で人前に出てたんでしょ?その時は人の視線とか感じてなかったん?」


「あの時は眼鏡外してたし、あと劇に集中してたからねぇ……それに――」


言いかけて当時の事、相手役の子たちからキスされていた事も思い出してしまい顔が熱くなる。


「て、ていうかさ、いいの?ギルドメンバーだけのオフ会に部外者の私が参加して」


キスシーンを頭から振り払う様に話題を変え、申樹の方へ向き直り問いかける。

その問いに申樹は人差し指を顎に当て『ん~』と唸りながら考え事をいていたかと思うと、


「平気だとは思うけどさ、ま、いざとなれば遠西さんがウチのギルドに入るって事にすればいいっしょ♪」


いひひと笑いながら答える申樹。


「いや、まあそれは、まあ……つか、ゲームのタイトルも知らないんだけど」


「あー、そういえばそっすね!んじゃオフ会終わったらソッコーゲーム買いに行かなきゃっしょ♪」


そう言うと申樹は自分の腕と私の腕を絡ませて引っ張る。その拍子でちょっとつんのめりそうになるけど、なんとか堪え歩き出す。

それと同時に後方で『キキーッ!』と自転車のブレーキ音が響く。私と申樹がその音の方へと振り向くと、そこには白い自転車とお巡りさん。

お巡りさんが私たち二人をじっと見ていたかと思うと、そのままUターンしてこちらに向かってくる。


「お巡りさんがこっちに来るけど――え、私なんかしちゃった!?遠西さんを無理に引っ張ったのがなんか勘違いさせちゃった!?それとも遠西さんが指名手配犯だったり!?」


「そんな訳無いでしょうが。大丈夫だよ心配しなくても」


オロオロする申樹を落ち着かせる私。そうこうしている内にお巡りさんが目の前にやってくる。


「――どこの美人さんかと思ったら、綾芽ちゃんじゃないか。久しぶり、元気してたかい?」


「……へ?」


笑顔で、その上親し気に話しかけてくるお巡りさんに申樹はキョトンとしていた。


「お久しぶりです蜥倉せきくらさん、中学生の時以来ですかね?」


「そうそうその位だね。どうだい?剣道の腕前は」


「しばらく離れていましたが先日復帰しまして――」


「はいストーップ!」


何事も無く世間話をしている私と蜥倉さんを見て、呆けていた申樹が声を上げ制する。


「ちょ、ちょっと遠西さん!このお巡りさんと知り合いなんすか!?」


「うん、そう。この人は蜥倉さん、昔からの知り合いで剣道の事でよくお世話になってたんさ」


「どうも蜥倉です、よろしくお嬢さん」


爽やかな笑顔で帽子のつばを軽く持ち上げる仕草をしながら会釈えしゃくする蜥倉さん。


「は、はい、私は猿ヶ岳さるがたけと言います。その、遠西さんの所で居候してます」


ちょっと緊張した感じで申樹は蜥倉さんに自己紹介する。まあ、私の知り合いと言っても相手はお巡りさんだからねぇ。


「そっか綾芽ちゃんとこで預かっている例の子たちか――おっと、戻らないと後輩にどやさられるな」


時計を見た蜥倉さんは自転車にまたがり、再びUターンする。


「それじゃあ綾芽ちゃん、親父さんに宜しく言っといて。それと猿ヶ岳ちゃん、綾芽ちゃんを宜しく頼むよ。綾芽ちゃんって友人が――」


「蜥倉さん?」


「おっと怖い怖い」


笑顔でそう言いながら蜥倉さんは自転車を走らせて去った。はぁ……と私が軽く溜息をくと、


「いやびっくりっすねぇ、遠西さんとあのお巡りさんが知り合いとはね~。

 剣道でお世話になって言ってたけどどーゆー関係かなー?」


横に居た申樹が蜥倉さんを見送りながら聞いてくる。


「多分申樹が思っているようなことはないよ。よく剣道の手合わせしてもらってたんさ。――あと蜥倉さん、既婚者で子供二人いるからね」


「ちぇ、でもそれはそれで面白い――」


申樹の言葉を遮る様に軽く頭を小突こづき、


「こーら、そんなこと言わないの。そもそも私は恋愛とか興味無いし、それと私に手を出したら父さんが……いやまあそれはいいか」


「ん?遠西さんのお父さんってそんなに怖いん?」


「そりゃあ――って、そんなこと言ってないで行くよ。そろそろ電車が出る時間だよ」


私が話を切り上げて駅へ向かい歩き出すと、申樹も慌てて私の後ろを歩き出す。

自分から父さんの話をするのも気恥ずかしい……まあいずれウチの両親と会う事になるだろうし、その時紹介すればいいか。

そう考えながら足早に駅へと向かう――




隣町の駅前。

前に亥菜と共にショッピングした隣町とは逆方向。こちらはこちらで賑やかで活気のある町だ。

今日のオフ会はこの駅前を集合場所にしているとの事。


「それで集合場所は何処なの?確かギルメンとは初対面、なんだよね?」


「えーと、駅前の複合商業施設の出入り口前で――」


駅を出てすぐ目に付くでかい建物――件の複合商業施設の出入り口前に複数人の男女がたむろしているのが見える。


「もしかしてあのグループ、かな?」


「かもね、行ってみよっか」


私の言葉に『う、うん』と妙に緊張した感じで返事して歩き出す申樹。意外と初対面の相手は苦手だったりするのかな?そんな事を思いつつ、私は申樹の後に続く。


ギルメンのグループと思しき人たちに近づく私と申樹。男女比は……半々と言ったところ。あからさまに変な人はいないみたいでよかったよかった。

申樹はそのグループに近づいていき、


「あ、あの!こんにちは、皆さんは『しんしゅわ~』のギルメン、ですか?」


おずおずと申樹がグループに声を掛ける。……ギルドの名前を聞いてなかったけど、『しんしゅわ~』って。申樹の『しん』に戌輪の『しゅわ』で『しんしゅわ~』ってことかな。安直っちゃ安直。


「あーもしかして!団長の『えんしん』さんですか?きゃー!メッチャ可愛いじゃん!」


『えんしん』と聞かれて申樹が頷くと、ギルメンがわぁ!と歓声を上げる。すると今度はこちらを見て、


「それじゃあ、そっちの人が副団長の『しゅわわ~』さん!?」


興奮気味に聞いてくるけど、恐らくその『しゅわわ~』は戌輪の事なんだろうと分かる。


「いや私は違うよ。その『しゅわわ~』の代理だよ」


「あ~……そうなんだ~。……でも、素敵なお姉さんですね~」


ギルメンのほとんどが男女問わず私を見てぽけーっと見つめてくる。しかしその中で一人の男性が、


「まあ俺は『えんしん』ちゃんの方が可愛いと思うけどね」


と申樹に向かってウインクを投げかけてくる。申樹はちょっと引き気味で『あ、ありがとう』と笑顔を返す。人の好みは人それぞれだから別に構わないけどさ。

――ちょっとこの男性は注意しといた方がいいかも。


「……あー!もしかして貴女は!」


唐突に一人のギルメンが声を上げる。


「ん?……げ、アンタは――」


私が声を上げた人物を見て、絶句する。

――そこに居た男性に見覚えがあった。


「やはり貴女はメイド長――ぐえ!?」


私は素早くその人物の首根っこを掴み、


「えっと、『えんしん』はちょっと皆と話してて。私はちょっとこの人と向こうで話をしてくるから」


「え、あ、うん、行ってらっしゃい」


申樹の言葉と同時に少し離れた所にその人物を引きずり放す。

目の前の人物とは以前一度だけ会った事がある。


「ま、まさかこんな所で『』にお会いできるとは光栄です!」


「うん、それはあの店だけの話だからね――」


そう目の前の人物は以前寅乃の店の常連客、そして寅乃にセクハラしまくって最終的に私が『メイド長』として指導した客だ。

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