42匹目・変えたかったのは
「うん!遠西さん、デニム系もバッチシ似合うじゃん♪」
まあいつも
「んじゃ遠西さん、早速出発しましょ♪」
待ちきれないといった感じで私の腕をぐいぐい引っ張る申樹。
これから申樹と共にとある場所に向かうのだけれど――
「……申樹、ちゃんと約束は守ってよね?」
「分かってますぅ~帰ってきたらちゃんとやりますぅ~!」
私の一言で申樹は口を尖らせ膨れっ面になりながらも、私の腕を引っ張る。
まあここに居続けてもしょうがないし、申樹に腕を引っ張られながら部屋を出る――
それは他の居候達の目から見ても『おかしい』と思わせる事態となった。
いつもであれば申樹と戌輪、二人一緒に起きてくるのだけども……。
最初にやって来たのは申樹だけ。
しばらくしてから戌輪がやって来るけど――申樹の隣には座らなかった。
いや座ろうとしたみたいだけど、申樹の『こっち来るなオーラ』みたいのが出ていて戌輪は仕方なしに私の隣に座った。
ちらりと戌輪を見れば視線を下に向けたまま、
そして他の居候達はその二人を見ては私の方を困ったようにチラチラ見てくる。……私も困ってるんだけどなぁ。
結局申樹が何で戌輪に対してあんな態度をとっているのかイマイチ要領を得ない。
――まあ申樹に聞けば手っ取り早いんだけど……話してくれるかなぁ?
「……わぅ、私、今日、図書委員で……行かないと……」
そう言って隣の戌輪が立ち上がる。
目の前の朝食には手を――付け終えていて、
いや、私が考え事をしている間に食べ終わってるの凄いな。他の皆は全然食べ終えてないのに。
私がそんな事を思っている間に戌輪は鞄を手に取り、逃げる様にこの場から出て行ってしまう。その様子を申樹はチラリと横目で見るけどすぐに視線を戻す。
――そのまま少々気まずい雰囲気の朝食を皆でとり続けた。
「申樹」
玄関で靴を履いている申樹を呼び止める。
「――はいはい、なんすか?」
申樹は靴を履き終えると立ち上がり、こちらに向き直る。その表情は笑顔だけど、どことなくぎこちなかった。
「今日帰ってきたら、少し話しよっか」
「……
「別にお説教するつもりはないけどさ。申樹の話を聞きたいだけだし、昨日の事とか」
その言葉に少し
「――ま、いいですよ。た・だ・しぃ、ゲームで私に勝てたらっすけどね~♪」
そう言いながら人差し指を私に突きつける申樹。ホントゲーム好きだなこの子。
ただ話をしたいだけなのに何故ゲーム勝負しなきゃいけないのかが分からん。けど、その勝負を受けない限り申樹は話そうとしないだろうし。
「オッケーオッケー、受けて立つよ申樹。それで何のゲームで勝負するの?」
私のその言葉に申樹はにひっと笑い、
「そりゃ~遠西さんの苦手なジャンルっしょ♪んじゃゲームのタイトルは後で連絡するんで私が帰ってくる前に用意ヨロ~♪」
申樹はそう言って家を出て行った。
……申樹が言うタイトルが手持ちに無かったらどうするつもりなんだろう?ここ最近の機種であればダウンロード版を購入って事になるだろうけど。
「……ま、どんなゲームでも申樹に勝たないとね。――戌輪の為にも」
独り言ちながら朝食の後片付けをするため
そして昼過ぎ、申樹からメールが一通。読めば指定してきたゲームタイトルは――有名なFPSゲーム。
残念ながら手持ちには無いタイトルだけど、ここ最近のゲーム機だしすぐにダウンロードできるな。そう思い私はすぐにゲーム機を起動し指定されたタイトルのダウンロードを開始した。
……そして、結果は以前の通り。
「あ゛あ゛ー!遠西さんになんで勝てないのさぁ!」
しかめっ面で用意した座布団に座り
結局申樹は私に一回も勝てず、渋々観念して夕食後に私の部屋にやって来た。
「だって申樹ってば隙を見せたりすれば簡単に私の仕掛けた罠や策にかかってくれるからねぇ。勝てそう、って思ってもちゃんと罠かどうか見極めないと」
私の言葉にプクーっと頬を膨らませる申樹。しかしすぐに膨らませた頬はしぼみ、真剣な表情で私の方へ向き直る。
「それで……話って、戌輪との事、だよね」
「――うん。戌輪からあらかた
私の言葉に申樹は溜息を
「前に、遠西さんと
その時は確か……申樹と戌輪の仲の良さに私と午馳は微笑ましく見ていたはず。話の内容はありふれたものだったけど。
「あの時は普通に駄弁ってただけ――」
「私はこう言ってたんですよ、『戌輪じゃないとハイテンションの私を止められない』って」
ああ、と確かそんなことを言ってたなぁと
「……私ってばすぐに調子に乗っちゃってさ、リアルでもゲームでも余計な事したりとかで友達とかに迷惑掛けちゃって。
――今度のオフ会もそう。最初は断ってたけどギルメンに
「申樹はそのオフ会、本当は乗り気じゃなかったの?」
申樹は小さく頷く。
「いつもだったら戌輪が止めてくれてくれるんだけど、そん時あの子、別の事してて画面をちゃんと見てなかったみたい……。
結局あれやこれやで私もオフ会に参加する事になって、それで……」
「――何とか戌輪にも参加してもらおうと?だけどさ、それでなんで戌輪に怒鳴ったの?」
そう聞くと申樹は抱えていた膝に顔を埋め、表情が見えなくなってしまう。
しかし顔を埋めると同時に、ぽん!と音が部屋に響く。それは申樹が
「……ホント、私、最低だよね。幼馴染のマジトモに八つ当たりしちゃってさ。
私と違って戌輪は、煽てられても冷静でいて、自分的に無理な誘いをちゃんと断れて、そんな戌輪が
申樹が今どんな表情をしているかは分からない。だけどその肩は震えている。
「戌輪はあのままでいいのに……変わんなくちゃいけないの、ホントは私なのに……。私……どうしたら……どうしたら……」
今にも
そんな中、私はほっとしていた。だって申樹は今も戌輪の事が大好きなんだって分かったし。
「きちんと、戌輪に謝ればいいんじゃない?」
申樹に歩み寄り、頭を優しく撫でながらそう言う。
「で、でも、私、あんなこと言っちゃったし、戌輪が、許して――」
「申樹がちゃんと怒ってた理由を包み隠さず伝えれば、戌輪も許してくれる。だって申樹と戌輪は――『幼馴染のマジトモ』でしょ?」
その言葉に恐る恐る顔を上げて私を見やると、小さく『うん』と呟く様に声を発する申樹。私はそのまま微笑みながら申樹の頭を撫でる。
しばらくして再び、ぽん!という音が部屋に響く。それでも私は撫でる手を止めなかった。ただ何となく、そうしたかったし。
少しの沈黙の後、
「それじゃ、戌輪に謝ってきなさいな。きっと――」
撫でていた手を申樹の肩に移動させ、ぽんぽんと叩く。しかし申樹は――
「それなんだけどさ……オフ会が終わってから、でもいい?」
「…………いや、すぐに謝った方が」
すぐに出てこなかった私の言葉を無視するように申樹は立ち上がり、
「……正直言うと戌輪をオフ会に参加させたかった理由がもう一つあって――私ってば私と戌輪二人で参加するって言っちゃってるんだよねぇ……」
あはは……と頭を掻きながら苦笑する。
「その
肩を
「それでなんだけどぉ~……」
申樹は私の前で
「――はいはい。戌輪の代わりにそのオフ会に参加してあげるから、その代わり約束。ちゃんと戌輪に謝るんだよ?」
「もちのろんで当たり前田のクラッカーってやつっすよ~♪」
サムズアップしながら満面の笑みを浮かべる申樹。ただ、その返しは古いけど。
「それで、オフ会っていつ――」
「明日っす」
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