40匹目・意外な趣味
銃声が鳴り響く戦場。
私は誰も来なさそうな、というか気付かなさそうな物陰で静かに敵が来るのを待つ。
――タンッ!
「……っ」
少し遠くで、しかし私の耳にハッキリと一つの銃声が響き届く。
ただ私を狙った訳ではなく、他の誰かを撃ったようだ。
しばらくすると一つの影が走ってくるのが
私は銃を構え、スコープを覗く。
――間違いなく敵だ。
「……ふぅ」
小さく息を吐き、引き金を引く。
――銃声から少し遅れて標的である影が倒れるのを確認した。
「あ゛ーっ!!また負けたぁ!!遠西さん強すぎぃ!!」
ヘッドセットから声が響いてくる。
声の主は、
「つか芋スナ卑怯すぎ!いやそもそも遠西さんにスナイパーやらせちゃ駄目だわ!ステルス上手すぎてマジわっかんねぇしやっべぇし!」
「……スナイパーだし、身を隠して狙撃は当たり前でしょ?」
つか芋スナって何?
「いやいやいや!遠西さんの場合、ガチでアンタはプロの狙撃手の生まれ変わりかってレベルのステルス技能と狙撃力だし!」
興奮気味に申樹は
――私の目の前にはゲーム機とテレビ、その画面には『勝利』の文字。
そう、先程まで申樹とFPSゲームをしていた。
結果はまあこの通り。
「遠西さん!負けっぱなしは悔しいんで、次はレトロゲームで勝負っすよ!
すぐそっち行くんで――」
「その前に少し休憩。飲み物とお菓子用意しておくね」
「了解っす~♪」
その声と同時にボイスチャットのルームから申樹が退出する。
私もゲーム機の電源を落とし立ち上がり、台所に向かう。
しかしここまでゲームするのも
それに……申樹がここまでゲーム好きだとは思わなかった。
しばらくして居間の方からドタドタと足音が聞こえてくると、
「とうちゃーく♪遠西さーん、こっち繋げちゃっておけっすかー?」
「あ、うん。お願いー」
楽しそうな申樹の声に返事しながら私はお茶とお菓子を準備する。
そこに、
「申樹姉ちゃんがなんか楽しそうな事してるー☆」
どうやら申樹の騒がしい足音になんだなんだと見に来たみたい。
……もう少しお菓子、多めに持っていくか。
でもきっと、あの中には
そう考えながら私はお盆にお茶とお菓子を
「ねぇねぇ遠西さん」
6月も半ば過ぎのある日。
居間でゴロゴロしていると学校から帰ってきた申樹が話しかけてきた。
「ん、どうしたん?」
「前々から気になってたんだけどさ、ここにあるゲーム機全部遠西さんの?」
申樹が指差す方には綺麗に陳列されている様々なゲーム機の本体。
最新の機種から辛うじて稼働できるもの、果ては『ど』が付くほどのマイナー機種まで揃っている。
「まぁ半分はね。もう半分は父さんの趣味」
最新機種から何世代か前ぐらいのは私のだけど、それ以外の古い機種とかはほとんど父親の趣味だ。
「へぇ……でも遠西さん、ゲームってするんすか?」
「たまーに、と言ってもここ最近は全然やってないんだけどさ」
「ふーん……」
私の言葉を生返事で返す申樹。
というか意識と視線が向こう――陳列されているゲーム機に釘付けになってる。
前にゲームが好きみたいなこと言ってたけど、こういう古いのも好きなのかな?
「っていうか申樹は古いゲームも興味あるの?」
「そりゃあもう!モチですよ!ここには本とかネットの写真でしか見た事のないゲーム機ばっかでテンション爆上げするしかないっしょ!
自分で買おうとしてもプレミア価格で手が出せないのだってあるし!
あ、古い機種だけじゃなくて最新のも興味アリアリっすから!」
鼻息荒く熱く笑顔で語る申樹。
笑顔で楽しく熱弁する申樹を見ているとこっちまで楽しくなってくる。
……久々に私もゲームするかな。
「――あ……」
小さく声を上げたかと思ったら、先程までの騒がしさが嘘のように大人しくなる申樹。
そして黙りこくったまま私の隣に腰を下ろす。
「ん、どうしたの?」
「変、すかね?女子なのに周りがドン引くぐらいのゲーム好きって……実際、ドン引きされたし」
そう言いながら申樹は頬を膨らませて頬杖を突く。
「学校で何かあったの?引かれるような事が」
「んまぁ、ね。私がゲーム雑誌読んでたらクラスの男子がゲームに興味があるって話しかけてきたんすよ。
んで私がちょっと熱くゲームに語ったらその男子が『お前ゲームの事になるとめっちゃ早口になるのな』って引きながら言ってきて……激ブルーっすわ、マジで」
まあ多分その男子は申樹『にも』興味があったんだろうなぁ。
んで蓋を開けたら重度のゲーオタだったもんだから面食らって、そんな言葉が出ちゃったのかもしれない。
しかし当の申樹も相当
「……それじゃ気分転換にレトロゲーム、やってみる?」
「え、マジっすか!?どれでもいけちゃう感じ!?」
「父さんのは駄目だけど、そこからそこまでの範囲のだったらいいよ」
私がそう言うと申樹は先程までの表情から一転、目を輝かせる程の笑顔になる。
そしてぱっと立ち上がり、ゲーム機が陳列されている棚に鼻歌交じりで歩み寄る。
「うーん……こっちもいいけど、これも捨てがたいし。
つかこんなんメッチャ迷うに決まってるじゃんか~」
決められなくて悩ましいと言った口振りだけど、申樹の表情はメチャクチャ楽しそうだ。
そんな申樹を眺めていると不意にこちらに顔を向けて、
「こうなったら遠西さんにオススメしてもらうしかないっしょ♪
って事でヨロ~♪」
笑顔でこっちに丸投げしてきた。
しょうがないな、とか呟きながら立ち上がって棚に近づく――
ぽへ~と何とも気が抜ける音が室内に響くと、
「あははははっ!チョーウケるんですけど♪頭飛ばして攻撃って♪」
ただその攻撃が気に入ったのかそれしか申樹は使ってこない。
私は難なくそれをジャンプして
「あぎゃー負けたー♪お、勝ったキャラが踊ってるじゃん、メチャ可愛い~♪」
負けても楽しそうな申樹。
全然悔しいとかいった感情は一片も見られない。
「つかこんな古い機種でも格ゲーってあるんすね、マジビックリ♪
ボタンも二つしかないってのに技が
「しかも隠しコマンドを使うと――ホラこの通り」
「おおスッゲ!キャラが一気に増えたし!
ほらほら遠西さん次やりましょ次♪」
そう言うと申樹はコントローラーを持ち直し、追加されたキャラを選び始める。
私もそれに続きキャラを選び、再び対戦がはじまった。
少ししてから、
「そういえば戌輪はどうしたん?」
ふと頭に浮かんだ疑問を口に出す。
なんかいつも申樹と戌輪、二人ワンセットとって感じで一緒にいる事が多いから今日みたいにどちらか一人でいるのは珍しい。
「あーあの子、図書委員で今日当番。
それなんで私は先に帰ってきたんすよ」
画面から視線を外さずに答える申樹。
ただちょっとつまんなそうにしているのは気のせい、かな?
「そっか。つか前にレア掘りに戌輪を付き合わせてたみたいだけど、戌輪もゲームするの?」
「ちょいちょいね。
ま、RPGとかはやるけどさー、こーいった格ゲーとかアクション系はダメダメでさー。
オンのRPGゲーじゃ私が前衛とかタンクやって、戌輪は後衛とかでサポやヒーラーって感じ」
そう話しながら申樹はカチャカチャとボタン操作して技を連発する。
ああ、と二人の性格からしてなんか納得してしまう。
私はそう考えながらも繰り出された技を全て回避し、カウンターを決めてまたもや申樹のキャラをK.Oする。
「にょわー!また負けたしー!」
それでもやっぱり楽しそうにしている申樹。
「やっぱ最新のゲームも面白いけど、こーゆーレトロゲーも面白いのあってメチャ楽しいわー♪
んじゃ次これやろやろ♪」
いつの間にか手に持っていたゲームソフトを申樹は差し出してくる。
「はいはい、これで今日はおしまいだからね」
「らじゃ♪」
――この後、夕食の時間になるまでゲームに熱中し過ぎてしまった。反省。
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