第5話 幼女が笑った、何かが輝いた、ガラスだった、カーテンが風に揺れた
「出でよッ!!!!!! 本体!!!!!!!!!」
よっしーがそう叫ぶと、もう一人のよっしーが現れた。
トコトコと効果音が付きそうな歩き方、猫背、脂身とか名乗っているくせに骨と皮みたいなボディー。
「っふ、双子ッッツ!?」
「「突っ込むのそこで御座るか!?」」
軽くのけぞった二人によっしー二匹が突っ込みを入れた。
「いや、そ、そんな……こんなにそっくりの双子って存在するのか? 服装までおんなじって……親はどうやってお前らを見分けてるんだ……」
「え―――――、マジ!? 田中、ちょっとこいつら凄いよ! 触り心地までおんなじだよ!」
いつの間にか立ち上がっていた一華はよっしーの股間を驚嘆の様子でパフパフ叩く。
「い、いや、マジで? ちょっとマジで言ってるの。あなた達本当に、本気でそうおっしゃってるんですか?????」
御座る口調を忘れたよっしーはまるで常識人のように戸惑いを口にし、一華の手を払いのけた。
「こ、これは私と
と、尚も
「「え――――――――――――――!? マジ!?」」
「どれだけ驚いているんですかあなた方……」
「お兄ちゃん、違うよ……この人たちお兄ちゃんを弄って遊んでるだけだよ……」
ほ、ほんとに? と何処かきょとんとした円らな瞳で田中を見つめるよっしー本体と、よっしー(2)。見つめられた田中は露骨な舌打ち。
「バレちゃったね田中」「ああ」
二人はやっちまったと両手を上げた。
「何なんですかあなた方……」
「その敬語やめてくれねえかな」
「いや、この敬語状態にしたのあなた方でしょう……」
少女、文香が不安そうな顔でよっしーを見つめる。
「お兄ちゃん、いつものお兄ちゃんに戻ってよ……」
「申し訳ないで御座るよ……文香」
プフフ。と一華の笑い声。
「ねえ聞いた田中ぁ……御・座・るだって……」
「ンフフ……いつの時代のオタクだよ……」
「失礼な奴らで御座るなぁ!!」
というか最初からそうだったで御座ろう! と、よっしーは喚く。
今度はフフと、田中でも一華でもよっしーでも、はたまたよっしー(2)でもない控えめな笑い声が響いた。
「笑った……」
「ご、ごめんなさい、で、でも。お兄ちゃん、おもしろいんだもん」
「いいんで御座るよ。文香は最近悲しそうだったで御座る……それに文香になら笑われてもいいで御座る……」
「あの……なんか、アルプスの金髪が立ったみたいな感動的な場面なのに申し訳ないんだが……。見たかんじ、お前の能力の一つが操れるタイプの自分のクローン? を作ることで、あともう一つは?」
「能力の透視かな?」
「あ、当ててきた……? そ、そうで御座るが」
”が”なんだ? と田中が尋ねようとした瞬間。
『パン』と、手拍子のような音がした。
今度は誰の音でもない、本当に自然な音。何の音か分からない。
その場にいた全員が顔を見合わせ、しかし一瞬、一華が遮光カーテンに目を向け、そして、
「田中、よっしー伏せて!!!!!!!!」
シャンという音、透明な輝きが部屋に舞った。
キラキラと光りを反射する。田中は見とれ、そして一瞬で理解した。
これはガラスである、と。
その瞳に赤い色彩が写る、よっしー(2)のものだ。少女と本体にかぶさったその体は背中から噴霧のように血を噴射し力尽きている。
秋の涼しさを感じさせる風がカーテンを叩く、バタバタと音がなった。
日の差し込むガラスのなくなった窓、その窓枠をくぐり誰かが部屋に入ってくる。
「お邪魔します」
背の高いひょろっとした、何処か影のある青年は人懐こい笑みを浮かべた。
「おっと、『君も』そうなのか……」
無傷の田中と一華を見てそういった後、隣に控える少女の手を握る。
「僕も、なんだよ」
男の言動を見るに、そういう事だろう。
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