第62話 護魔界へ

 漆黒の空、どす黒い海、護とガブリエルは魔界へ到着した。深い森に入り、方向もわからずやぶれかぶれで何とか森を抜けだすと、灯りが煌々と照らし出す場所に出た。おそらくは魔界の住人の街であろう。


「ま、護ぅ.......腹減った」


「奇遇だな.....俺もだ」


 闇の本を探すより先に空腹で耐えられない二人。終いにはガブリエルがこのまま愛の逃避行しようとか言い出す。そんな事を言う元気があるなら大丈夫だろうと護は思った。


「おいっ! もう少し頑張れ。街が見えたぞ」


 街の灯りに導かれ、ガブリエルが我先にと走り出す。飯だぁぁぁぁぁ! と叫びながら。

 魔界の街は人間界にあやかったのか? 電気こそないが、魔法か何かで街の灯りを照らしている。当然、お店も沢山ある。


「魔界食堂.......」


 護には何て書いてあるかわからないが、ガブリエルには読めたようだ。異世界交流法のおかげなのか、人間界に近い料理が沢山ある。


「いらっしゃい、人間と天使とは面白い組み合わせだな! 観光かい?」


「親父ぃ、アタシの口から言わすなよ! 新・婚・旅行」


「うおぉーい! 待てぇー!」


 慌ててガブリエルの口を塞ぐ護。この期に及んで何を言い出すんだ? と小声で囁く。


「下手に闇の書を探しているなんて言えねーだろ? だから、ここは合わせろ!」


 ガブリエルの言う事には一理あるが、新婚旅行と言う設定が気に食わない護。許すなら兄妹と言う設定であれば文句はないが。


「親父ぃ、この魔界海老天丼二つ!」


 魔界海老天丼、簡単に言えば海老天丼だが人間界の海老よりは、顔がかなりグロい。紫かかったボディが熱を加えたら真っ黒に光沢を帯びた。見た目はあれだが、いざ実食! 人間界よりも身が絞まって肉厚プリプリ。空腹のあまりがっつく二人。


「米は人間界産だな」


「護わかるのか?」


 わかるも何も、魔界は日の光がないから米が育つわけない。人間に扮した魔族が人間界から調達しているのだろうと、護は予測を立てた。


「ぷはぁー美味しかったぁー! 親父ぃ勘定!」


「あいよー!」


 天界印のクレジットカードを提示し支払いを済ます。人間界でたい焼きを食べた時は使えなかったが、ここでは通用した。一応世界共通クレジットらしいが、当然支払いは天界が経費で払うため、ガブリエルの懐は全く痛まない。


 さて、これからどうしたものかと考えるが、何も思いつかない。ただ、闇の書は魔界の監獄の最深部にあると言う情報しか手がかりがなかった。


 明らかに人ではない尖った耳と鋭利な歯を持ち合わせた魔界の住人達、人間を見るのがそんなに珍しいのか? 護達が魔界の街を歩く度に熱い眼差しを感じてしまう。いつか殺されそうな勢いまでに。


「おいっ天使! 監獄の場所は俺は知らん! お前だけが頼りだ!」


「お、おぅ! 任せておけ! 大船に乗った気持ちでいろよ!」


 そうは言う物の、こいつ絶対わからないだろうと護は思った。重い罪を犯した罪人が捕らえらえているから、この街ではないと断言はできる。


「埒があかねー! アタシちょっと飛んで見てくる!」


 街の出口で羽を羽ばたかせ、空中を舞うガブリエル。漆黒の空に光輝いて見えるから余計に目立ってしょうがない。


 ガブリエルの目に映った景色は、樹海が広がりぽつんとアンテナらしき物が見えた。一か八かそこが魔界の監獄であって欲しいと願い、護の手を引っ張り空を飛ぶ。


「おいっ! いきなり何しやがる!」


「歩くより飛んだ方が早い! だから......アタシの手を放すなよ.....」


 ぽっと顔を赤くし、今このひと時を大事にするガブリエル。こいつ本当に大丈夫か? 不安しか出ない。終いには二人だけのスィートホームを探そうと言い出す。スケボーがあれば、護も空飛ぶ魔法エアーボードの魔法が使えるのに....。


「何か寒くないか?」


 飛んで数分。風を切っているせいなのか? 体感温度がみるみる下がり、護の手から顔が冷たくなってきている。


「飛んでいるからな......護ぅなんならアタシが温めてあげるぞ」


「いや、いい!」


「全魔界の悪の心を持った者よ! わらわはコキュートス! たった今からわらわが魔界の王....いや女王じゃ!」


 突然コキュートスの声が魔界全土に響き渡る。寒い原因はこいつの仕業か! と護は叫びだす。


「われら魔族の力の源は何じゃ? そう悪だ! 近頃異世界交流法というくだらん法が出来て暴れたくても暴れ足りぬ! これからは好きなように暴れ、人間界にうつつを抜かした魔族を排除せよ! 弱き者はいらぬ! 今一度混沌と破壊に満ちた魔界を作ろうではないか! 賛同する者は魔界の監獄へ集まるがいい!」


 何て事だ! コキュートスが魔界を統治すると宣言。これから魔界の監獄へ向かうて時にそこがコキユートスの根城と化した。


「あっそうそう、この魔界に不法侵入者が現れた。この二人組じゃ!」


 どこで見ていたのか? 空に護とガブリエルが映し出されている。完全に魔界のお尋ね者となった二人、逃げも隠れもできないこの状況。地面に降り立ち作戦会議をする事となる。


「ちなみにこの二人を始末した者は幹部の座を与えよう。さぁ! 思う存分暴れるがよい! 魔界を完全統治したら、ジブリール、人間界、天界を攻め落とす! ついでに冥界もな」


「聞いたか? 護、あの色白女そんな事をしたら......」


「あぁ、わかっている!」


 二人が思った事、それは.......。


「「アリサちゃんが死んじゃう!」」


 ガブリエルの大好きなアイドルアリサ。護の二次元嫁の紫音の声優を務めるアリサ。コキュートスの思い通りになったらアリサが死ぬ。それだけは断固阻止! 固い決意を胸に作戦会議をする二人であった。







 



 

















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魔法使えますけど何か……? 八剱蒼弓 @m-kata

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