第58話 天界の伊織

「ここが天界かぁ、何て綺麗で清々しいの」


 ジブリールから天界へ繋ぐ天の階段。その階段をかけ上がり、天界へやってきた伊織。天界の美しさにうっとりし、人間界を救う戦いなど忘れてしまうくらいに。


「伊織じゃないか!」


 天界に着くなり、ラファエルが伊織を出迎えてくれた。


「ラファエルさん、あのね」


 伊織が事情を話し、人間界で起きた事を話す。

 ラファエルもガブリエルから人間界監視の結果、色々報告は受けていたから大体の事情は知っていた。しかし、肝心のガブリエルの姿が見えない。


「あのバカ、人間界がああなってから、護を探すとか言って再び人間界に飛んで行ったよ」


「ガブリエルちゃんの事だから心配ないけど、ラファエルさん、お願いします光の書が必要なの! 貸しては貰えないでしょうか?」


 ガブリエルは人間界で護を探しに行ったまま、まだ戻らない。光の書を持ち出すにはゼウスの許可が必要だとラファエルは言う。


「と、とにかくゼウス様の謁見許可を取らないと」


 ラファエルに案内され、着いた場所はゼウスの城にあるミカエルの部屋だった。


「ミカエル様、こちらは人間界の友達の宮本伊織です」


「初めまして宮本伊織です」


「こんにちわ、可愛いお嬢さん。ラファエルの上司のミカエルです」


 挨拶が終わり事情を説明する。紅茶をすすり、一息つく。


「事の事態はガブリエルの報告から聞いています。ゼウス様はコキュートスに備え天界に結界を張り部屋に籠ってます。コキュートス厄介ですね……天界とジブリールが手を組む時かもしれません……光の書の場所へ案内します付いてきなさい」


 話が早くて助かった。ミカエルに案内され、光の書の封印場所へ。城の通路を通り、次第に暗がりの中に。そこには重く大きな扉が。


「ちょっと待って下さいね」


 扉には魔方陣で施された鍵が三層に渡ってかかっている。ミカエルが呪文を唱えると魔方陣は次第に解除され、重たい扉が開き出す。内部へと入ると光の書が鎖に縛られていた。ガブリエルがドジを踏んで依頼、光の書は厳重に管理されている。


「久しぶりだね……光の書。いや、ハチベエさんだったかな?」


 伊織がそう呟いた束の間、ミカエルが呪文を唱え、光の書の鎖を断ち切り光の書から眩い光が溢れ出す。


「う、うーん……はっ! この懐かしい匂いは? い、伊織ちゃーーん!」


「キ、キャアァァッ!」


 ページを開き、伊織の胸に猛突進ぷにっとした感触に光の書ならぬ、エロ本。伊織は怒りに身を任せ光の書を叩きつけた。


「もう、相変わらずなんだからぁ」


「ちょっと、いきなり何ですか! こっちは今大変なんですからね!」


「わかったわかった……もう、俺なりのスキンシップなのに……何があったか探らせて貰うからね」


 光の書ハチベエはページを開き、伊織をじっと見つめる。本なのに目があるのだろうか。それよりかさっきの行動で、またいやらしい事を考えてないか不安になる。やがてハチベエは光を放ち、伊織を照らす。


「ふむふむ。コキュートス...........あいつが相手か........て事はだなクロベエの力も必要か」


「勝つためにはあなたの力が必要なの! お願い! 力を貸して」


 緊迫した表情で語りかける。ハチベエは目などないが、伊織の心臓の鼓動と熱を感知し、喜怒哀楽を察知できる。


「人間界やばいのね..........そう言えば護はどうした?」


「彼ならジブリールで修業してます」


 護の事を心配したのか? ほっとした様に見えるハチベエ。あいつは俺の金づるだと心にもない事を思っていた。事の重大さがわかり、ハチベエも伊織に力を貸す事の了承。善は急げと、天界を後にしジブリールへ帰還する。


「ラファエル、あなたも彼女に付いておやりなさい」


「ミカエル様?」


「おそらくガブリエルも戦うでしょう。そのためにはあなたが必要ですからね」


 黙って首を縦に振るラファエル。ガブリエルのメタトロンが必要不可欠と感じたから。


       ***


「まも君、まも君」


 修業に疲れ護は夢を見ていた。そこには何故かエプロン姿の紫音が。これは何の冗談だ? 護は状況が把握できていない。


「私達結婚したじゃない! ほら、ネクタイ曲がってるよ」


「えっ? えっ?」


 おかしい、俺はまだ高校生。結婚などできるはずがない。それにしてもスーツ姿似合わねー。などと思いつつ状況整理。


「ほらほら朝ご飯できたから食べよ」


 夢の中とは言え、朝食のご飯とみそ汁、卵焼きがずらりと並ぶ。


「まも君たらっ、頬にご飯粒付いているよ」


「えっ? ごめん」


 手を伸ばし、護の頬についたご飯粒を取る紫音。今俺って幸せ? 


「はいっ取れた」


「あ、ありがとう.........ぬおわあぁぁぁーーーー!」


 顔を向けると今度は紫音ではなく目の前には伊織が。


「護君、どうしたの?」


 普段は護の事は苗字で呼ぶのに、いきなり下の名前で呼ばれる。驚きのあまり護は夢から覚めた。


「ま、護ぅーーーー!」


「お前クソ天使!」


 現実世界に戻ると今度はガブリエルが。目が覚めた途端、護に抱きつき首を絞めつけられるくらいに強く抱きしめていた。




























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