第59話 ジブリール炎上

 人間界で護を捜索したが、見つからずやむを得ずジブリールに立ち寄り情報を得に来たガブリエル。運が良かったのか、偶然にも護と出会えた。


 何と言うか、ガブリエルから妙に良い香りがする。天界での一件以来、何か色気付いた感じがしてならない。


「おいっ、お前香水つけてるだろ?」


「ち、ちょっと気になったからな……つけて見たが良い匂いだろ? 惚れただろ?」


 何を言ってるんだか。色気より食い気のガブリエルが色気づいている。


「天使ちゃん、神里君落ちた?」


「いや、あんまり……」


「あんたの差し金か……」


 ジールが現れ、いきなり何を言い出すかと思えば、ジールと共闘し護を落とす作戦だったのだが、護は以前戦ったサキュバスやフェニアの色仕掛けに免疫が出来ていて、そんなのは全く通用しない体となっていた。


 護が寝ている間にガブリエルがジブリールにやって来た。その時ジールが力を貸せと言ったらしく、ガブリエルは報酬に護を寄越せと強要する。そして、前借りと言う事でジブリール秘伝のどんな男もいちころにさせる媚薬の香水をガブリエルに渡したのだ。


「おい! 効果ねーじゃねーか!」


「あらら残念ね。でも約束は約束よ! 彼と魔界に行って頂戴!」


「ぐぬぬ」


 ジールはこれを見抜いていたのか? まんまとジールにハメられたガブリエル。終いには護とデート出来るんだから喜べと言い出す。


「そういう事だから神里君、早速魔界へ行くわよ」


「ま、護、アタシがお前を守るからな!」


「へいへい........」


 ジールの城を出て、ジブリールの街を経由し魔界へと直接繋ぐ地獄の階段を目指す一行。以前タルタロスと戦った魔界の狭間とはまた異なる場所。


「おい何か臭くないか?」


 護が何か焼け焦げたような臭いに気づく。その臭いは段々と濃くなり始め、ジブリールの街が黒い煙に包まれている。


「火事か?」


「えぇ、しかもただ事じゃないわ」


 護の言葉にジールが歯ぎしりをしながら答える。ただの火事ならすぐに鎮火できるのに、この炎はまるで生きている。


「凄いじゃろ? 燃えているのぉ」


 突如護達の背後にコキュートス、完全に不意を突かれた。

 いつの間に現れたんだ? 全く気配も感じなかった。背筋が凍り付く様に何かゾクッとしたものが走る。


「「コキュートス!」」


「小僧、生きていて嬉しいぞ」


「お前肌が妙に若返ってないか?」


「パワーアップしたのじゃよ。ルシファーの力を食ろうてな」


「ルシファーですって!」


「おや? ジブリールの女王と天界の天使もおるではないか」


 護が見たコキュートスはこの前より肌の白さに輝きを帯びている事。更に力をつけたとなると非常に厄介。正直勝てる気がしない。そしてジールは確信した、ルシファーの力を取り込んだ事により、火と氷を自由自在に操れる事に。


「護、逃げよう! 勝てる気がしない!」


 ガブリエルが護の手を引っ張り逃走を試みる。


「ホホホホッ逃げろ逃げろ」


 あざ笑うかのようにコキュートスが二人を煽る。ジールが合図を送り二人を先に行かせた。もちろん行先は魔界へと続く地獄の階段。


「この色白ババァ! やってくれたわね!」


 ジールの怒りも頂点に達し、二人が魔界へ行くまでの時間稼ぎをする。ジールの体から紫のオーラ現れ、一気に解放。


「エレクトロサンダー!」


 ジールが放った紫の稲妻がコキュートス目掛けて飛び、コキュートスもまたバリアを張り攻撃を防ぐ。


「危ない危ない、やはり一筋縄では行かぬか」


「あまり、ナメないで欲しいわ! 何で彼らを逃がしたのかしら? 殺ろうと思えば殺れたわよね?」


「そうじゃのぉ.....いつでも殺れたがのぉ、じゃがそれでは面白くない! わらわはちょっとした余興を考えた」


 そう言ってコキュートスは護達が逃げた方向へ目を向ける。


「あんたまさか!?」


 ジールが感づいた事は、護達が向かう地獄の階段でコキュートスが放った刺客がいる事。すぐに助けに行こうとしたがコキュートスに行く手を阻まれる。


「どこへ行く? もう少しわらわと遊ぼうではないか」


 時間がないというのに、この街の火災もジールの部下が気付き、消火に当たっているはずだから心配はないと思うが、それよりもコキュートスだ。


「左から煉獄の炎、右から凍てつく冷気」


 コキュートスの両手から炎の球体と冷気の球体が現れ、それを両手で合わせると球体が一つの塊となり大きな竜巻を発生させた。


「どうじゃ? 炎と冷気の合体技は?」


「くっ........」


 熱さと寒さが同時に襲ってくる。まるで液体窒素を浴びたような痛みと冷たさがジールを襲う。


「白銀の龍よ!」


 今度はジールの手から大きな白銀の龍が飛び出し、コキユートスに向かって行く。大きな口を開け全てを喰らいつくすかのように。


「せいぜい喰われないようになさい!」


「こ、こしゃくな.........ぐはっ!」


 白銀の龍がコキュートスの胸元を喰らい、致命傷とはいかないが手ごたえを感じた。とは言えルシファーの力を取り込み、パワーアップしたコキユートスにはこれくらいでは怯まない。


「お主も今ので大分力を使ったのでは? 息があがっておるぞ」


「はぁはぁ........あんたもね」


「そうかもな......じゃがこれで終わりじゃ!」


 冷気を最大限まで高め、ジブリール内の大気が震え、一気に解放する。さすがのジールもここまでか。


「闇をも振り祓う大いなる光よ、聖なる審判、神の鉄槌を! シャイニングフレア!!」


 もうだめかと思いきや、天界から伊織が光の書を連れて馳せ参じる。


「あれがコキユートスか.......伊織ちゃんあいつやばいよ!」


「そうね、ハチベエさんでも私達がやらないと人間界が」


「小娘! どこに隠れていたと思えば、こんな隠し玉を」


 伊織のシャイニングフレアが、コキュートスに致命傷寸前まで追い詰める。コキュートスも引き際を余儀なくされる。


「流石に二対一では分が悪い.......わらわは退く! 覚えておけ小娘! わらわ魔界の王となり、再び合いまみえようぞ」


「伊織! 助かったわ!」


「ジール様無事ですか? 何とか光の書はゲットしました。後天界からラファエルさんが来て街の消火に手を貸してくれてます」


「そう......良かったわ.....」


「伊織無事か?」


 程なくしてラファエルがやってくる。コキュートスを退け、街の火災も無事に鎮火したようだ。気になるのは魔界へ向かう護達とコキユートスの魔界の王宣言。


「二人とも来て早々悪いけど、急いで神里君とガブリエルの後を追って! 彼には魔界で闇の書を取ってきてもらうように言ったのよ!」


 ガブリエルの無事を確認できて安堵する二人、喜んでる暇もなく護達の後を追う。


「二人とも頼んだわよ....」


 二人を見送り、体力の回復に務めるジール。


「ここが地獄の階段......いかにもてやつ?」


「護、アタシが付いているぞ! キュピッ」


 この非常時に何をやっている? この天使は。それよりも周りが妙に静かだ、不気味なくらいに静かすぎる。


「おい! ま、護!」


「ん? や、野郎!」


 地獄の階段で二人を待ち受けていたのは冥界の番人ケルベロス。コキユートスが言っていた余興とはこの事だった。
























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