第57話 修業開始

 煙草を加え右手には何故か竹刀を持ち、どっしりと構えるシロ。このウサギそんなに強かったのか? と疑う護。


「さて、あの時の恨み晴らさせて貰うぜ!」


 昇級試験の時に卓球対決をし、護にコテンパにされた事をまだ根に持っていた。案外執念深いウサギだな。


「早速だが、始めるぞ」


 どこからかピッチングマシンを取り出し、ボールに火を付け、球速百五十キロは出る火の玉ボールを護に向けて何発も発射する。


「オラオラ! 避けねーと焼け死ぬぜ!」


「お前、絶対俺を殺す気だろ?」


 間一髪避けながら、休む間も与えて貰えずに火の玉ボールは飛び散る。一歩間違えば、火傷どころじゃ済まなくなる。


「テメーには人間界を救って貰わないと困るんだよ! 人間界が氷付いた今、スマホは使えねーし、千聖ちゃんとラブラブイベントが出来ねーじゃねーか!」


「目的はそっちか」


 護同様、スマホの恋愛シミュレーションゲームをやっているシロ。お互い推しメンは違うが、護にとっても紫音とラブラブイベントが出来ないのは困る。


「我が魔力剣となりて具現せよ!」


 魔力を具現化させ、魔力の剣を発動。直ぐ様、野球のバッティングフォームに切り替えて、火の玉ボールを打ち返し始めた。


「さすがに目が慣れたぜ! バッティングセンターで遊んだ事が活きるとは」


 護はプロ野球選手の穂高ほたかのバッティングフォームを真似て、豪快にスイング。

 プロ野球選手穂高とは、今売り出し中のホームランバッターで、本塁打王を獲得した選手。


「テメー! アチィじゃねーかコノヤロー!」


 護の打球はライナー制の当たりで、シロを目掛けて打ち返していた。


「やられたらやり返す!」


 もう修行と言うか、ただの喧嘩と化している。お互いの推しメンの悪口を言い合っては、火の玉ボールが飛んで行き、護はそれを打ち返すの繰り返し。


「もう頭に来たぞー!」


 シロが特大の火の玉を作り出し、護に目掛けて投げつけた。


「おいっ!」


 身の危険を感じ、すぐさま護はアイスジャベリンを発動。軌道が以前より速さが増している。特大火の玉はすぐに氷付いた。


「あら? もしかして......」


「ようやく気付いたか? これは魔法のスピードを上げるトレーニングだ!」


 ただ因縁を持ち、護を攻撃したわけではなかった。このウサギ侮れない。


「時間がねーから、次の工程に行くぞ!」


 今度は何をするかと思えば、護の体にロープを巻き付け身動き取れない様にグルグルと縛り上げた。


「ウサギさん、ウサギさん、動けないんですけど......」


「当たり前だろ! 今度は防御力アップの修業だ!」


 そう言って竹刀を構え、護に殴りかかった。


「痛い痛い! 何すんじゃお前!」


「ちゃんと魔力を集中させろよ! でないと死ぬぜ!」


「ふざけんなー!」


 次は動けない体で魔力を出せと言い放つ。簡単に言えば魔力によって作られた防御壁を作りダメージを軽減する。伊織の使う防御魔法とはちょっと違う。


 魔力で防御壁を作れと言われても、D級魔法使いの護に何が出来る? 今まではズル賢さと伊織の協力で何とかなった。伊織様助けて......そう言いたいくらいだ。


「オラオラ! どうした? テメー散々千聖ちゃんを馬鹿にしたよな?」


 これまでの恨みを晴らすが如く、護に罵声を浴びせながら竹刀を振り回すシロ。護の体があざになっていく。自分だって散々紫音ちゃんを馬鹿にしたくせに....。


「コノヤロー、ボコボコ殴りやがって!」


「本当マジでお前死ぬぞ」


「.......しろ」


「あっ?」


「いい加減にしろ! このウサギ!」


 怒り爆発! 護の体に下から電流が流れだす。次第に電流は放電し始め触る者すべてを感電させる。護はついに魔力の防御壁を作り出した。


「うぎぃーーー! し、しびれる!」


「コノヤロー! よくも散々人をサンドバックにしてくれたな!」


 ロープが解け、護の体の周りの電流が球体となり、バチバチと音を立てる。


「ま、待て!話し合おう! 俺達は同士じゃないか!」


「はぁ? 聞こえねーな! 食らえ! サンダーボール!」


 物凄いスピードで、サンダーボールがシロに飛んでいく。シロも試験管だけあって何とか回避。それでも少しビビッてしまい、失禁してしまった。


「疲れた.........」


 護もその場で倒れ寝込んでしまった。


「魔力は上がったようね」


「あぁ。だがジール、正直まだまだ足りねぇ勝算はあるのか?」


「わからないわシロ。これは人間界だけじゃなく、天界、冥界、魔界も含めた戦いになりそうよ」


 寝ている護をよそに、今後の事を話すジールとシロ。この先護が向かう魔界には何が待ち受けてるのだろうか。


     ***


「久しぶりの魔界じゃ、空気がうまいのぉ」


 コキュートスは魔界に来ていた。一体何のために? 漆黒の空と紫かかった海、日の光もないこの魔界。異世界交流法が作られてから魔界は至って平和だった。極一部を除いては。


「魔界の監獄こんな物不要じゃのぉ」


 極悪魔族が収容されている魔界の監獄。コキュートスは今そこに足を踏み入れた。


「な、何だ貴様?」


「どけっ! 雑魚に用はない」


 門番を一掃し、監獄の内部に入る。真っ暗な室内、ズラリと並ぶ鉄格子。コキュートスは何かを物色する様に監獄内を歩く。


「ルシファー久しぶりじゃのぉ」


「コキュートスか? 死んだと聞いたが?」


 コキュートスが探していた相手、ルシファー。かつて、先代魔界の王の意思に背いた者であったが先代魔界の王に倒され、何十年もしくは何百年と長い間魔界の監獄にて余生を過ごしていた。それはコキュートスも同じく、先代魔界の王の決めた異世界交流法が気に入らず、ルシファーと共に反旗を翻した一人。コキュートスは命からがら逃げ出し身を潜め力を蓄えていた。


「確かに一度倒されて、冥界でひと暴れしてきたわ」


「それで俺に何の用だ?」


「わらわは魔界の王、いや、女王となり魔界を統治し、天界、冥界、ジブリールをめちゃくちゃにする。既に人間界はわらわの手に落ちたしのぉ」


「お前がか? 笑わせるな」


「力を貸さぬか? そしたらここから出してやるぞ」


 魔界の王宣言をしたコキュートス。ルシファーも自分の配下に置こうと考え出す。だが、ルシファーは黙ったままであった。


「俺はもう、疲れた……もう一度戦えるなら行きたいが、お前の軍門に下るのはごめんだ。だから、俺を殺せ!」


 重たい口を開くルシファー。長い監獄生活により、生きるのはどうでも良くなっていた。そしてコキュートスの下で働くのもプライドが許さなかった。


「そうかえ? なら、望み通りにしてくれるわ!」


 コキュートスが手刀でルシファーの心臓を貫き、ルシファーは生き絶えた。ルシファーの体からは光が放たれ、コキュートスに吸収された。


「クックックッ! わらわは手に入れたルシファーの力を! 暗黒の力と煉獄の力を」


 コキュートスの手から煉獄の炎が現れ、魔界の監獄が灼熱に燃え盛る。


「さて、ケルベロス、ジブリールに行こうかの」















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