第56話 復活コキュートス

「あの時確かに倒したはずなのに、何で?」


「ホホホホッ、確かにわらわは一度は倒された。じゃがのぉ、冥界でわらわは魂だけとなったが、お主らに復讐するため冥界で復活のチャンスを待ちながら力を蓄えたのよ!」


 復讐だけなら、護達に直接来ればいいのに、何故回りくどい事をする? 人間界を氷の世界に閉ざしてまでやる事か?


 高笑いをしながら、コキュートスの手から光が溢れだす。


「何故蘇ったか? それはこいつを見るがいい」


 溢れだした光から、頭が三つの犬が現れた。正真正銘、ハーデスが可愛がっているペットのケルベロスだった。


「神里君、あれって?」


「ケルベロスだね……」


「こやつは、冥界の番人。こやつが冥界の治安維持をしておるのじゃよ、こやつが居なくなれば冥界はどうなるか? もうわかるじゃろ?」


 ケルベロスが居なくなれば、冥界は混乱し、極悪な魔族がはびこり出す。魔界や天界、そして人間界も混沌の世界となってしまう。

 当然、護達はそんな事は知らない。


「わらわの肉体も何故蘇ったか? 本来なら、魂だけしか残らないのに」


 今度は復活した理由を話し出す。

 確かに冥界へ行けば、肉体は残らず魂だけが残る。


「このケルベロスはのぉ、冥界の治安維持だけでなく、冥界の貴重な物、蘇生樹の木を守っておるのじゃ。蘇生樹の雫を口にするとのぉ、どんな死者も蘇らせる不思議な木なのじゃよ」


「そう言う事か……」


 護は察知した。冥界で復活のチャンスを伺い何らかの方法でケルベロスを自分の手中に収め、冥界にあるコキュートスが言う蘇生樹の雫を奪い復活したと。


「ただ、復讐するだけではつまらんからのぉ、お主ら二人にとことん絶望を与えてくれよぉ」


「その見せしめに、人間界をこんな目に? ひどい!」


「何じゃ? 小娘不満か?」


 不満も何も、人間界丸々氷の世界に閉ざされては怒りと殺意しか沸いて来ない。


「さぁて、そろそろお主らにも死んでもらうとするかのぉ」


 護の部屋全体に強烈な冷気が流れ込んでくる。

 伊織のマジックシールドで何とか凌いでいるが、これも時間の問題。

 とにかく逃げるしかない。護の部屋のクローゼットはジブリールと繋がっているため、伊織がここを離れようと言った言葉、それはジブリールに避難する事であった。


「神里君、隙を突いてクローゼットを開けて」


 伊織がそっと護に耳打ちする。


「何を企んでおるか知らないが、無駄な事よ」


 冷気が次第に強くなっていく、立っているのもやっとだ。


「えーいっ! もうどうにでもなれ!」


 クローゼットの扉を開き、急ぎ伊織の手を掴みクローゼットの中へ。とにかく今は逃げるしかない。


「チッ逃げおったか……さて、わらわも魔界へ野暮用を済ますとするかのぉ、あいつらなんぞ、いつでも殺せるしのぉ」


     ***


 護達がコキュートスと遭遇した頃、冥界では。


「ポチ、タマ、マロが居ないとなると、蘇生樹の木はどうなった?」


「蘇生樹自体は無事ですが、何百年かけて溜まった蘇生樹の雫の器が空っぽになってます!」


「な、なんじゃとー!!」


 蘇生樹の木、根から養分を吸収。養分は葉っぱに運搬され、葉っぱには一滴の水ができあがる。その雫を約、一リットル入る器に何百年かけて溜め込む冥界の貴重な宝。それをあっさりと盗まれてしまった。


「間違いないわ。これは魔族の仕業よ!」


 ジールが苦虫を噛み潰したような顔で、ポツリと一言。


「ハーデス様、人間界から魂が溢れるばかりに、冥界にやって来ました」


「な、なんじゃと! 人間界で一体何が?」


 ジールが水晶玉を取り出し、人間界の様子を伺う。そこは氷に閉ざされた氷の世界にジールは青ざめた。


「これは間違いないわ! コキュートスが復活したのよ! こうしちゃいられないわ。ジブリールに戻らなきゃ、神里君達頼むから生きててよ」


 不安を背負いながら、ジブリールへ帰還するジール。まさか、コキュートスが復活するなんて。


「二人共、良かったわ。無事ね」


「ジール様、私……」


「皆まで言わなくていいわよ、コキュートスが復活したのね」


 何も出来なかった伊織と護。ただ悔しさともどかしさが葛藤していた。

 あの時、コキュートスから放たれた冷気は、以前にも増して威力が格段に上がっていた。


「このままじゃ、あなた達コキュートスに勝てないわね……幸いまだジブリールは落ちてないし、動くなら今か……」


 なにやら、コキュートス対策を考え出したジール。先ずは護のパワーアップと以前タルタロスを倒した二冊の本、再びゴッドフレアで対抗するしかないと。


「伊織、急いで天界へ行ってくれるかしら?」


「天界ですか? 一体何を?」


「行き方は私の部下が案内するわ! 今一度光の本が必要なの!」


 伊織を天界へ赴かせ、光の本の調達を命じるジール。伊織は人間界を救うため、二つ返事で承諾し天界へ。


「神里君、ちょっとだけ離れちゃうけど大丈夫?」


「な、何とかなるんじゃないかな?」


 そうは言っても、ちょっと心細い。今まで伊織が居たから何とかここまでやれた。 


「あっ、宮本さん」


「何かな?」


「い、いや何でもない……気をつけて」


「君もね!」


 何かこのまま離れたら、二度と会えない気がする。そう言いたかった護。天界へ赴く伊織の後ろ姿を目に焼き付けよう。


「神里君、先ずは人間界の状況を説明するわね。人間界は完全に氷の世界と化したわ。人間達は氷漬けになり仮死状態なのよ。それで人間達の魂は今、冥界に集まっているわ」


「マジかよ……」


「今はハーデスの老骨が対応してしている筈だから心配しないで。コキュートスを倒せば人間界は元に戻るから」


 少し希望が出てきた。人間界はまだ死滅したわけではない。伊織が光の本を取りに行ったとしても勝算はあるのだろうか。


「君には先ず、修業をしてもらうわ! 短時間だけど少しでも君の魔力を底上げするの。その後は魔界に行って闇の本を取りに行ってもらうわ」


「それって、まさか? あれをやるのか?」


 護はジールの考えを見抜いた。再びゴッドフレアを使うのかと。闇の本を取りに行くと言う事はフェニアも一緒に眠っている。


「君の修行の相手はこの子よ!」


 指をパチンと鳴らすと、見た事のあるウサギが。


「げっ! お前は?」


「久しぶりだな! 護」


 そのウサギは以前、護の昇級試験の時の試験官のシロであった。















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