第45話 ドレインボイス


 日が沈み、いよいよ神魔アリサのライブまでのカウントダウンが始まる。

 まだか、まだかと観客達はステージの幕開けを待っている。


 控え室では、アリサがライブの準備し、出番を待っていた。ネウロに脅されながら、モヤモヤが晴れない。


「人間の生気を集めて何を……」


 母を助けるため、ネウロに加担はしたものの、ネウロの目的までは深入りしないでいた。


「アリサさん、そろそろ時間です準備をお願いします」


「はい……」


 観客の皆ごめんなさい……と、ライブは成功させたい、犠牲になる事をしてごめんなさいと、何度も胸の中でそう言い聞かす。


 照明が暗くなり、いよいよライブスタート。

 観客のボルテージは、最高点に到達し、ガブリエルもハイテンション。


 会場内に響くサウンド、耳が痛くなるくらい響くドラム音、着々とライブは進行し、終わりが近くなっていた。


「皆……無事みたいね」


 何事もなかったかの様に、ライブは終わり、ステージ裏に引き返すアリサ、観客の様子を見ながら、ただの思い過ごしであって欲しい……ネウロから受け取ったマイクを見つめながら祈るばかり。


「何とかなったかしら……えっ?」


 時が止まり、マイクが鮮血の赤に染まり出し、会場内に赤い霧が立ち込める。

 さっきまで、盛り上がっていた会場が嘘の様に静まり帰った。


「こ、これは……」


 まるで毒ガスを浴びせられたかの様に、三万人近くいた観客が次々と倒れ出す。そして、アリサの手に持っていたマイクに白い光が吸収されていく。


「まさか、これは人間の生気?」


 スタッフが気付き、救急車を要請。

 だが、人手が足りなすぎる。


「ど、どうしよう……」


「これは、悪の臭いが」


「あ、あなたは!」


 観客の中に丈夫な子が一人、ライブを見ていたガブリエルであった。


「あなたは、昼間大食いしてた子?」 


「ん? あわわわわ! アリサちゃん!」


 アリサに声をかけられ、慌てふためくガブリエル。

 だが、事態を察知し直ぐに冷静になる。


「あなたは大丈夫なの?」


「何か知っているのか?」


 厳しい表情で、アリサに問いかけるガブリエル。救急車を呼んだところで、この人数を処理仕切れないと判断し、周囲に結界を張る。


「人間達に、アタシ達の存在を知られると厄介だからな。それに、こいつらは死んだわけじゃない」


「あなたは天使?」


「そうだぞ、アタシはガブリエル。アリサちゃんが魔族だって事は知っている」


「そうなんですか」


 喋りながら、何か魔方陣を描くガブリエル。


「大いなる福音よ、迷える子羊に祝福を」


 手を組み、魔方陣から光が溢れ、赤い霧が吹き飛ぶ。倒れていた観客は、徐々に回復し何事もなかった様に、会場を後にする。

 スタッフが要請した救急車も到着した時には、何事もなく、引き返した。


「アリサちゃんこれは一体?」


「おや? 上手く行ったと思ったら、天使が居ますねぇ」


 手に顎を当て、ネウロが空間から姿を表した。


「アリサさん、話があります。人間達には退場願いましょう」


 指をパチンと鳴らすと、スタッフの人間達が次々と倒れ出す。


「さてと……先ずはアリサさん、そのマイクを私に渡してもらえますか?」


 おぞましく、ずる賢い、そんなネウロに今歯向かったら、人間界に被害が及ぼす……それだけは、絶対に阻止しないと。


「おいっ! 何なんだ? お前は」


「申し遅れました。天界の天使様。私は魔界の魔族ネウロと申します。魔界の秘密貿易商でございます」


 悠々自己紹介をするネウロ

 直ぐ様、アリサからマイクを取り上げた。


「お前! 何をする?」


 食ってかかるガブリエル、直ぐにネウロが指をパチンと鳴らし、ガブリエルの頭上に輪が降ってくる。その輪はガブリエルを縛り付けた。


「ちょっと大人しくして下さいね」


「テ、テメー、な、何しやがった? ぐぎぎぎっ、取れねー」


「抵抗しても無駄ですよ。これは魔界の呪縛、つまり、相容れない天界の住人達には持ってこいのアイテム」


 抵抗する度に、ガブリエルの体を縛り付ける魔界の呪縛。叫び、もがき苦しむガブリエル。

 ……ラファエルの奴を連れてくるべきだったと、後悔が生まれる。


「あんまり、聞きたくないけど、ネウロ、あなたは人間達をどうするの?」


 重たい口を開き、アリサが問いかける。


「決まっていますよ、この私が人間界を制圧するのです。そう、人形の様に私の掌で踊るリアルマリオネットを作るのです」


 恐ろしい発言をしたネウロ。

 母を助けるため、ネウロに加担したアリサだが、こんな計画を持っていたとは露知らず。


「あー、つまりはあれか? お前魔界では弱い部類だろ? だから、逃げて人間界を制圧し自分の強さを魔界に示したいのか?」


「口の減らない天使ですね」


 魔界の呪縛が更にガブリエルを縛り付ける。

 強い締め付けにガブリエルの痛みが更に増す。


「あまり、ナメた口を聞くと次は殺します」


「ネウロ、この子は無関係よ!」


 アリサが咄嗟にガブリエルをかばう。


「アリサさん、この子を助けたい、母も助けたい、もうおわかりですよね?」


「えぇ……だから、この子を解放して」


「よろしい。それでは、また来ます。でも、またふざけた事をされては困りますから、保険を掛けさせてもらいますよ」


 ネウロの掌から紋様が現れ、そのままアリサの体に植え付けられた。


「魔界アイテム、悪魔のデモンズシール、妙な真似をしたら、印が発動し、貴方を傷つけます。アイドルを続けたいですよね?」


 笑みを浮かべ、ネウロは再び姿をくらました。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る