第44話 魔族アイドルアリサちゃん2

「お世話になります。


「お前の様な妹を持った覚えはありません!」


 諦めて家に電話、とりあえずホームステイに来る留学生と誤魔化す。

 天使だと知れたら、あのバカ親は何をしでかすかわかったものではない。


「よかったよかった。神魔アリサは魔族だけど、アタシは魔族の中でも好きな分類だ」


「「知ってたのか」」


「じゃあ、神里君よろしくね」


 伊織と別れ、ガブリエルと二人きり。

 何をされるのやら……。

 それよりも、天使と魔族は相入れないかと思ったら、そうでもないようだ。

 これも、異世界交流法のおかげか? 


「ただいま」


「あ、お兄ちゃんお帰り……金髪だぁぁぁっ、可愛い」


「よ、よせよ。照れるじゃねーか」


 完全に莉央と打ち解けたガブリエル。

 良いのか悪いのか、さっぱりである。

 ガブリエルの寝床は莉央と一緒となった。

 そこまでは良かった。

 護の部屋に乱入し、ゲームをやりたい放題。


「おいっ護、次のゲームは? 後、ポテチはコンソメ味が好きだ」


「お前、態度でかくないか? 勝手に人のポテチ開けてクレーム付けるな!」


 我が家の様にくつろぐガブリエル。

 ふてぶてしい態度に、護の眉間に血管が浮き出し出す。

 ………いっそ、捨ててやろうかと思った。


「アリサちゃんのライブはいつ?」


「明日だ、楽しみだなぁ」


 サイリウムを持ち、振り付けの練習をするガブリエル。遠足でウキウキしている子供の様だ。


「護も、明日行かないか?」


「チケットないから、無理、ライブ会場までは案内してやるよ」


 何とも、優しい光景。

 食事も母が奮発し、特上寿司に宅配ピザ、惣菜オードブル。流石、息子を一億で売った親、やる事が半端ない。


「テメーバカリエル、その大トロ俺がキープしたんだぞ」


「お前はいつでも食えるだろ? だからアタシに譲れ!」


「ほらほら、喧嘩しないの。また出前取るから」


 直ぐ様、特上寿司を出前注文する母。

 ………底が知れない。


「フッフッフッ。バカリエル、俺の胃袋はゴッドホールだ」


「アタシの胃袋も、ヘヴンズホールだぞ」


 いつの間にか、護とガブリエルの大食い対決が。


 翌日も、ライブ会場へ行くため、伊織を呼び出し三人でライブまで時間をもて余す。


「お昼どうしようか?」


「アタシ、あれがいいな」


 見かけたラーメン屋、張り紙にデカ盛りチャレンジ、三十分以内に完食したら無料と書いてあった。


「どっちが真の大食い《神》か決めようじゃねーか。護」


「いいだろう。俺のゴッドホールに勝ってみろや!」


「おーい……」



 やむを得ず二人に付き合う伊織。

 二人の火花がぶつかり合う。もう、勝手にしろと言わんばかりに、伊織は普通のメニューを注文。


「凄いですね」


 伊織の横に居た、客が伊織に相づちを入れた。

 ニット帽に、ふわりとした栗色の髪をなびかせた女性が一人でラーメンを食している。


「そうですね。あの二人は似た者同士ですし」


「でも、すごい、私見ているだけでお腹いっぱい」


 この女性から、不思議な違和感を感じた。

 ……誰かに似ている。

 そう考えながら、護とガブリエルの大食い対決を見守る。


「おいっ護、そろそろギブアップだろ?」


「お前こそ」


「そんな口をきいていいのか?」


 胸元から、護の二次元嫁の紫音の画像を見せびらかすガブリエル。

 護の箸が止まってしまった。


「こんな趣味があったとはな。皆に言い振らされたくなかったら、負けを認めろ」


「ぐぬぬっ」


 背に腹は変えられない、自分の秘密を公衆の面前でさらけ出すのはマイナスだ。


「暴食天使、負けを認めよう。だが、いいのか? このデカ盛りチャレンジ失敗すると失敗料金、五千円だ」


「な、なにぃ、そうだったのか?」


「アリサちゃんのライブ会場で買うグッズはついつい、買っちゃうよな? ここでお金使うの勿体ないよな?」


「うっ……」


 巧みな護の話術に、ガブリエルが黙り出す。

 何を話しているのかわからないが、相変わらず似た者同士だなと、伊織は思う。


 勝負は引き分けと言う事で、お互いにデカ盛りラーメンをスープまで飲み干し完食。

 伊織の隣にいた女性を始め、店の客全員が拍手喝采。


「凄いですねー、あっ! そろそろ時間だわ行かなきゃ」


「あっはい。それでは……えっ!」


 女性の横顔を見て伊織は気づいた。

 感じた違和感、それは確信に変わる。

 その女性が、この後ライブをやる神魔アリサだったと。


「二人は気づいてないし、黙っていよう」


「うぇっぷ……護のゴッドホール中々だったぞ」


「流石、天使、お前の天界の胃袋ヘヴンズホールも捨てた物じゃないな……うっぷ」


 喋るのにやっとの二人、気を取り直してライブ会場へ足を運ぶ。


 開演まで後、二時間余り。

 既に入場を待つ人の群れ。


「護、伊織、ありがとな! アタシは物販買って並んでるから」


「じゃあ、終わったら迎えに行くからね」


「じゃっ、戦場人混みから、生きて帰ってこいよ」



 グッと親指を立て、ガブリエルを送り出す護。それに応えるかのように、親指を立てて返すガブリエル。

 さっきの大食いで、二人に微かな友情が芽生えようと、するとか、しないとか。


 ***


「急がないと、リハーサル遅れる。マネージャー怒ってるかな? スマホも電池切れてツイてないなぁ」


 護達が大食いをしていたラーメン屋を後に、急いでライブ会場に戻るアリサ。

 タクシーを使えば早いのだが、休憩の合間にマネージャーに黙って散歩をし、お腹が空いていたのでラーメンを食べていた。


「見つけましたよ。アリサさん」


「ネウロ!」


 アリサの前を遮る男、ネウロ。

 明らかに、人間ではない顔立ちと、尖った耳。


「どいて!! 時間がないの!」


「すぐ、終わりますから」


 すっと手からマイクを差し出すネウロ。

 一見何の変わり映えのないマイク。


「今、あなたがこうしているのも、誰のおかげですか?」


「.....」


 アリサの都合など無視し、タバコをくわえ、ネウロが淡々としゃべり出す。


「不治の病の母親を助けるため、魔界霊薬が必要でしたよね?」


「えぇ、薬を手に入れる交換条件として、あなたに加担した」


「それなら、話は早い。このマイクはドレインボイスと言って、その声を聞いた人間は生気を吸い取られる。あなたのライブの邪魔はしません、これで人間共の生気を集めて下さい」


 母を助けるため、止むを得ずマイクを手に取るアリサ。


 薄笑いを浮かべ、その場を去ったネウロ。

 本当はこんな事したくないのに、それでも待っているファンのために、ライブを成功しないといけない。悔しさともどかしさが葛藤していた。


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